盛り場にジングルベルが鳴り響く年の瀬、与野党対立で混乱した臨時国会が10日、会期を延長せずに閉幕した。土壇場までもめた改正出入国管理法をはじめ生活関連の重要法案が軒並み成立した一方、安倍晋三首相が強い思い入れで自民党に指示した憲法改正のための自民党改憲案の国会提示は、年明けの通常国会以降に持ち越した。
首相の悲願達成へ落とし穴となったのは、皮肉にも自民党総裁選3選後の党・内閣人事で首相が敷いた「改憲シフト」だった。首相は、与野党の改憲協議の舞台となる衆参両院憲法審査会を動かすため、要所に最側近を配置した。それが立憲民主党など主要野党の反発を呼び、側近の失言も追い打ちとなって「臨時国会での改憲戦略の誤算」(自民国対)につながった。
■改憲発議の「断念宣言」
首相は臨時国会会期末の10日夕、首相官邸で記者会見した。その中で、改憲に関して首相が昨年5月3日の憲法記念日に「2020年を新憲法が施行される年にしたい」と表明したことを問われると、「今もその気持ちに変わりはない」と述べた。その一方、国会での改憲発議など施行までの段取りについては「国会次第だ。予断を持つことはできない」と踏み込んだ発言を避けた。
さらに、「最終的に決めるのは国民の皆様だという意識を強く持つべきだ」と指摘したうえで、「まずは具体的な改正案が示され、国民的な議論が深められることが肝要で、与野党といった政治的立場を超えて、できるだけ幅広い合意が得られることを期待している」と淡々とした表情で語った。永田町では「衆参両院での改憲勢力3分の2を背景とした次期通常国会での改憲発議の”断念宣言”」(自民幹部)との受け止めが大勢だ。
自民党は首相の意向を受け、審査会での党改憲案提示を目指してきたが、改正出入国管理法の審議での与野党が激しく対立。審査会の森英介会長(自民)が審査会開催を強行して主要野党が猛反発したこともあり、最終的に臨時国会での提示断念を余儀なくされた。
首相は9月の自民党総裁選で3選を果たすと、党総裁として臨時国会での自民党改憲案提示に改めて強い意欲を示した。その上で、10月2日に断行した党・内閣人事では同党の憲法関係の陣容も一新し、党改憲案の取りまとめを指揮する憲法改正推進本部長に下村博文元文科相、同案を党議決定する総務会トップの総務会長に加藤勝信前厚生労働相を起用。衆院憲法審査会の与党筆頭幹事には新藤義孝元総務相を充てた。3氏とも首相の最側近の有力議員で、党内では「中央突破の布陣」(細田派幹部)との見方が広がった。
ただ、この改憲シフトは野党の警戒心を呼び起こし、「安倍政権での改憲には反対」と叫ぶ立憲民主党などは審査会の開催自体に抵抗した。これに対し、下村氏が11月上旬にテレビ番組で「野党は職場放棄」と批判したことで事態は悪化。野党との交渉で苛立った新藤氏が主導し、11月29日に主要野党6党派が欠席したまま衆院審査会の開催に踏み切ったことで対立は決定的となった。
■首相側近人事の「手痛い誤算」
衆院憲法審査会は今年、計5回開催されたが、実質審議はゼロ。参院憲法審査会も2月に自由討議を1回行っただけだ。だからこそ首相は「改憲シフト」で論議促進を狙ったわけだが、党内では下村、加藤、新藤の3氏が「憲法問題の素人」(自民幹部)とみられていることに加え、「憲法論議での野党とパイプもほとんどなかった」(自民国対)ことが「手痛い誤算」(同)につながった。
戦犯の1人とされた下村氏は8日の地方講演で、「日本だけが一度も改憲をしていない」と指摘した上で「世界からみたら護憲は思考停止だ。現状維持で何も変えようとしない」と護憲派を改めて批判した。首相最側近の萩生田光一自民党幹事長代行は9日のNHK討論番組で、来年の通常国会での憲法改正論議について「われわれは4項目を提案する」と述べ、改めて「自衛隊明記」を軸とする党改憲案の国会提示を目指す考えを力説した。
番組の中で萩生田氏が、憲法審査会などでの自民党の対応について「やや不備があった。おわび申し上げたい」と陳謝したのに対し、主要野党は「与野党合意でやってきた歴史をつぶして一線を越えた」(立憲民主)など攻撃した。萩生田氏とコンビを組む下村氏は「来年こそ国会での本格論議を」と意気込むが、与党内では「首相側近が力めば力むだけ、与野党本格協議は遠のく」(自民長老)との冷ややかな見方が広がっている。
首相サイドが「誤算が誤算を生んだ」(官邸筋)をうなだれる改憲戦略だが、最大の泣き所は与党・公明党の抵抗だ。同党の山口那津男代表はかねてから「国民的合意が得られる状況とは思えない」と首相の前のめりの姿勢をけん制し、「自民党が改憲案を提示するには、野党も参加できる環境を与党が整えるべきだ」と指摘している。
改憲協議での公明党責任者の北側一雄憲法調査会長は「自民党としてこういうイメージを持っていると発言することを駄目だという理由が私には理解できない」と野党の対応も批判するが、同党内では「通常国会での憲法論議に同調すると、参院選で支持者の反発を招く。すべては参院選後にすべきだ」(同党幹部)との声が支配的だ。
こうした状況については「首相も十分理解している」(官邸筋)とみられている。臨時国会での与野党改憲論議が進まないことについて、首相自身がメディア各社幹部とのオフレコ懇談で「簡単に進むとは思っていない」などと弱音を吐いたとされる。首相の「政界の師」である小泉純一郎、森喜朗両元首相も、側近などに「安倍政権での改憲などできっこない」と突き放しているといわれる。
来年の政治日程をみると、春から夏にかけて、統一地方選、皇位継承、大阪でのG20首脳会議、参院選など、内外の重要行事が目白押しだ。1月下旬に召集予定の通常国会でも、選挙を意識して与野党が激突する場面が相次ぐと思われる。それだけに、「会期中に自民党改憲案を提示しても、実質審議に入れる保証はない」(自民国対)というのが実態だ。このため、公明党の求める「改憲論議は参院選後に」というのが永田町の常識となりつつある。
ただ、参院選で自民党が議席を減らし、大方の予想通り「改憲勢力3分の2」が消滅した場合、主要野党の理解と協力が得られない限り「改憲発議」は困難となる。首相の後見人を自認する麻生太郎副総理兼財務相は「参議院は我々にとって極めて大きな要素だ。なぜなら、この参議院の3分の2という議席がある、なしで、憲法(改正)に直接影響するからだ」と危機感を露わにしている。しかし、国会での自民党の数の横暴が続く限り、「主要野党の選挙共闘態勢が固まって、自民苦戦につながる」(自民選対)のは避けられそうもない。
首相は10月中旬に行ったロシアのプーチン大統領との首脳会談で、北方領土問題と日ロ平和条約交渉の「早期合意」に大きく踏み出した。永田町では「国会での改憲論議が行き詰まった時期と重なる」(自由党幹部)との指摘がある。自民党総裁3選で史上最長政権への道が開けた首相にとって、最重要課題となる政権のレガシー作りを「改憲から日ロへシフトさせた」(自民幹部)という見立てだ。
■安倍首相の初夢は「日ロ合意」?
多くのメディアは、首相会見での発言を「首相、2020年に改正憲法強調」(読売新聞)などと前向きに報じたが、与党内では「参院選もにらみ、首相を支持する保守派の離反を招かないため、お得意の“やってる感”をアピールしただけ」(公明幹部)との声も少なくない。来年の干支(えと)の己亥(つちのとい)は「足元を固めて次の段階を目指す年」という意味だが、現状をみる限り改憲実現への足元は固まりそうもない。
首相は例年通り、年末年始を都内のホテルで静養するとみられているが、初日の出の前にみる初夢は「安倍改憲ではなく、日ロ合意になる」(官邸筋)との見方も広がっている。
安倍首相がいくら前のめりに「憲法改正」を叫んでも一人で出来る訳ではない。戦後政治の一大改革である。当然に国民全てを交えた中での合意事項での改正が必要だ! 安倍1強で首相が牽引してるに過ぎない一面にも見える。その証が側近の萩生田光一自民党幹事長代行や菅官房長官がその言葉に比し行動に見えないのも改憲に消極的と見えるのかも知れない。またキーを握る平和の党?(笑)公明党が積極的でないのも一因と見え、例え強行突破しても国民投票で「憲法改正」可決の可能性が低いと安倍首相自身が悟ったからに他ならない。何でも出来るしやって来たとのバカな宰相の自業自得になるのがオチである。