黒田東彦総裁の続投が、市場の予想通り、事実上決まった。政府が2018年2月16日、国会に提示した日銀の正副総裁人事案は、黒田東彦総裁を再任、副総裁には日銀生え抜きの雨宮正佳理事と、リフレ派の論客として知られる若田部昌澄・早稲田大教授を充てるというものだった。金融市場の安定とさらなる景気押し上げを狙い、現行路線の継続を意識した人事といえるが、2%の物価上昇目標の達成は相変わらず遠く、新体制の前途は多難だ。
■副総裁枠めぐる攻防
トライアングルの頂点である黒田氏の続投は、政府内で早い段階から固まっていた。安倍晋三首相は、アベノミクスの「第1の矢」である異次元緩和で景気拡大を実現したとして、黒田氏の手腕を高く評価している。ここに来てサプライズ交代となれば、ただでさえ米国発の株価急落で不安定化している市場が動揺する恐れがあるうえ、「アベノミクス失敗」を印象づけかねない。
そういう意味では、異次元緩和を実務面から支えてきた雨宮氏の昇格も、路線継続に不可欠の人事だったといえる。問題は、もう一つの副総裁枠だった。
安倍首相は、大量の資金供給でデフレ脱却が可能と主張する「リフレ派」を経済ブレーンとして重用してきた。現副総裁の岩田氏はその筆頭格だが、現在75歳という年齢や体調不良を理由に任期満了で退任したい意向を周囲に明かしていたため、後任が焦点となった。
候補として急浮上したのが、財務省出身の本田悦朗・駐スイス大使だった。安倍首相とは30年に及ぶ親交があり、第2次安倍政権発足後は内閣官房参与として、異次元緩和導入や消費税増税の延期など、政権の経済政策に深く関与してきた。
■緩和の副作用
ただ、財務省の非主流派を歩んだ本田氏の手腕は未知数で、政府・与党内では本田氏の登用案に懐疑的な声が多かった。それを押し切って抜擢すれば、国会で安倍首相に対する森友・加計問題の追及が続く中、野党からさらなる「お友達人事」批判が噴出するのは目に見えていた。
首相は結局、副総裁に本田氏と同じリフレ派の若田部氏を起用。「お友達人事」批判を封じるとともに、本田氏と同様に金融緩和に積極的な人材を据えることで、日銀に「大規模緩和を継続せよ」とのメッセージを送った形だ。足元では好調が続く世界経済だが、2019年ごろには景気後退局面に入る可能性が指摘されており、長期政権を見据える首相にとって、大規模緩和による景気下支えは欠かせないからだ。
しかし、大規模緩和が長期化し、超低金利が続く中、金融機関の業績悪化など緩和の副作用も積み上がっている。金融緩和を正常化する「出口」へ一足先に向かう米国では、金利や株価が激しく動き、市場を安定させながら金融緩和を手じまいすることの難しさが浮き彫りになっている。日本も緩和が長期化すればするほど、出口戦略が困難になるのは間違いない。
次の任期満了まで務めれば78歳になる黒田氏は、波乱含みの5年の任期を無事まっとうできるのか。黒田日銀の先行きはますます見通しにくくなっている。