安倍首相の自民党総裁任期の延長論 黒田日銀総裁の「有言不実行」その前に首を差し出すのが筋だ

 安倍晋三首相の自民党総裁任期の延長を巡り、同党内で議論が活発になってきた。今の決まりでは任期が2018年9月までだが、参院選勝利などを背景に、もっと延ばしたらどうかという声が出てきた。仮にそうなれば安倍政権やアベノミクスも長期化し、日銀のマイナス金利付き量的・質的緩和(通称、異次元緩和)にも影響が及ぶ。短期決戦として始まった異次元緩和が、長期持久戦へと変わるかもしれないのだ。日銀が9月に実施する緩和策の「総括的な検証」もこうした政治状況を意識したものになるだろう。
 「日銀のマイナス金利政策はいつまで続くのか」――。金融機関(特に地方銀行)の企画部門系のスタッフと会うと、よく聞かれるのがこの点である。マイナス金利政策は国債利回りや貸出金利の低下を通じて銀行経営に負のインパクトを及ぼす。この政策がいつまで続くかのメドが見えないと、経営計画も立てられない。そんな声(ボヤキ?)も聞いた。
 この問いに答える際に、筆者が必ず指摘するのは政治的な視点の重要性である。なぜなら異次元緩和はアベノミクスの構成要素のひとつだからだ。マイナス金利政策がいつまで続くかという問いへの答えは、安倍政権がいつまで続くのかを考えないと見えにくいのである。
 
■異次元緩和に「経済的な出口」はない?
 異次元緩和あるいはマイナス金利政策に「経済的な出口」は訪れにくく、あるとすれば「政治的な出口」だ――。そんな趣旨の指摘をするのは上野泰也みずほ証券チーフマーケットエコノミストである(「ジャーナル・オブ・ファイナンシャル・プランニング」7月号)。日本経済の実力を踏まえれば、政策解除の必要条件である2%の物価上昇率の達成は困難。異次元緩和の終わりが来るとすれば、安倍氏が政権を降りて、日銀がアベノミクスの一部である「大胆な金融緩和」をやらなくてもよくなるときだというのだ。
 問題は、その「政治的な出口」が遠のく可能性が出てきた点である。安倍首相の自民党総裁としての任期を延ばしたらどうかという声が出てきたからだ。
 今の党則では、任期は1期3年で、連続して3期務めることはできない。安倍氏12年に総裁に就き、15年9月に再選されており、現在2期目だ。3選がないとすれば18年9月で任期が終わる。だが、参院選での勝利を受け、安倍氏の政治的な影響力が一段と強まったことを背景に、任期延長論が出てきたわけだ。
 特に「実力派」の二階俊博幹事長が延長の検討に言及したことが、永田町の空気に影響を与えているようだ。同氏は年内にも一定の結論を出す考えを示している。来年の党大会(例年1月に開催)で党則を変えることを視野に入れているのかもしれない。
 仮に3選が認められれば、安倍政権が21年まで続く可能性が出てくる。党則改正ではなく特例的対応で2年延長といった展開になるなら、20年までだ(特例的対応は中曽根康弘氏の前例がある。1986年の衆参同日選での大勝を背景に任期が1年延びた)。前出の上野氏も「安倍氏には東京オリンピック招致の功績もあり、20年夏の東京五輪終了後まで首相続投の可能性がある」と読む。
 
■「総括的な検証」実施が決まった政治的背景
 もちろん、ポスト安倍をうかがう人たちを中心に党内では任期延長への慎重論があり、表の通り現時点で世論調査でも反対論の方が多い。だが「安倍1強」が長く続くシナリオは意識せざるをえない。それは日銀も同じはずであり、異次元緩和の長期化に備える必要性も出てきた。そのための政策の修正の場が、異次元緩和の「総括的な検証」だろう。7月下旬の金融政策決定会合で「総括的な検証」の実施を決めたことには唐突感もあったが、以上のような政治的な状況を踏まえればそうでもないのだ。
 日銀の黒田東彦総裁にとって幸いだったのは、相次ぐ審議委員の交代により金融政策決定会合での「安定多数」を確保したことだ。7月下旬の追加緩和決定時の表決は7対2。それまでの2回の追加緩和が5対4の僅差での決定だったのと比べれば大きな変化だ。異次元緩和の検証と修正という作業は、反対者があと1人増えると提案が否決されるような状況では進めにくい。今ならあと2人反対者が増えても過半数を確保できる。こうした変化も、「総括的な検証」の実施を決められた背景だろう(金融政策決定会合内部の勢力図の変化については、8月5日付日本経済新聞夕刊の拙稿「黒田総裁『安定多数』握る、日銀決定会合、メンバー交代で変化――一段の緩和決めやすく」参照)
 その「総括的な検証」に話を進めよう。異次元緩和の開始後3年以上がたっても2%物価目標が達成できない現実を踏まえ、政策のどこに問題があったのかを検証しつつ、必要に応じて追加的対応を決めるものになる。黒田総裁も示唆している通り、何らかの新たな工夫を施すなどして緩和を強化するだろう。
 
■政策の持続性を高める必要が
 ただ、上述した政治的な状況も踏まえ、異次元緩和の長期化に備える必要もある。政策の持続性を高めないといけないのだ。いわゆる長期国債購入の柔軟化も、そうした努力の一環として採用される可能性がある。年間80兆円の残高増加という現在の購入ペースを続ければ「17年半ばには限界を迎える可能性がある」(日本経済研究センター)とされるからだ。70兆~90兆円といったように幅を持たせたものにする案が取り沙汰される。
 もともと、13年4月に始まった異次元緩和は、2年程度を念頭に置いて、2%物価目標をできるだけ早期に達成することを目的とした政策だった。いわば短期決戦だったのだ。従来の常識では考えられなかったような巨額の国債購入で市場に驚きを与えて、デフレ心理を転換させようとした。
 1年目は順調に進み、政策開始前にマイナスだった消費者物価の前年同月比上昇率(生鮮食品の価格動向と消費増税の影響を除く)はいったん1.5%まで上がった。しかし、2年目以降は、原油安、消費増税の悪影響、海外経済の減速などの逆風が吹き、物価は再びマイナスに戻ってしまった。つまり短期決戦はうまくいかなかった。短期決戦を前提にした巨額国債購入をいつまでも続けることは現実的ではなく、購入ペースを柔軟化しても不思議はない。
 問題は、市場でそれが緩和の縮小と解釈されて長期金利が上がってしまう恐れがあることだ。すでにそうした事態を見越して金利は上がり始めている。金利上昇を避けるためにどうしたらいいのか。何らかの形で時間軸政策(フォワドガイダンス)を強化するのが一案かもしれない。例えば、2%目標が達成されても、しばらくは緩和政策を続けるといった方針を示すことも考えられるだろう。
 ただ、緩和の長期化の約束は、ヘリコプターマネー(ヘリマネ、中央銀行による恒久的な資金供給に支えられた財政支出)に近づく印象も与える。政府が財政政策重視の姿勢をとっているとすればなおさらだ。ヘリマネ的な政策を採用すれば、長期的には高インフレのリスクを抱えかねない。
 
■財政との距離に危うさも
 上述した通り、安倍首相の自民党総裁任期の延長検討に言及したのは、二階幹事長だ。その二階氏は「国土強靱(きょうじん)化」への財政支出を重視してきた。総裁の任期延長と異次元緩和の長期化の末に待っているのは、財政政策と金融政策の「一体化」。そんなふうに考えるのはうがち過ぎだろうか。
 もちろん、意味のある財政支出は必要だし、財政と金融が適切な形で連携することも需要刺激には有効だ。とはいえ「財政との連携」が「財政への従属」に陥るなら、問題も起きてくる。9月の日銀の「総括的な検証」がどんな方向性を打ち出すのか。注目したい。
編集委員 清水功哉
 
 
これ「安倍氏の任期延長なら 異次元緩和も長期戦」と題した日経新聞8月15日 5:30の記事である。
 
 
冗談じゃ無い!このまま安倍政権が続けば、これだけの今までの緊急経済政策の失敗に対して、ことごとく数値目標をクリアできなかったその責任を棚上げして、またぞろ同じ過ちを繰り返すつもりなのか。とにかく黒田日銀総裁良くここまで「有言不実行」目に余る。それを任命した安倍首相の責任を除外して、更なる任期延長とは、この党気が狂ってる。任期延長どころでは無い筈である。その前に首を差し出すのが筋である。

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