先日、NHKのニュースウオッチ9で給料なしで働く「無給医」(むきゅうい)についての放送があり、話題になりました。
その後の調査で無給医の実態が明らかになり、21日に再びNHKが無給医を取り上げると、文部科学大臣は調査する考えを示しました。
本記事では、今回調査で明らかになった無給医の実態を紹介し、その実状を医師の立場から解説します。
柴山文部科学大臣は、22日の閣議後の記者会見で「5年前の調査で、すべての大学院生の雇用契約が結ばれていることを確認しているが、改めて実態把握を行うことを検討したい」と述べました。
(文部科学省は)「無給医は存在しない」と回答しました。
その理由をただすと「平成24年の大学病院への調査で、診療にあたるすべての医師が雇用契約を結んでいることを確認したため」と答えました。
が、調査結果とNHK報道を受けて再調査することを考えたようです。
※本調査では無給医を「医師免許を持ち、病院で診療行為を行っているにもかかわらず、本給が出ていない医師のこと。部分的に手当(当直手当)が出ている場合も含む。身分は問わない(専攻医、研究生、大学院生なども含む)」と定義した。
直近5年間で無給医経験のある医師83人を対象に分析すると、勤務先は74.7% が大学病院だった。勤務する大学病院は国立16大学、公立4大学、私立14大学の計34大学 の名前が挙がった。
(引用ここまで)
この結果に私は衝撃を受けました。4日間の調査で198人もの医師が無給医経験ありと答え、その勤務先は実に34大学に渡っていたのです。日本には約80ヶ所しか大学病院はありませんから、およそ半数の大学病院で無給医というシステムが存在していたことになります。
さらに、本調査の結果では、無給医は「必要悪」であるとする医師自身の意見が複数寄せられていたことも特記すべき点です。
なぜ医師自らが必要悪だというのでしょうか。
その理由を、私は2つの点から考察します。
1点目は、「無給医がいなければ大学病院の体制は維持できないから」です。大学病院は大きく分けて医学教育・研究・高度な治療や難病治療という3つの役割を持っています。この体制を維持するためには、かなりの医師数が必要になります。ときには経営を度外視した教育や研究、そして治療を行わなければならないという側面があるのです。
そこに目をつけられたのが、医師でありながら大学院生になった人々です。大学医局に属する多くの医師は、医師4-10年目くらい(おおくは28-34歳)くらいで一度大学院に入学します。そこで大学院生という学生の立場になり、医学博士を取るために勉強し研究をするのです。ところがその人達は大学医局に所属する医師でもあるため、「ちょっと4年間の学生生活のうち、1・2年は大学病院で医者の仕事してよ」となるわけです。
しかし、システムを維持せねばならないという理由は、医師を無給で働かせていいという論理にはなりません。両者は全く別の問題なのです。
2点目は、大学医局の構造的な問題を指摘します。教授をトップとするピラミッド型の大学医局では、人事権や医学博士を取れるかどうかの少なくない部分まで教授に権力が集中します。それゆえ、無給を言い渡されても文句が言える医局所属の医師は皆無です。いままで無給医問題がまったく知られてこなかったのも、それが理由でしょう。医師ならば誰でも知っているが、誰一人発言ができなかったのです。パワハラ、アカハラ(アカデミック・ハラスメント)の一形態である可能性は否定出来ません。
私は、今回調査を検討した文部科学省を評価したいと思います。
その上で、この実態調査が極めて難しいものである点も指摘しておきます。
なぜなら、無給医は前述の通り発言権が皆無であり、さらに実態が隠蔽される可能性が高いからです。大学事務に調査しても、形式上は「すべての大学院生で医師の人間とは雇用契約を結んでおり、無給医は存在しない」となるでしょう。
しかし私の調査では、雇用契約がまったく実態に合っていない医師が多数存在します。
雇用契約が実態とかけ離れているが、誰にも言えず我慢して働いているのです。
酷いケースでは、月3万円の給与で週3日(全日)の勤務を強いられている医師がいました。実際の労働時間を考えると最低賃金をはるかに下回っており、違法である可能性があります。また、残業代は月〇〇時間までとし、それ以上の数字を書くと訂正を強制されるケースも多くあるようです。これは、医師過労死裁判で病院側の主張する過労死医師の労働時間と医師側のそれが大きく異なることがありますが、電子カルテのログイン情報から実際の労働時間を割り出せます。そこまでやれば事実が見えてくるでしょう。
これ「無給医問題、文科省が調査へ 医師の視点 中山祐次郎一介の外科医」と題した yahooニュース11/22(木) 12:35の記事だ!