今回の日産のゴーン会長の逮捕劇は、日産の日本人社員(役員も含めて)によるクーデターだった?

 日産とルノーの関係が微妙な状況となっている。日産は実質的にルノー支配下にあったが、表面的には2社連合という形になっており、一定の独立性が担保されていた。だがフランスでマクロン政権が誕生したことから、風向きが変わってきた。
 
ルノーは日本側の事情に配慮してきた
 現在、仏ルノーは日産の株式を43.4保有しており、筆頭株主となっている。日産は1999年に経営危機に陥り、ルノーに救済される形で同社のグループ入りした。ルノーの傘下に入った日産のトップには、当時ルノー副社長だったカルロス・ゴーン氏(現ルノー会長兼日産会長)が就任し、ゴーン氏によるトップダウン経営で日産は復活した。
 ルノーの出資比率は50%以下だが、ルノーからゴーン氏が派遣され、ゴーン氏によるトップダウン経営が続いたことから、グローバル市場では日産は完全にルノー支配下にあるとみなされてきた。だが、形式的なルノーと日産の関係は実態とは少し異なる。
 
 ルノーは日産の筆頭株主だが、日産もルノーの株式を15保有するなど相互出資となっており、表面的には日産の独立性がある程度、担保されるようになっている。もっとも、日産が保有するルノーの株式には議決権の制約があり、相互出資は建前に過ぎないとの見方もできるが、日本側の心情に配慮したスキームだったことは間違ない。
 ルノーと日産は、両社の関係について「ルノー・日産アライアンス」と称しており、報道などではルノー日産連合、あるいは2社連合と呼ばれることが多い。201610月には、日産がデータ不正問題で窮地に陥った三菱自動車を救済したことから、現在では「ルノー・日産・三菱アライアンス」と呼ばれている。
 
 ゴーン氏は、日産の経営再建の手腕を評価され、ルノー本体のCEO最高経営責任者)に就任した。だが、日産のCEOも兼務したことから、ゴーン氏1人で両社の舵取りを行うという体制が長く続いてきた。これはガバナンス上あまり望ましいものではないが、ゴーン氏という「人」に依存する形で、ルノーと日産の良好な関係が続いてきたともいえる。
 
マクロン政権はなぜ経営統合を求めるのか
 ゴーン氏は現在64歳だが、そろそろ退任後の道筋についても検討しなければならない時期に来ている。ゴーン氏は20172月、日産のCEOを退任し、代表権を持つ会長のみの役職となった。
 ゴーン氏は当初、ルノーCEOも退任して各社にCEOを置き、自身はルノー、日産、三菱の取りまとめを行うポジションに就くという青写真を描いていた。
 
 だがこうした状況に待ったをかけたのがフランス政府である。フランス政府はルノー筆頭株主であり、事実上、ルノーはフランス政府の支配下にある。フランスでは2017年の大統領選挙でマクロン政権が誕生した。産業政策を得意分野とするマクロン大統領は、ゴーン氏に対して3社連合を見直し、ルノーと日産を完全統合するよう求めたとされる。
 
 もっともフランス政府はマクロン政権が誕生する2年前の2015年にも経営統合を求めたことがあり、ルノーと日産の完全統合はマクロン政権特有の動きというわけではない。
 フランス政府がルノーと日産の経営統合を求める理由は2つある。
 1つは規模のメリットの追求である。グローバルな自動車市場は成熟期を迎えており、上位4社による寡占が急速に進んでいる。2017年における各社の販売台数は、1位のフォルクスワーゲン1070万台、2位のルノー・日産連合が1060万台、3位のトヨタ1040万台、4位のGMゼネラルモーターズ)が990万台であった。5位の現代自動車730万台、6位のフォードは660万台とかなりの開きがある。
 
 今後の自動車業界は上位4社に入っていないと生き残りが難しく、上位4社におけるシェア争いも熾烈となる。ルノー・日産連合にとっては、3社の緩い連合体ではなく、1社に完全統合した方がコストメリットが大きくなるのは間違いないだろう。
 もう1つの理由はフランス国内の事情である。
 マクロン政権は産業政策を推進しており、フランス国内の生産を拡大することで雇用を増やそうとしている。ルノーと日産が完全統合すれば、日産の工場をフランスに移転することが容易になり、国内の雇用増が見込める。日産のオペレーション上、それがベストの選択なのかは何ともいえないが、少なくともルノーの大株主であるフランス政府はそう見ている。
 
■ゴーン氏はあくまでフランス人
 当初、ゴーン氏はフランス政府の方針に対して慎重な姿勢を示していたが、最近ではフランス政府に理解を示す発言が多くなってきた。背景にあるのは、ゴーン氏に対するフランス国内の反発である。
 日本においてゴーン氏は、典型的なグローバル企業のトップとみなされている。ゴーン氏は極めて高額な役員報酬を受け取っているが、日本ではゴーン氏はグローバル人材なのだから高額報酬は当たり前であるとの見方が一般的だ。
 だが現実はだいぶ異なる。ゴーン氏はあくまでフランス企業を経営するフランス人であって、いわゆる無国籍なグローバル人材ではない。
 常識外れの役員報酬が許容されるのは、一部の限られた企業であって、一般に欧州では極端な高額報酬は社会的に許容されない。実際、ゴーン氏はフランス国内の世論に配慮して、かなりの期間、ルノー本体からは高額の役員報酬を受け取ってこなかった(その分を日産からの高額報酬でカバーしてきた)。
 フランス国内では、ゴーン氏がフランスのために働いていないのではないかとの声もあり、引き続きルノーの取締役に選任されるためには、フランス政府やフランス国民の意向に配慮せざるを得ない状況にある。
 
 自国企業に対して、自国の国益に沿って行動するよう求めるのは、日本もフランスも同じであり、フランス政府やフランス国民の動きを批判しても何も問題は解決しない。
 
■いざという時に外資に頼ってしまう日本
 最終的にルノーと日産がどのような形に落ち着くのかは、フランス政府とゴーン氏次第ということになるだろう。日本側には、日産がルノーの株式を買い増すことで、相互出資を強化して、ルノーの経営権を消滅させてしまうという選択肢も残されているが、こうした敵対的な手法は現実には選択しにくいだろう。
 日産の独立性が担保できるよう、細かい資本構成や人事などの面で、地道に交渉していくしか方法はなさそうだ。
 日本は先進国の中ではもっとも市場が閉鎖的で、外国資本による直接投資が極端に少ないという特徴がある。筆者自身は、国内市場をもっと開放した方がよいとの立場だが、外国資本の受け入れは慎重にすべきとの考え方も理解できなくはない。
 
 だが日本の場合、普段は外資の参入に消極的でありながら、企業が経営危機に陥ると、すぐに外資に頼ってしまうという大きな問題がある。日産が経営危機に陥った際、日本国内のリスクマネーが日産を救済していれば、こうした事態には至らなかったはずだ。三菱自動車を救ったのも、結局はルノーだったという現実を忘れてはならないだろう。
 電機業界ではシャープという事例もある。日本国内では中国資本に対する批判が根強いが、結局、シャープを救ったのはチャイナマネーであった(鴻海は台湾の企業だが、創業者のテリー・ゴー氏は外省人であり、中国本土で成長した企業なので限りなく中国資本に近い)。
 日本人としては日産の独立性が維持されるよう祈るばかりだが、仮にルノーに完全統合されてしまったとしても、資本の論理上それはやむを得ないことである。
 
 

これ「どうなる日産?行方を左右するフランスの国内事情 いよいよ日産とルノーが完全統合か」と題したJB Press 2018.5.7の記事だった。

 
 
既に半年も前にこう言う記事が出てたのである。
要するに限りなくルノーの大株主のフランス国の介入であり、大統領に近かったゴーンさんが仕組んだルノーと日産の合併劇を日産の日本人社員(役員も含めて)たちのクーデターと見て良いだろうと思う。