安倍晋三首相が獣医学部新設を学校法人「加計学園」の他にも全国で認める意向を示したことを受け、獣医学者でつくる団体の代表らが6月30日、東京都内で記者会見し、「獣医学教育の根幹を崩壊に導きかねない」と首相の発言を批判した。
獣医師養成課程を設ける16大学の代表者でつくる「全国大学獣医学関係代表者協議会」によると、日本の獣医学教育の環境は欧米に比べて教員やスタッフが少なく、大学間の連携で人材の有効活用を図っているという。学部新設で既存大学から教員らが流出し各大学の人員不足につながるといい、同協議会会長の稲葉睦・北海道大教授は「(首相発言の)驚がくの内容に強い危機感を持っている」と訴えた。
また、牛や馬など産業動物を診療したり、公衆衛生を担当したりする獣医師が不足しているとの指摘に対し、北里大の高井伸二獣医学部長は「地域偏在の問題。新設すれば解決するというような考え方は間違いだ」と反論。一方、日本獣医学会の中山裕之理事長は、国家戦略特区での学部新設計画について「獣医学教育の現状を十分に理解しないまま議論が進んでいることは妥当性を欠いている」と不快感を示した。
山本氏は4日、閣議後の記者会見で熱弁をふるった。年間収入5000万円以上の犬猫診療施設が3割を超えているとする日本獣医師会の2015年の調査結果を引き、ペット獣医の収入が高すぎるとした。
だが日本獣医師会によると、この「収入」は一般企業の売り上げに当たり、諸経費を差し引いていない。また、厚生労働省の16年の賃金構造基本統計調査によると、民間で勤務する獣医の平均年収は約569万円。医師(約1240万円)や歯科医師(約857万円)に及ばない。
獣医コンサルタントの西川芳彦氏は「犬猫病院の臨床医は一般に公務員より勤務時間が長い。病院によって差はあるが、院長や経営者を除き、時給に換算すると公務員より低い」と指摘する。北里大の高井伸二獣医学部長も「若いペット獣医は安い給料で頑張っている。山本氏の見解は表面的な数字を見ただけの暴言。現場の獣医たちは怒りまくっている」と、取材に憤りをあらわにした。
安倍首相の「どんどん認める」宣言は6月24日。その2日後、菅官房長官も「獣医系大学全体の応募倍率は15倍」とし、加計学園に続いて名乗りを上げる大学がある、と首相を援護。今月4日にも獣医系の高倍率に再び言及した。
北里大の高井氏は、菅氏が繰り返す「高倍率」のカラクリを明かす。受験生は複数の大学を併願したり同じ大学の複数の試験を受けたりしており、実人数ベースでは3~4倍程度という。「そもそも獣医の数は全体として足りている。公務員獣医も地域的な偏在が問題で、応募倍率は関係ない」と突き放す。
獣医学者の稲葉睦北海道大教授も「教員不足の現状で獣医学部を増やしても獣医の質が低下するだけ。公務員獣医の待遇改善こそ行政のやるべきことだ。首相も大臣も全く理解していない」とあきれている。
獣医学部新設は安倍政権が進める国家戦略特区の一環。規制を外すことで経済活性化を目指すが、過去の規制緩和は弊害を生んだケースもあった。