「暴走始めた米国第1主義」と題した元東大学長佐々木毅さんのあるローカル紙の記事紹介

 いよいよ米国第一主義は新たな段階に入ったようである。かねて明言されていた通商拡大法232条に基づく、安全保障を根拠にした輸入制限措置(鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を課すという)が発動された。さらに、中国による知的財産権の侵害を理由に、通商法301条を発動し、500億~600億/相当の中国製品に25%の追加関税を課す制裁措置を発表した。
 こうした政策の背後には、表面上の理由の他にこの秋に行われる中間選挙への配慮が念頭にあり、そのために米国が長年掲げてきた自由貿易という大看孜も放棄されるに至ったのである。
 1930年に米国が制定したスムートーホーレイ関税法が貿易戦争の引き金を引いたことを思い出した人もいるであろう。中国は対抗措置を取ることを発表し、貿易戦争の勃発と不透明感の増大を懸念する株式市場はりIマンーショツク以来の暴落を記録した。
 鉄鋼、アルミに対する輸入制限措置については、欧州連合(EU)、韓国、カナダ、メキシコ、オーストラリアなどが高率関税の適用までに一定の時間的猶予を与えられたが、そこには米国との間での二国間貿易交渉を促進させようという意図が透けて見える。
 安倍晋三首相とトランプ大統領の個人的信頼関係を過度に当てにし、日米経済対話を問題の先送りに使ってきた感のある日本政府に対し、トランプ氏は 「こんなに長い間、米国をうまくだませたなんて信じられない」とほくそ笑んでいるとし、「そんな日々はもう終わりだ」と明確にくぎを刺した。
 従って、日本に見通しの甘さがなかったとは言えないし、そのなりふり構わぬ姿勢を見誤ったと言われても仕方がない。トランプ政権の制裁措置が二国間交渉に相手を引きずり込むための道具である以上、今更うかつに動くわけにもいかないジレンマを抱え込んだのである。
 80年代の日米経済摩擦は確かに激しかったが、しょせんは同盟関係の枠内での摩擦であり、交渉によって解決する以外の出口はなかった。これに対して今回浮上した米中摩擦の行方は、はるかに不透明と言わざるを得ない。習近平 ・新指導部は満々たる野心を秘めて発足したばかりであり、トランプ政権のもくろみ通りに交渉の枠組み作りができるかどうか、予断を許さない。
 何よりも、米国第一主義がゼロサムゲーム丸出しであることが明白になったこともあり、それを唯々諾々と受け入れることは大国、中国のメンツに関わる問題になることを考えると、そもそも話し合いの枠組み作りが難しいであろう。かくして市場が出口なき混乱である貿易戦争の到       来におびえ、身構えたとしても不思議はない。
 今後の注目点は二つである。第一は、貿易というモノをめぐる問題がカネの問題に転移するかどうかである。周知のように、中国は世界一の米国債の所有者であり、カネの面で米国政治を支えているともいえる。かつて日本でも日米摩擦の頃、米国債の売却が時々話題になったが、モノ問題がカネ問題にどこまで転化するかは、円高問題を抱える日本にとっても、大きな問題である。
 第二は、安全保障問題との絡みである。この貿易面での制裁発動と同時にマクマスター大統領補佐官(安全保障担当)が解任され、トランプ大統領は後任にジョンーボルトン氏を任命する人事を発表した。ボルトン氏はかねて強硬派として知られ、かつて台湾との軍事的な協力を説いたことがあるという。
 先のティラーソン国務長官の解任とこの新しい人事によって、政権全体が安全保障面でも強硬姿勢を強めると’の観測が専らである。貿易面での米国第一主義と安全保障面での強硬派とが連動することになれば、火種は安全保障問題にまで広がり、もはやモノの問題では済まなくなる。
 トランプ政権は世界に紛争の種をまき散らしたが、どこまで交渉によってマネージメントが可能か、思わぬ展開になりはしないか、国内選挙向けの話が大火事にならないか、そのリスク管理が問われることになる。(元東大学長
 
 
これ「暴走始めた米国第1主義」と題した元東大学長佐々木毅さんのあるローカル紙の2018327日の日刊の記事である。
 
 
恒例の元東大学長佐々木毅さんの記事である。
いつもながら、するどい見方である。
私は佐々木さんのこの記事いつも感心してみてる。そこら辺の経済学者と違い、現状を的確にとらえてると思う。本当に勉強になる。