大山鳴動して、とはこのことだ。鳴り物入りで迎えた日ロ首脳会談。15日、安倍首相の地元・山口県長門市の温泉旅館でスタートしたが、領土問題での成果はゼロ。空騒ぎに終わりそうだ。「北方領土解散」だとか盛り上がっていたのは何だったのか。
「もともとロシア側の言い値は『0島』で、経済協力だけ得て北方領土は返さないというのがベストシナリオでした。18年に大統領選があることを考えれば、強いリーダー像を示して高支持率を維持しているプーチン大統領が、領土問題で簡単に譲歩するはずがありません。訪日に先立ち、プーチン大統領は読売新聞のインタビューで、経済協力は『(領土問題解決の)条件ではなく雰囲気づくり』と言っていました。むしろ重要なのは安全保障の問題でしょう。ラブロフ外相が15日夜の会談後、『外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)の再開で合意する』と言っていましたが、2プラス2と同様に中断していた海上自衛隊とロシア海軍による合同捜索救難演習も再開する可能性がある。ただ、これも以前やっていたことを再開させるというだけで、領土問題での大きな進展や、目新しい成果は望めそうにありません」(ロシアの専門家で軍事アナリストの小泉悠氏)
日ロの2プラス2は2013年に1度だけ開かれたものの、ウクライナ危機で中断していた。米国とEUがロシアに対し制裁を科したのに日本も追随した影響だ。安倍首相が議長を務めた今年5月の伊勢志摩サミットでも、ロシアへの制裁が再確認された。
■安全保障でロシアの土壌に乗る錯誤
経済状況が苦しいロシアが、制裁解除の突破口にしたいのが日本だ。領土交渉を進めたい安倍首相が妥協するとみている。プーチンは読売新聞のインタビューでも、「制裁を受けたまま、経済協力をより高いレベルに引き上げられるのか」と揺さぶりをかけてきていた。
元外交官の天木直人氏が言う。
「プーチン大統領の目的は、日米関係にくさびを打ち込むことにある。安倍首相は完全に足元を見られたのです。日米同盟は戦後の日本外交の根幹で、変えることなどできっこないのに、功を焦った場当たり外交で2プラス2再開を安請け合いして、危険な領域に踏み込もうとしている。2プラス2の再開で、日ロ間の領土問題は安全保障問題になってしまった。いくらトランプ次期大統領が親ロ派だといっても、米ロは経済分野では協力できるかもしれませんが、安全保障では絶対に相いれない。両者にいい顔をする日本は板挟みで、いずれ矛盾の後始末を突きつけられることになるでしょう。ロシアとの軍事的な接近は、G7の結束からも外れることになる。国際的な信用を失いかねない軽挙妄動です。少なくとも、ロシアに厳しい態度で臨んできたオバマ大統領は強い不快感を示すはずです」
次期大統領が決まった途端、トランプに尻尾を振って会いに行った安倍首相はオバマを激怒させ、11月のペルーAPECでの首脳会談は流れてしまった。失地回復で月末の真珠湾訪問を画策し、なんとか最後の首脳会談にこぎつけたのに、舌の根も乾かぬうちにロシアにスリ寄って、また不興を買う。いったい何がしたいのか、サッパリ分からないのだ。米国を怒らせても、領土問題で成果があればいいが、経済協力だけ食い逃げされるんじゃ、目も当てられない。亡国外交もいいところだ。
■普通ならば交渉打ち切りでもおかしくないナメられ方
今回の交渉は、とにかくプーチンにナメられっぱなしだった。当日も大遅刻で出はなをくじかれた。テレビのワイドショーは現地からの生中継を予定、NHKなんて午後3時40分から特番の枠まで設けていたのに、待てど暮らせどプーチンは来やしない。ロシア出発が2時間以上遅れたとかで、会場の大谷山荘に到着したのは、当初予定より3時間も遅い午後6時ごろ。午後1時前に早々と会場入りしていた安倍首相は、都合5時間も待たされた格好だ。
会合の冒頭、安倍首相が「これから行う首脳会談の疲れが、温泉につかることによって完全に取れることをお約束します」と水を向けても、プーチンは「疲れる会談にしないことが重要」と素っ気なく、ハナからやる気のなさが見てとれた。
「安倍首相は歴史に名を残すことしか頭にない。それで功を焦り、甘い見立てで突っ走ってしまう。期待だけさせて、結局は何の進展もなく、いいとこ取りだけされるのは、北朝鮮の拉致問題と一緒です。あれこれ手を出して食い散らかすだけで、かえって解決を遠のかせてしまう。そのトバッチリを受けるのは国民です。絵に描いたような無定見外交で、無理筋と知りながら、夜郎自大で期待をあおるのは、非常に罪作りだと思います」(政治評論家・野上忠興氏)
共同経済活動にもメリットはない
安倍首相はわざわざロシア経済分野協力担当相までつくり、腹心の世耕を充てて交渉に臨んできたのだが、先月19日のペルーAPECでの首脳会談直前には、世耕のカウンターパートだったウリュカエフ経済発展大臣が収賄容疑で逮捕されるというハプニング。かの国では、プーチンのゴーサインがなければ閣僚逮捕なんてあり得ない。この時点で、今回の日ロ会談ご破算は明白だった。
さらには、ペルー会談直後の11月22日にロシア軍が択捉、国後両島に地対艦ミサイルを配備。同じ日にロシア海軍が尖閣諸島の領空周辺にも対潜哨戒ヘリを飛ばすという強硬姿勢で、もうメチャクチャ。プーチンは「北方領土の帰属問題は存在しない」とか言いたい放題になり、12年に日本政府が犬好きのプーチンにプレゼントした秋田犬の「ゆめ」とつがいになる雄犬の贈呈も断られる始末だ。
「普通は、ここまでコケにされたら、交渉打ち切りでもおかしくない。成果がないことが分かっているのだから、訪日は不要だと突っぱねればいいのです。それなのに温泉で歓待、歴史的会談をブチ上げてしまった安倍首相のメンツのためでしかない。プーチン大統領にとっては、16日の経済フォーラムと柔道界の総本山・講道館訪問の方が大事で、山口県での首脳会談は少しでも短く終わらせたいという態度がアリアリでした。したたかなプーチン大統領に弄ばれ、経済協力だけ持っていかれるのでは、いいツラの皮で、外交的には大失態ですよ。これで、どうやって日ロ会談の成果をアピールするつもりなのか。『領土交渉がスタートラインに立った』とでも言うのでしょうか。スタートどころか、エリツィン時代よりむしろ後退している。60年前の日ソ共同宣言に戻っただけです」(天木直人氏=前出)
今回の会談の「成果」は、北方4島での共同経済活動と、自由な往来の緩和で終わる。世耕は毎日新聞のインタビューで、今後5年もすれば日ロ間の貿易額が「安定的に増える」とか言っていたが、15年の対ロ輸入額が前年比27・3%減、輸出額は36・4%減という現状を見れば、経済的なメリットを期待する方が無理だ。
16日の経済フォーラムには、政府の号令で多数の日本企業が参加するが、安倍首相の顔を立てるためだけに、日ロ会談の成果づくりに付き合わされる民間企業は気の毒というほかない。
老獪な曲者プーチンにしてやらた今回の日ロ首脳会談だった。ロシアのプーチンは、真から北方領土問題は解決しよう等とは思っていない。そんな事より日露経済協力の名のもとに、今後とも北方領土問題をエサに日本に「たかる」外交を終生するだろう。それこそ思わせぶりに。史上に名のほしい安倍首相、切り札は対ロの北方領土問題としか思っていず、それをプーチンに見透かされてしまっている。恐らく事ある如に、プーチンに翻弄されて終わりだろう。それを知ってか知らずか何食わぬ顔で、北方領土問題にまい進してる様は滑稽と言うより哀れですらある。そんな事より裏金でも使って北朝鮮より拉致被害者を取り戻した方が余程良いと思うのだが・・・・・・・・・・・・・