日本で初の女性の首相を小池さんに求めても私には異論はない

 まるで事前に打ち合わせていたかのような答弁だった。
日本維新の会憲法改正について教育のあるべき姿を含め、具体的な考え方を示し、各論に踏み込んで真摯に議論しようとしていることに、まずもって敬意を表したい。子どもたちこそ日本の未来だ」
 125日、参院本会議での代表質問。今国会での衆参両院憲法審査会による改正項目の絞り込みと、教育無償化を憲法で規定することを求めた“野党”日本維新の会片山虎之助共同代表に対し、安倍晋三首相はこう述べた。
 政権発足から5年目に入ったが、デフレからの脱却を目指したアベノミクスは道半ば。ロシアのプーチン大統領との「信頼関係」で打開を目指した北方領土交渉も、進展の兆しは見えない。トランプ大統領就任で日米関係も先行き不透明だ。
 しかし、最大の悲願である憲法改正だけは現在、衆参両院で発議に必要な3分の2を制して好機である。環境が整えば、できるだけ早く憲法改正発議と国民投票に踏み切りたい。とはいえ、公明党は早期の改憲に慎重な姿勢を崩していない。国民投票では過半数の賛成を得なければならない。そのためには、発議段階で野党の一部を引き込んでおく必要がある。そこで、公明党も反対しにくい「教育無償化」を盛り込み与党を固めた上、維新を野党勢力から分断し、改憲への突破口を開く。安倍の答弁からは、一石二鳥の思惑が透ける。
 
小池が浮かべた笑み
 安倍が改憲派形成に向けて第一声を放った直後、東京・西新宿の都庁。
「未来を創る子供たちに教育機会の格差があってはならないという考え方を基に、私立高校などにおける給付型奨学金を拡充します。家庭の経済状況に左右されず、安心して学び続けられる環境の整備ということでございます」
 都知事小池百合子は得意げに2017年度当初予算案の目玉政策を披露した。私立高生徒への給付型奨学金を拡充し、年収760万円未満の世帯を対象として平均授業料に当たる442000円を国と都で給付。つまり「実質無償化」とする大盤振る舞いだ。
「子どもたちこそ日本の未来」として改憲による「教育無償化」に理解を示した安倍の向こうを張るようにも映る政策。だが、小池の視線の先にあるのは都議会公明党だった。
 小池が敵視する都議会自民党過半数を割っている。公明との連携で多数派を維持しており、かけがえのないパートナーだ。その公明が昨年末、小池が打ち出した知事報酬削減の余波を受けて議論が始まった議員報酬削減を巡り、自公連携の見直しと小池支持を打ち出した。私立高生への奨学金拡充は、元々公明が強く要求していた政策。小池支持への「返礼」の意が込められていたのは明らかだった。
 1月、築地市場からの移転延期を決めた豊洲市場の地下水モニタリングの調査結果で、有害物質のベンゼンが最大で環境基準の79倍も検出され、衝撃が走る。もはや移転の目途が立たなくなり、「小池は追い込まれる」との見方が関係者の間に広がった。
 しかし、事態はすぐにまったく違う方向に向かう。実は小池は発表の数日前、「これまでの“移転ありき”の調査ではないから違った結果が出てくるだろう」と周囲に漏らし、そうなった場合のシミュレーションをしていた。事実、小池は即座に手を打った。豊洲市場の土地購入を巡る住民訴訟に関し、購入当時の都知事だった石原慎太郎に賠償責任はないとしていた従来の都方針を見直すと表明したのだ。
「やはり石原に責任があるのか」と都民が受け取ってしまう絶妙のタイミング。こうしたことでダメージが最小化され、小池に対する都民の支持は依然として高い。公明が自公連携を解消して小池支持に回ったのも、独特の勝負勘を持つ小池を、72日投開票の都議選で敵に回すのは愚策と判断したからにほかならない。
 小池は過半数割れに陥っている自民を、都議選でさらに窮地に追い込もうと目論む。123日には、政治団体都民ファーストの会」の公認候補4人を発表し、民進党側からの同調者もいる。公認、非公認を合わせた「小池派」が躍進すれば、今秋以降とされる衆院解散をめぐる安倍の判断にも影響する可能性は決して低くない。
 日本新党新進党自由党、保守党、自民党5つの政党に所属して、「政界渡り鳥」「権力と寝る女」と陰口を叩かれてきた小池。本人は「政党の離合集散の結果、政党名が変わっただけであって、私の主張、信念は一度も変えたことがない」と言うが、実態は異なる。
 保守党から自民党に移る際には、現自民党幹事長・二階俊博らに先立って、いち早く離党。自民党では政権派閥の清和会(旧森派)に入る。ところが09年、下野後の総裁選では、力を失ったと見た清和会を離れ、勝利が確実視されていた谷垣禎一支持を打ち出して三役ポストにありつく。細川護熙小沢一郎小泉純一郎ら時々の実力者に擦り寄って権力の階段を上ってきた履歴からは、変わり身の早さと飽くなき上昇志向がくっきりと浮かび上がる。
「今は、都のトップとしての仕事を全うしたいと考えています」
 小池はインタビューで「小池首相待望論がある」と聞かれるとこう返すが、そこには必ず「今は」の枕詞が付く。小池と親しい人ほど「いつか国政に復帰して首相の座を射止めたいのが彼女の本心」と口を揃える。
 都知事に就任した直後の昨年9月上旬、小池は都政レクチャーの合間を縫って、都庁からほど近いホテルで開かれたシンパの有識者らとの会合に駆け付けた。
「“小池首相”の実現に向けて、これまで以上に応援していきましょう」
 そう激励された小池は否定することもなく「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」と頭を下げてみせ、宰相への野心を隠さなかった。
 首相の座を目指す以上、自民党を全面的に敵に回すわけにはいかない。それゆえ小池は"都議会のドン"内田茂を中心とする都議会自民党主流派との対決姿勢を前面に打ち出す一方で、自民党本部とは、抜き差しならない対立に至らないよう腐心している。
 その結節点にして調整弁こそ新進党、保守党時代から気脈を通じる二階である。1月下旬の会見で二階は「都民ファーストの会」からの都議選候補擁立について「全面対決がお好みならば受けて立つ」と語ったが、一方で小池が、「また二階さんに『ちょっとやり過ぎだ』って怒られちゃったわよ」などと笑みを浮かべながら秘書に話す姿も目撃されている。
 そもそも、昨秋の衆院東京10区の補選に遡れば、都知事選で小池を支援したかどで処分対象になっていた若狭勝自民党の公認候補となった瞬間、小池と二階の「手打ち」は済んでいた。この手打ちは、小池が「今後、党本部とはよしなにやっていく」ことを二階に約束した証左だ。
 もちろん安倍も了解済みだ。110日、首相官邸を訪ねた小池はカメラの前で安倍とにこやかに握手、その左襟にさっと手を伸ばすと、東京五輪ロゴ入りバッジを付けてみせた。五輪成功に向けて連携していく方針を確認したわけだが、安倍サイドも支持率の高い小池を敵に回すつもりは毛頭ない。
渡辺喜美の暗躍
 早くも来年9月の党総裁選での圧勝が囁かれ、野党にも自民党内にもライバルがいない安倍。永田町外で一人、比肩しうる存在感を発揮し続ける小池には現状を変えたい勢力が絡みつく。
「これまで説明した通り、小池さんとは連携しており事実上の小池新党になる。党首をお願いする。決めてほしい」
 昨年1221日、都内の飲食店。日本維新の会副代表の参院議員・渡辺喜美が対峙したのは、民進党きっての保守派である衆院議員・長島昭久だった。渡辺は2カ月前から長島に接近。この夜、意を決して長島に、側近の衆院議員・鷲尾英一郎とともに民進党を離党し、自分たちと合流するよう促したのだ。新党の党首ポストまで提示し、想定する新党メンバーのリストも明かしてみせた。そこには、小池と近い自民党衆院議員の若狭、日本維新の会衆院議員の小沢鋭仁、元みんなの党で現在無所属の参院議員である薬師寺道代行田邦子の名前が連ねられていた。
 渡辺構想は早期の衆院解散を想定したものだった。東京選出の長島にとって小池は是が非でも支持を得たい存在だ。だが、渡辺と小池の連携は本当なのか、いつ解散があるのか、小池が安倍政権とどんな関係を築くのか……疑心暗鬼に陥った長島は、その日、最後まで首を縦に振らなかった。
 後日、勝手に名前を持ち出された鷲尾も強硬に反対。結局長島は110日になって正式に断りを入れたが、小池の「バブル人気」をうかがわせる一幕だった。
 さらにもうひとつ、将来の国政復帰をうかがわせる言動が小池の足元からも飛び出す。
「知事と野田聖子衆院議員が組めば大きな力になりますよね」
 昨年末、小池の特別秘書を務める元東京都議・野田数(かずき)が知人に語ったという一言が、関係者の間を駆け巡った。安倍政権と一定の距離を取り、ポスト安倍の一人にも挙げられる野田聖子と小池が「日本初の女性首相」を旗印にタッグを組む。しからば、自ずと世論の幅広い支持を得られるという読みだ。2人に連携の素地がないわけではない。
「推薦人どう? なってあげるわよ」
 結局は無投票となった一昨年の自民党総裁選。野田が推薦人集めに奔走する最中、本会議場で後ろの席からこう声を掛けたのが小池だった。
 党内の強い締め付けがある中、自らリスクを取ろうとする小池の姿勢を野田は意気に感じた。それに報いるように、昨年、前都知事舛添要一の辞任表明を受けて小池が急きょ出馬した際、連絡を受けた野田は自身の元秘書を小池陣営に助っ人として投入している。
 ただ、小池が今後国政を目指すとしても、ハードルが多いのは事実だ。
 最大の問題は政治資金。小池は国会議員時代から資金集めが苦手で、都知事選資金にも苦労した。今後、「都民ファーストの会」を地域政党として運営していくことになるが、都議選候補を擁立するには多額のカネが必要になる。国政となればなおさらだ。
 小池の長年の友人によれば、都知事就任後、ゼネコンなどが手のひらを返したように小池に擦り寄ってきたという。だが、既得権者と対峙して人気を得た小池には危険な誘いだ。「希望の塾」に2900人もの合格者を出し、その後、さらに追加募集したことは、「塾」の看板でカネ集めをせざるを得ない苦しい台所事情を物語っている。
 小池陣営のシナリオは、まずは都政改革で実績を挙げて国民の期待を集めること。その上で、来秋の総裁選後から21年の総裁選までの間に、安倍政権の失速を契機に「小池を自民党の看板にした方がいい」という声が上がり、総裁に迎え入れられるケースを狙う。しかし、自民側に旗振り役は不在で、難易度は極めて高い。
 自民党の外から狙うとなれば、自らが政界デビューした日本新党モデルを再現するしかない。自民党過半数割れに追い込まれた際に「小池新党」がキャスティングボートを握り、連立政権のトップに担がれるシナリオである。だが今のところ自民の過半数割れはまったく見通せない。新党で合従連衡を仕切る剛腕も見当たらない。今は都議選に照準を絞りつつ、あらゆる可能性を探っているのが小池側の実情だ。
 都知事から女性首相の座を掴むことができるのか。小池の一挙手一投足が、今年の安倍の戦略に影響を与えることだけは間違いない。
(文中敬称略)赤坂太郎
 
 
これ「東京から首相を狙う小池のシナリオ」と題した文春オンライン 2/10() 11:00配信記事だ。
 
 
 安倍一強は小選挙区と言う選挙制度がもたらした政治史上類のない形態である。アメリカ大統領選挙制度に似て非なる制度でもある。つくづくこの安倍晋三と言う男は運の良い男でもある。55年体制では考えられないトップ形態である。これが果たして民主主義と言えるか否かは後史に譲るしかないが、当の国会議員連中自身からいずれ槍玉にあげられ、1人区割小選挙区の不満で中選挙区制に戻るであろうと言うのが私の考えだ。当時は米国に似せて2大政党制最良論に押され制度化されたが、政党トップの裁量で何でも出来るこの形態は、日本人には馴染まないのであろうと思われる。アメリカ人みたいに後に残さずフランクに出来ない人種だからだ。そして今戦後には考えられない女性の政治進出により、1時期のサッチャー英国元首相や、今のメルケル独国首相と、大国のトップ2人が女性であったしある。日本でも女性の首相でも驚きはせず、かえって歓迎されるのではないだろうかと私は考えるから、小池百合子さんでも私は賛成である。今の安倍さんよりだったら格段に良いと思う。