日銀の黒田東彦総裁は毎日新聞のインタビューで、現行の金融緩和政策を続けることで「物価は目標の2%に向けて上昇していく」と述べ、目標達成に自信を示した。政府には財政の信頼性確保なども注文した。
--日本経済の現状をどう見ますか。
◆日本経済は順調に成長している。最近は平均1.5%前後の成長をしており、企業収益は史上最高水準、失業率も3%を割り、ほぼ完全雇用状態だ。最新(2017年4~6月期)の実質GDP(国内総生産)は4%成長と非常に良く、公共投資がようやく効果を発揮し、設備投資も順調に伸びている。消費も今回は比較的強めに出た。4%成長が続くとは思わないが、1%台半ばから後半の成長は今年、来年と続いていくと見ている。
経済が順調な一方で、物価上昇率が2%に達していないのは事実だ。労働需給が引き締まってくる状況で賃金、物価が上がっていくというメカニズムが、これまでのところ日本ではあまり働いていない。パートなど非正規労働者の賃金は前年比3%ぐらい上がっているが、正規雇用の賃金は1%も上がっていないところをみると、非正規と正規の労働市場が分断されている影響もあるのではないか。省力化投資や、外食産業で深夜営業をやめるなど賃金上昇を価格に転嫁しない動きも続いている。ただ、こういう状況がいつまでも続くとは思わない。いずれ賃金はさらに上がり、価格に転嫁しないわけにはいかなくなる。物価は2%に向けて上昇していくだろう。
--就任から約4年半。金融政策の限界も見えてきたのでは?
◆13年1月の政府と日銀の共同声明で、政府は短期的には景気刺激をするとともに中期的には財政再建をきちっとやり、規制緩和や技術革新の促進などで(経済の実力を示す)潜在成長率を引き上げていくと決めている。金融政策だけで経済全体のコントロールをできるわけではなく、政府もさまざまなことをやっている。だが、物価については金融政策が一番重要な役割を果たす。日銀としては量的・質的金融緩和の導入・拡大、マイナス金利や長短金利操作の導入と状況に応じて調整し、物価についても前進している。少なくとも13年までのような物価が持続的に下落する状況はこの3年半くらいない。
--14年4月の消費税率引き上げは影響を与えたのでしょうか。
◆(目標達成が遅れた)一番大きな原因は(14年夏以降の)原油価格の大幅な下落だ。これが実際の物価上昇率を引き下げ、それに伴って予想物価上昇率も下がった結果として、原油価格が安定してもなかなか物価上昇率が上がっていかない状況にある。消費税率引き上げ前の駆け込み需要が予想より大きく、その反動で消費の弱さが続いたことは事実だが、最大の理由はやはり原油価格の下落だ。
高齢化社会の中で着実に増える社会保障支出をまかないつつ財政健全化を進めるため消費税率を引き上げた政府の判断は十分理解できる。
今後の政策運営は…必要なら追加策
--当初は2年で2%を目指すと明言していました。
◆どの程度の金融緩和をすれば早期に2%目標を実現できるかを議論する中で、(13年4月に)2年程度を念頭に置いて思い切った金融緩和をし、その結果として14年には一時、消費税の影響を除いても物価上昇率は1.5%程度までいった。原油価格の下落などもあって結果的に2%は実現していないが、我々としては「できるだけ早期に実現する」というコミットメントは全く変えていない。だからこそ昨年9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和という思い切った政策を導入して、今、最大限努力をしているところだ。
--年限はもう区切らないということでしょうか。
◆4年たっているわけなので、最近は「2年程度を念頭に置いて」とは言っていないが、「できるだけ早期に実現する」というコミットメントは変わっていない。そうした中で、長短金利操作という世界的にもユニークな政策を採用している。金利面だけでなく、量的な面についても、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続すると約束している。金融政策で使える手段は全て活用してやっている。
--金融政策の軸足を金利操作に転換した後も、日銀は年間80兆円をめどに長期国債を買い入れると言い続けています。これは必要なのでしょうか。
◆現在の枠組みでは、「80兆円」は、あくまで適切な長期金利水準を実現するためのメドであり、実際の買い入れ額はそれより多くなることも少なくなることもある。日銀は既に長期国債発行残高の4割ぐらいを持っているため、前よりも少ないペースで買っても金利押し下げ効果は十分出てくるが、そういうメドを無くすのが良いのかどうかはこれからも議論していく必要があると思う。いずれにせよ80兆円の買い入れは目標ではなく、金利を直接的に目標にしているということだ。
--2%目標達成が遅れても、物価上昇のモメンタム(勢い)が維持されていれば追加緩和は必要ないとお考えでしょうか。
◆19年度ごろという(2%達成時期の)見通しが変われば政策が必ず変わるという話でないことは事実だが、全く2%に到達しそうもないのに「モメンタムがある」とは言えないと思う。経済や物価に勢いがどの程度あるのかは十分見て、モメンタムが維持されてないということであれば当然さらなる緩和を検討することになる。
副作用の懸念は…出口の手段ある
--量的緩和に対し、事実上の財政ファイナンス(中央銀行による国債の引き受け)との批判があります。消費税増税が2度延期された今でも、財政ファイナンスではないとお考えですか。
◆財政ファイナンスとは全く違う。あくまでも物価安定目標を実現するため、市場から国債を大量に買い入れて金利を下げ、経済を拡大させて賃金・物価を上げていくためのものだ。
欧米の中央銀行が政府の国債発行額よりも多く市場から買い入れたことは何度もあるが、財政ファイナンスと言われたことはないと思う。
一方で13年の共同声明でうたっているように、政府は財政の持続性を確保するため、具体的な財政再建目標を作って今年6月の「骨太の方針」でも明示している。そのように財政の信頼性を保っていくことは重要だ。
いずれにせよ、政府が財政赤字をファイナンスしやすいように金融を緩和しようとか、国債を直接引き受けるとか、そういうことは全く考えていない。
--大規模金融緩和からの出口政策について、国債や株を大量に抱えていることに伴うコストや副作用は、説明した方がいいのではないでしょうか。
◆出口の問題は(同様に大規模緩和を実施した)欧米の中央銀行も直面している。金利を上げたり、バランスシート(資産や負債)を調整したりする過程で金融市場や経済、金融システムに不測の影響は出ないかという点では、既に出口政策を開始した米国でも問題は生じていない。日銀も適切な政策運営により、悪影響が出ないようきちっとできる。それだけの手段を持っており、大丈夫と言っていい。
(出口で)日銀の収益がどうなるかについては、経済やその時点の金融状況にもよる。具体的な数字を話すのは、かえって誤解を生じかねないので適切でない。
--次期総裁に必要な資質をどう考えますか。
◆私が言うのは僭越(せんえつ)だが、一般的に言って先進国の中央銀行の総裁は、理論と実践の両面をしっかり考えていく必要がある。もう一つはこれだけ経済や金融がグローバル化しているので、国際的な側面も十分認識していく必要があるし、ネットワークも必要だと思う。
また、自分の意見と違っても、いろいろな意見をよく聞くことは重要だと思う。これは中央銀行総裁に限った話ではなく、経済政策の担当者としてそうあるべきだと思う。
これ『黒田日銀総裁 「物価2%いずれ上がる」緩和堅持強調』と題した毎日新聞2017年8月19日 06時40分(最終更新 8月19日 06時40分)の記事である。
安倍首相の国会答弁と同じで何度見通しを誤った?
末端の中小の企業の現状をないがしろにした見通し、結局見通しの誤りと言うより経済政策の失敗ではないか。普通ならとっくに腹を切っててもおかしくないのに、依然として日銀の総裁として留まってる。こんな総裁最近無い!全てが机上の経済政策ではないか。今の経済はそんな理屈等通らない。要は国民の購買意欲が削がれ、消費しようと言う気持が起きない事が原因である。政府が言う好景気感が国民まで浸透してない証拠であり、例え賃金が上がっても、消費に向かず、貯蓄に向かうのがオチである。何故か?
消費する国民が司の国の行政をつまり政権を信用してないからである。国民の購買意欲を上げ、それを消費に回させるには、一にも二にも政府の信用を挙げる事である。国民がこの政府の言う事だったらと信用させるのが一番の方法である。安倍首相が松友や加計問題でウソついたような事を政策でウソつかない事なのである。それさえなくなれば経済論理でなくとも国民は喜んで購買に向き消費に向かうだろう。