「アベノミクス」的政策は博打であり政治がそれを推奨してる様は滑稽であり本質を忘れてる

■金融緩和に副作用は?
 2014年に入って1ドル=100円を超える水準で推移していた円相場は12月5日のニューヨーク外国為替市場で、予想を上回る良好な内容となった米雇用統計を受けて円売りが加速、07年7月下旬以来、約7年4カ月ぶりに一時121円台に下落した。
 円相場は12年秋、1ドル=80円を切る歴史的な円高を経験していた。その後半年で為替相場が2割以上、円安方向に動き、今に至っているのだが、急激な変動の要因は、政権に返り咲いた安倍晋三首相が打ち出した大規模な金融緩和だった。
 しかし、通貨の価値を都合の良いレベルに維持するのは難しく、為替相場が時に「暴走」して通貨価値を失墜させることがあり得るのは歴史が証明している。円相場の先行きを不安視する向きは皆無ではない。(時事ドットコム編集長・舟橋良治)
 12年12月の総選挙で大勝して政権に返り咲いた安倍首相は公共事業の拡大を表明するとともに、日本銀行に対して大規模な金融緩和を要請。これに応える形で黒田東彦総裁は13年4月、「クロダのバズーカ砲」と海外で呼ばれるほどの新機軸を打ち出した。「戦力の逐次投入はしない。必要な政策を全て決定した」という金融緩和策を受けて株価は上昇、為替市場では一気に円安が進行した。さらに、14年10月31日、市場関係者も予想していなかった追加緩和を断行し、一段の円安をもたらした。
 欧州の経済危機などを背景にした円高に苦しんでいた輸出企業は、いわゆるアベノミクスを高く評価し、円安を歓迎。この流れが定着し、自動車などの輸出品が価格競争力を復活させて生産活動が上昇トレンドに乗り、人々の給料が上がれば万々歳だ。
 しかし、金融緩和が人々の生活を圧迫しているのも見逃せない一面だ。
 輸入に依存する割合が高い小麦粉などの生活必需品、さらには地方での生活に欠かせないガソリンなどの価格が上昇。円安の悪影響がいち早く出た。
 今後、為替市場で1ドル=150円、200円といったレベルまで円安が進行する可能性がないとは言えない。そうした強い副作用も懸念される大規模な金融緩和を余儀なくされたのは何故か。遠因は、バブル経済の崩壊にある。
 1990年代初頭のバブル崩壊を受けて日本は、「失われた20年」とも言われる長期間の経済低迷に苦しんだ。特に、2000年前後からは物価がほぼ一貫して下落。物価下落が消費の手控えを招き、さらには生産が縮小するという「負のスパイラル」に事実上、陥っていた。こうした状況に終止符を打つために日銀総裁に指名されたのが、アジア開発銀行総裁だった黒田氏だ。
 黒田氏は総裁に就任すると間髪を入れず、長期国債保有残高が年間約50兆円増加するペースで購入することを柱とした金融緩和策を打ち出した。物価下落に歯止めをかけ、年率2%の物価上昇を実現するのが目的で、これが実現するまで金融緩和を継続する。50兆円は年間の新規国債発行額に匹敵する額だ。禁じ手とされる国債の日銀引き受けを市場を通じて行う措置と言えなくもない。
 金融緩和は、分かりやすく言うと、巷(ちまた)に出回るお金の量を増やすことだ。食品や自動車などモノやサービスの量が同じで、お金の量が増えれば、物価は上がる。金融を緩和すれば物価が上昇するは経済学のイロハだ。
 しかし、こうした物価上昇はその国の通貨、日本の場合なら「円」の価値の低下を意味し、価値の下がった通貨は為替市場で売られるのが宿命。だからこそ、黒田総裁が金融緩和を発表すると大規模な円売りが起きて円安が進行した。
 この円安が適度な水準で落ち着く保証はない。為替市場が「暴走」して、円が国際的な信頼を失って暴落すれば、国の存在基盤そのものが突き崩される。そんな怖さと危うさをはらむ通貨取引は24時間、今この時も休むことなく世界のどこかの為替市場で行われている。
 いわゆる「アベノミクス」が日本を復活に導くのか。金融緩和や円安の副作用に日本が耐え切れず、音を上げる事態に陥るのか。いずれにしても、歴史の転換点となるだろうが、最終的な答えが出るまでには、しばし時間がかかる。それを待つ間、企業や国が急激な通貨の上昇や下落によって翻弄され、苦闘した歴史を振り返り、今後に備えるのは、決して無駄ではないだろう。
■喜ばしい円高
 1990年代前半、バブルが崩壊する一方で急激に円高が進んでいた最中、時の日銀総裁は行きつけの居酒屋で酒を飲みながら「今日もまた、日本の評価が上がった」とほくそ笑んでいたという。しかし、公の場では決して本当の気持ちを表に出さなかった。その理由は今も昔も変わらない。「円高不況」に襲われて経営が立ち行かなくなると多くの企業が悲鳴を上げ、巷が騒然としていたからだ。
 米ドルと日本円をいくらで交換するのか。これが言わずと知れた円ドル相場だ。では、ニュースでも日々伝えられる円相場はどうやって決まるのか。為替ディーラーと呼ばれる専門家が市場で円やドルを売買し、取引が成立した値が為替レートとなるのだが、その取引は、各国の政治動向や経済情勢、景気指標など無数の情報を瞬時にディーラーが判断しながら行っている。
 例えば、世界中の誰もが乗りたいと思う車を日本のメーカーが作れば円の交換レートも少しは連動して上がり、品質が落ちて見向きもされなくなれば、下がる。車だけではなく、農産物や観光資源などお金を使って買ったり、楽しんだりする、広い意味での商品すべてが評価の対象。そんな物やサービスなどを外国人がどれくらい欲しがっているか、また日本が海外の国々から何を買いたいか。これらが総合的に判断されて決まるのが、為替レートの本来的な姿で、国の実力を端的に表している。
 北朝鮮の通貨ウォンを誰も欲しがらない理由を考えれば、強い通貨「円」を持つ日本のありがたさが分かるというもので、通貨価値の上昇は本来的には喜ばしいことだ。
 しかし、この相場が円高に振れると経済界から「利益が吹っ飛び、会社が立ちゆかない。産業の空洞化が起きる。円高是正を!」といった悲鳴が必ず聞こえてくる。日本を代表する企業トヨタ自動車は2012年の年明けごろの経営環境だと、1円の円高ドル安で営業利益が320億円吹き飛ぶ計算という。影響度の差はあるが、輸出企業の多くは同じような構図で経営が圧迫されると聞けば、円高に危機感を募らせる層が増える。
■先進国から転落
 円高の危機感は庶民の生活からは実感しづらいが、仮に1ドル=100円から1ドル=50円の円高になれば、同じ物を1ドルの同じ値段でアメリカで売ると円換算の売上額は100円から50円に半減してしまう。販売価格を倍に出来ればいいが、米国の消費者はそんなに甘くはない。
 では、日本の人件費や材料費などを半分にできるかといえば、できるはずもなく、手をこまねいていれば会社は立ち行かなくなってしまう。このため、多くの企業が急激な円高に見舞われた1980年代後半から東南アジアや中国に生産をシフトしてコストを下げてきた。
 実際、発展途上国でも生産できる商品を日本で作り続けるのは、人件費が違いすぎることもあって困難になっている。大企業で構成する日本経団連、中小企業の利益を代表する日本商工会議所は、産業空洞化や失業増加の懸念、さらには国際競争力を維持するため、円高是正を政府・日銀に求めるだけでなく、賃金抑制の必要性を訴え始めている。
 グローバル化の進展で国境の垣根が低くなり、企業はどの国にでも生産拠点を移すことが可能。日本で働いているという理由だけで日本人の人件費を高く維持し続けるのは難しくなるだろう。そうは言っても、発展途上国と同じレベルまで日本の労働者の賃金を下げて完全に同じにすれば、日本が発展途上国に後戻りする事態を意味し、先進国から転落する。
 賃金レベルを下げる選択ではなく、今の賃金を維持できる経営を追求するのがあるべき企業トップの姿のはず。新製品や新技術を開発、新たな生産方法も模索して高付加価値の製品を安く世に送り出し、円相場が高くても利益を出せる体質を作りだせない経営者は、失格。これは見落としてはならない大切な視座だ。
円高のおかげ
 経済や生活に大きな影響を与える円相場。よく耳にする割には数字を言われただけでは実感として分かりにくくないだろうか。その理由は、1ドル=100円とか1ドル=80円といった具体に、世界の大国である米国のドルを基準にして値段を示しているためだ。
 逆に、100円=1ドルとか、100円=2ドルと表示すれば、円の価値が上ってアメリカで2倍の買い物ができることがひと目で分かり、海外旅行に行こうと考える人が増えるに違いない。
 円相場の影響は働いている職場や暮らし方などによってさまざまで、円高の恩恵を受けるのは海外旅行者だけでない。世間に宣伝はしないが、電力会社など資源を大量に輸入する企業を筆頭に、円高で得をする人が沢山いるのも忘れてはいけない。
 電力会社やガス会社は、石油や天然ガスをほぼ全量、海外から輸入。輸出は行っていない完全な内需産業で、円高になれば支払代金がその分だけ減って儲けが増える構図だ。
 2011年度の貿易収支は4兆4000億円の赤字に転落した。赤字幅は第2次石油危機に見舞われた1979年度の3兆1000億円を大きく上回り、過去最大を記録。3月に起きた東日本大震災で多くの工場が被災したのに加え、欧州債務危機に伴う世界的な景気減速の影響で輸出が大幅に減少したのが主因だったが、原発の運転停止に伴って火力発電で必要な液化天然ガス(LNG)や原油の輸入が膨らんだのも大きく影響した。
 この2011年度は円相場が1ドル=80円前後で推移。つい数年前の06年から07年にかけては1ドル=110円台だったのと比べれば、かなりの円高水準だった。産業界は例のごとく円高是正を叫んでいたが、もしも円安だったならば輸入額が押し上げられて貿易赤字が膨張。東京電力を筆頭とした電力各社は、LNGなどの購入費が拡大して赤字幅が膨らみ、経営の深刻さが増したのは明らかだ。
 「円高のおかげ」という面がなかったとは言えない。
■英国が市場に負けた日
 プラス・マイナス様々な影響が出る為替相場だが、時に国家そのものを揺さぶることさえある。
 1992年9月、英国の中央銀行であるイングランド銀行は為替市場への介入で大幅な損失を出して事実上、破産。当時進めていた欧州共通通貨「ユーロ」への参加も見送るという事態に追い込まれている。
 当時、英国は欧州各国ともにユーロ導入に向けて為替レートを一定の範囲内に固定する政策を取っていたが、東西ドイツの統合で旧東ドイツへの投資が増える一方、イギリスは低成長にあえいでいた。そんな状況の中で英ポンドが実力以上に高い為替レートで固定されていると考えた投資家ジョージ・ソロス氏は、大規模なポンド売り・マルク買いをしておいて、将来的に安くなったポンドを買い戻せば大きな利益が得られると確信し、実行した。
 これに対抗してイングランド銀行は固定相場を維持するため大規模なポンドの買い支えを実施。9月16日にはポンドの魅力を高めて通貨価値を維持しようとの目的で公定歩合を1日で10%から12%、さらに15%にまで引き上げた。それでも為替市場でのポンド売りが収まらない。イングランド銀行は資金が底を突いたため買い支えができなくなり、固定相場を放棄。将来のユーロ参加も見送らざるを得なくなった。
 9月16日は先進国の中央銀行が市場に敗れた日として記憶され、ブラック・ウエンズデー(暗黒の水曜日)と後に呼ばれるようになる。
 為替レートは常に経済実態を反映するわけでなく、時に全く実情に合致しないレベルまで急激に変動する。経済統計や政治家の不用意な発言などに多くの為替ディーラーが反応して同じ売買注文を一斉に出したりするためだが、長い目で見ればその国の実力に合ったレートに収れんしていくとされる。
 政府・中央銀行による市場介入で為替レートを意図的に誘導するのが一時的には可能だとしても、長期間に渡って実態に合わないレートを維持するのが困難なのは、ブラック・ウエンズデーが証明している。
■不美人コンテスト
 2011年は、東日本大震災の発生と軌を一にする形で円高が進行し、1995年4月19日に記録した1ドル=79円75銭を更新し、10月31日には1ドル=75円32銭の史上最高値をつけた。国難に陥った日本の円が買われたのは間尺に合わないが、要因はギリシャに端を発した欧州の債務危機に伴ってユーロが売られたことにあった。
 為替相場は「美人コンテスト」ではなく「不美人コンテスト」で決まるとも言われる。ユーロが日本円より「不美人」と判断されてコンテストに“優勝”。円に人気が集ったというのが実態に近いだろう。
 その結果として、政府・日銀に対して円高是正を求める声が政界からも高まり、実際に市場介入に踏み切ったが、その効果が大きかったとは言い難い。ドル安を通じた輸出拡大を図りたいというのが本音の米国政府は、日本の市場介入に協力する気はさらさらなく、苦境に陥っていた欧州各国も同じ。政府・日銀は単独で市場介入するしかなかった。為替市場の1日の取引量は300兆円を上回るレベルで、日本の国内総生産(GDP)の半分を超えている。日本一国で市場に立ち向かい、大幅な円安に誘導するのは無理というもの。
 円相場は最高値を更新したものの、1995年当時と比べると深刻さの度合いは全く異なる。その理由の一端は、米国は恒常的に物価が上がっているのに対して日本は長くデフレが続いていることにある。
 少し分かりにくいかもしれないが、物価上昇で物の値段が上がれば、原則的にはその分だけ通貨価値が下がるのが道理だ。例えば、米国で缶コーヒーが1ドルから2ドルに値上がりするほどのインフレになれば、円相場は1ドル=100円から1ドル=50円、別の言い方をすれば100円=1ドルから100円=2ドルの円高・ドル安にならないと計算が合わない。
■通貨暴落の怖さ
 円相場は、1995年4月19日に1ドル=79円75戦というそれまでの最高値を経験。2011年10月31日に1ドル=75円32銭をつけ、最高値を更新したが、この間に起きた日米の物価上昇・下落の度合いを勘案すると、1ドル=60円くらいの円高にならないと95年と同じレベルの影響が産業界に出ない計算になるという。
 95年、経団連豊田章一郎会長が村山富市首相に円高対応を直談判した。それほどの危機感が経済界にあったが、11年の場合は円相場が最高値から80円台に戻ると円高是正を求める産業界の声は聞かれなくなった。産業界が円高に耐えられる経営体質を築いてきたことの証左だとも言える。
 為替市場は様々な思惑が入り乱れ、時に大きく乱高下をするのは避けられないだけに、為替レートの変動ばかりに一喜一憂するのは、輸出企業からお叱りを受けるかもしれないが、あまり建設的ではない。また、円高是正を求められる場面が多い日本の中央銀行だが、本来の役割が通貨価値の維持にあることは論を待たない。第一次大戦後にドイツが経験した激しいインフレで通貨マルクが価値を失い、経済が大混乱した歴史は、自国通貨が信任を失う事態の恐ろしさを証明している。
 通貨価値の上昇が直接の原因となって滅びた国はないが、逆に、通貨価値が暴落すれば、その国の経済は破綻して立ち行かなくなる。国が滅びれば、その国の通貨が無価値になるのと表裏の関係だ。いやゆるアベノミクスにより円安が進み、景気の本格的な回復が期待されているが、その先にあるかもしれない通貨価値の暴落について思いを巡らしてみると、少しは時の情勢を冷静に眺めることができるに違いない。

これ『為替相場の理と奔流~時に「暴走」する市場~』と題した時事通信の2月9日の特集記事である。

 これを読んでもらえれば、如何に政治が本質を忘れ博打のマネーゲームを作ったかが良く解かる。そのおかげでこの為替差損で莫大な富を築いた者もおれば、一夜にして奈落に突き落とされた者も居る。これを端的に表したのが格差社会の出現である。だがそれは社会に出回る金そのものでは無く、日銀と同じくデジタル貨幣でしかない。デフレ脱却は遠い先の話である。そんな事より何の事無い政府が法人税下げるより、銀行の借り入れの信用保証をした方が何10倍も金が市中に出回り、中小の企業が安心して金を借り、投資や、それに伴って賃上げも出来た筈で、デフレ等すぐに解消だった筈だ。政府のお偉方はあまりにも机上の経済法則を重視した結果だ。要は生きた経済知らなかったと言う事だ。