自民党の岸田文雄政調会長(61)が「ポスト安倍」を見据え、活動を活発化している。10月の党役員人事で政調会長に再任され、まず手を付けたのが党の政策立案を担う政務調査会の改革だ。総裁直属の特別機関を減らし、調査会などの統廃合も断行した。課題の知名度向上に向け、近く地方行脚もスタートさせる予定だ。9月の総裁選では立候補を見送り「決められない男」との印象もつきまとうが、「次」を明言する今、党内基盤を固めようとさまざまな布石を打っている。
岸田氏は、9月の総裁選で安倍晋三首相(64)が3選を果たした後、次期総裁選への意欲を明確に示している。政調会長の続投は、立候補を断念して首相支持に回った論功行賞とみられる。実際、総裁選の党員・党友票では、岸田氏のおひざ元の広島で首相が71・0%の得票率をあげ、首相の地元の山口(87・6%)、二階俊博幹事長(79)の地元和歌山(81・3%)に次ぐ3位に入り、意地を見せた。
岸田氏は、新たな党役員人事後の10月11日、自身が率いる宏池会(岸田派、48人)の会合で「外交や経済などの総裁直属機関は整理・縮小し、政調に政策論議を一元化する方向を考えるべきだ」と述べ、政調改革に意欲を示した。
以後、岸田氏は党総裁の安倍首相が権限を持つ24の総裁直属機関のうち「外交戦略会議」や「日本経済再生本部」「道州制推進本部」など5つを廃止。政調内の調査会や特命委員会なども従来の111から約2割少ない89に統廃合した。
さらに、社会保障制度に関する特命委員会を社会保障制度調査会に改組し、国会議員歴で自民党最長の野田毅元自治相(77)から鴨下一郎元環境相(69)にトップを代えた。情報通信戦略調査会は平成25年以降、会長だった川崎二郎元厚生労働相(71)から山口俊一元沖縄北方担当相(68)に交代させるなど、長年手つかずだった人事にも着手した。
調査会や特別委には内容が重なるものがあり、使命を終えた後もそのまま残っているケースが多かった。党幹部は「会長ポストなどが国会議員にとって一つの肩書きになってしまっていた」と語る。
岸田氏は、社会保障がテーマの「人生100年時代戦略本部」と、来年10月の消費税率引き上げに備えた対策や成長戦略などを検討する「経済成長戦略本部」、国の財政状況の改善を目指す「財政再建推進本部」を政調の3本柱に据え、党の議論を進める新たな体制をつくった。
岸田派中堅は、この3本柱こそが「岸田氏の次に向けた党内基盤づくりになる」と期待を込める。
小泉進次郎厚生労働部会長(37)が事務局長を務め、定年のない「エイジフリー社会」の構築などが盛り込まれた提言をまとめた「人生100年時代戦略本部」は維持した。国民的人気の高い小泉氏が「やりたいことを発揮できる場」(党幹部)を用意し、訴求力のある政策提言を期待する。政策面での連携は「小泉氏が影響力を持つ若手議員への浸透にもつながる」(岸田派中堅)との思惑もみえる。
経済構造改革に関する特命委員会を格上げし、日本経済再生本部を統合した「経済成長戦略本部」では、今月中に消費税率引き上げに伴う経済対策をまとめ、首相に申し入れる方針だ。党の経済政策の司令塔と位置付け、政府の経済財政運営の基本指針「骨太の方針」や成長戦略に党の意向を反映させたい考え。首相が重視する経済成長に向け、アピールする狙いもある。
一方、財政再建に関する特命委員会を格上げした「財政再建推進本部」は、財政再建にこだわりを持つ竹下派(平成研究会、55人)を率いる竹下亘前総務会長(72)に配慮した。竹下派は先の総裁選で支持先が首相と石破茂元幹事長(61)に割れたが、竹下氏は、かねてから岸田派に「政策的に一番近い」と述べている。岸田氏が総裁選に出馬していれば支持する可能性があった。
岸田氏は、党内にさまざまな布石を打つと同時に、地方組織を支える党員との直接交流を図るため、地方行脚にも取り組む方針だ。議員票と同じ重みを持つ党員票の獲得は総裁選に勝利する上で欠かせないからだ。
石破氏を始め、小泉氏や河野太郎外相(55)、野田聖子衆院予算委員長(58)ら「ポスト安倍」のライバルは、それぞれキャラクターが確立している。首相に近い加藤勝信総務会長(62)も党内で存在感を高めている。
誠実な岸田氏の人柄を評価する声がある一方、「頑固で最後は一人で物事を決めるタイプ」(派内ベテラン)との見方もある。首相の座をつかみ取るには、何をやりたいのかの道筋を明確に示し、自身の殻を破って周囲を巻き込む力強さが求められている。(政治部 長嶋雅子)