コロナ感染拡大で、秋の政局の焦点だった9月解散論が遠のき、自民党内では総裁選先行論が大勢となりつつある。高市早苗前総務相(無派閥)らが出馬に動き、岸田文雄前政調会長も総裁選日程の決まる8月26日に出馬表明する可能性が強まった。
岸田氏は名門派閥・宏池会(岸田派)の領袖で、他候補にとって高いハードルとなる「議員20人以上の推薦」は確実だ。現総裁の菅義偉首相も出馬を明言しており、岸田氏が出馬表明すれば、党員・党友も含めたフルスペックでの本格総裁選実施が確定する。
会合で相次いだ岸田氏出馬を求める声
東京五輪後も内閣支持率は下落し、国民の間では菅首相の交代論が拡大。与党内に強まる「菅首相では選挙を戦えない」との不安が、総裁選での菅氏再選を不透明にしている。
2020年9月の前回総裁選で大差の2位に終わった岸田氏だが、その後も現職を倒すだけの党内基盤はつくれていない。ただ、「今回出馬を見送れば、総理・総裁候補の権利を失う」(側近)との危機感が岸田氏の背中を押している。
総裁選先行で菅首相が再選されても、その後の衆院選で自民が大幅に議席を減らせば、改めて首相の退陣論が浮上する。このため、岸田派内には「勝てないまでも、首相とがっぷり四つで勝負できれば、次への展望が開ける」との声も広がる。
岸田派(宏池会)は19日、都内の事務所で開いた会合で次期総裁選への対応を協議した。席上、ベテランと若手の双方から岸田氏の出馬を求める声が相次ぎ、岸田氏も総裁選日程が決まる26日に最終判断する意向を示した。
十数名の在京議員が参加した同日の派閥会合では、岸田氏が「コロナ禍で国民がどのように総裁選をみているのか。しっかり考えながら対応しなければならない」とあいさつ。出席者からは「総裁選に出馬すると早急に決断すべきだ」「今こそ、宏池会の神髄を天下に鳴り響かせてほしい」などと、岸田氏の出馬決断を求める声が相次いだ。
岸田氏は会合後、「自民党は幅広い選択肢を持つ政党だと示す貴重な場だ。しっかりとした選挙(総裁選)をやらなければならない」としながらも、「私自身の総裁選への対応は具体的に日程が確定してから明らかにしたい」と従来の方針を繰り返した。
岸田氏はすでに側近議員らとの協議を通じて「菅政権をめぐる状況をみても、今回は本格総裁選を実施すべきで自分も出馬したい」との意向を固めたとされる。
前宏池会会長として同派に強い影響力を持つ古賀誠元幹事長は同日も岸田氏の出馬に否定的な考えを示したが、岸田氏としては26日に総裁選日程が決まった段階で、並行して開く派閥総会で正式に出馬表明する段取りを想定している。
人気投票で石破、河野氏と大差
岸田氏は石破氏とともに2020年9月の党総裁選に出馬。しかし、二階俊博幹事長が率いる二階派を先頭に、安倍晋三前首相の出身派閥の細田派、麻生太郎副総理兼財務相の率いる麻生派など主要派閥が支援した菅首相に大差で敗れた。
総裁選を受けて発足した菅政権は、当初は極めて高い内閣支持率を維持していたため、「本格政権として次期衆院選を戦うためにも次期総裁選は無投票再選が当然」(自民幹部)との見方が党内の大勢となった。石破氏が総裁選惨敗の責任をとって石破派会長を辞任したこともあり、岸田氏についても「次の総裁選への出馬は困難」(岸田派幹部)との見方が支配的だった。
その後、コロナ対応の迷走で内閣支持率が急落して状況は変わった。各種世論調査における「次の首相」の人気投票で、岸田氏はトップを争う石破氏と河野太郎規制改革担当相(コロナワクチン担当)に大差をつけられている。
その岸田氏が陣頭指揮を執った4月下旬の参院広島選挙区再選挙では、自らが押し立てた自民公認候補が、野党統一候補に惨敗。自民党内に「岸田氏は選挙に弱い」との声が広がり、岸田派内でも「このままでは総理・総裁の芽もなくなる」(ベテラン)との危機感が強まっていた。
もともと総裁選をめぐる岸田氏の拠り所は、当選同期で親しい安倍氏や宏池会の仲間でもあった麻生氏の支援だった。岸田氏は、政局の節目で安倍、麻生両氏と個別会談を重ねてきたが、両氏とも「当面、菅首相を支える方針は変えられない」と冷たい反応だった。
このため、岸田氏は6月に自らが会長となる「新たな資本主義を創る議員連盟」を旗揚げ。最高顧問に安倍、麻生両氏を迎え、145人の国会議員が参加した初会合には党税制調査会の甘利明会長も顔を見せた。
安倍、麻生、甘利の3氏は、その頭文字から「3A」と呼ばれ、いまや自民党の最高権力者となった二階氏の対抗勢力とみる向きが多い。岸田氏の議連など、3Aや二階氏が名を連ねる新たな議員組織が相次いで発足し、「ポスト菅に向けて互いに影響力を競う状況」(自民長老)になっている。
そうした中、岸田氏にとっての「最大の敵」(側近)とみられているのが二階氏だ。次期衆院選では複数の小選挙区で岸田派と二階派の推す候補が激しい公認争いを展開している。
山口3区で二階・岸田両派が一触即発に
特に、岸田派ナンバー2で同派座長の林芳正元文科相が参院議員を辞職して出馬する衆院山口3区では、現職の河村建夫元官房長官が二階派の会長代行とあって、「二階・岸田対決」による保守分裂選挙となっている。二階氏サイドは「現職優先が当然で、林氏は除名処分にする」と息巻くが、岸田氏も徹底抗戦の構えで一触即発の状態が続いている。
その一方で、林氏の出馬が「首相を目指すための衆院くら替え」であることが事態を複雑にしている。林氏が次期衆院選で勝てば、岸田派に2人の首相候補が並び立つことになるからだ。
林氏は岸田氏より4歳年下だが、参院5期のベテラン議員だ。参院議員にもかかわらず、文科相だけでなく経済財政相や農林水産相も歴任するなど閣僚歴も豊富だ。しかも、安倍氏の首相再登板につながった2012年9月の総裁選では、当時の古賀派(現岸田派)から出馬した経験も持つ。
岸田氏が総裁選出馬を見送り、次期衆院選で林氏が衆院議員となった場合、「総理・総裁候補を林氏にして、岸田派を林派に衣替えする可能性もある」(同派閣僚経験者)との見方も出始めている。岸田氏にとって、「今回の総裁選が最後のチャンス」(同)ともなりかねないわけだ。
岸田氏は19日に最大派閥である細田派に強い影響力を持つ森喜朗元首相と会談。総裁選や次期衆院選への対応をめぐり、安倍、麻生両氏とも随時会談する意向とされる。
総裁選には下村博文政調会長(細田派)と高市氏が19日、相次いで党本部に二階幹事長を訪ね、立候補を目指す考えを伝えた。二階氏は高市氏に対し、「しっかり頑張りなさい」と激励したという。
横浜市長選も党内情勢に影響
こうした中、22日に投開票となる横浜市長選の結果も、総裁選をめぐる党内の動きに大きな影響を与えそうだ。カジノを軸とする統合型リゾート(IR)の横浜港誘致の可否が最大の争点だが、誘致反対を掲げて閣僚(国家公安委員長)を辞職して立候補した小此木八郎氏を菅首相が全面支援しているからだ。
横浜港へのIR誘致は菅首相の肝いりで進んできただけに、有権者の間では「菅首相の変節が理解できない」との声が噴出している。しかも、コロナが横浜市を中心に感染爆発していることへの菅首相への批判が、小此木氏への逆風となっている。
自民党が先週に実施した情勢調査でも、立憲民主など主要野党が支援する横浜市立大の山中竹春元教授が小此木氏をリードしているとされる。横浜はまさに菅首相の地元で、与野党対決で小此木氏が敗れる事態となれば、「菅首相では選挙を戦えない」との声が加速し、総裁選に向けた菅降ろしにつながる可能性もある。
「宏池会のプリンス」と呼ばれる岸田氏は人柄の良さで知られる一方、「戦闘能力に欠ける」(自民幹部)と揶揄されてきた。まさに風雲急を告げる政局秋の陣に向け「戦う岸田を前面に出すしか道はない」(岸田派幹部)のが実態と言えそうだ。
これ『「ポスト菅」へ名乗り、岸田氏出馬のそろばん勘定 26日に出馬を表明、本格的な総裁選が濃厚に』と題した東洋経済online泉宏さんの2021/08/21 07:40の記事である。
この方はもとより闘って奪うと言う考えは持ち合わせていない。「岸田さんどうぞやって下さい」と言われるまで待てる特異な人間(ひと)である。だからこそ公家集団と言われる宏池会の代表である所以であり、「闘って奪い取る」集団からは恐らくバカかと揶揄されてる所以でもある。それでもこの方は怒る訳でもなく静観してれる人間でもある。およそトップに担ぐに値しない人間と思えるが、それでも担がれると言う事はそれなりの人間なのであろう。我々のような凡人にはどうも理解出来ない岸田さん像である。