そもそも、カジノがなぜ、日本に必要なのか。
安倍晋三総理は、カジノで海外からの富裕層を日本に呼び込むという。しかし、自治体の試算などでは、客の7~8割を日本人と見込んでいて、政府の説明とは矛盾している。しかも、この法案によれば、粗利の7割はそれを運営することになるであろう海外のカジノ企業に持って行かれてしまう。
カジノなどなくても、海外からの訪日観光客は急増中だ。彼らは、日本のパチンコや競馬目当てに来るわけではない。伝統文化、自然、温泉、日本食、アニメなどの文化、田舎の人情などなど、日本の魅力が海外の人々に理解され、多くの人を惹きつけているが、彼らが憧れる「日本的なもの」と「カジノ」は対極にある。
逆に言えば、カジノが好きな人に日本に来て欲しいと思う日本人はいるのだろうか。観光客の数だけ、あるいは、消費金額を増やすことだけを目的にした政策に意味があるのか、ちょっと考えればわかりそうなものだが、トランプ大統領への貢物としてどうしても成立させたい安倍総理、利権に目がくらんだ自民党と日本維新の会、さらには国民民主党など一部野党の議員たちが、何が何でも今国会中に法案を通そうとしている。もちろん、関係省庁の官僚たちも、21世紀最大の「利権創造」だとはしゃいでいるようだ。
さらに、残念なのは、自らの知恵のなさが原因でカジノしか思いつかない首長も誘致合戦を繰り広げている。大体その顔触れを見ると、品がなく、自分たちの伝統文化や町の魅力に誇りを持てない人々だと言っていいだろう。このような首長は、「知恵なし、品なし、誇りなし」の三無首長と呼ぶにふさわしい。
■笑える「世界最高水準の規制」
ギャンブル依存症対策法が6日に成立したが、そんなもので、依存症が防げると思ったら大間違いだ。安倍総理は、世界最高水準の規制を導入するので、心配ないと言うが、この「世界最高水準」という言葉が出てきたときは要注意だ。原発再稼働のために無理矢理再稼働最優先で作った原発の規制基準を当初、安倍総理は、「世界最高」の規制だと言っていたが、欧米の基準の方が日本より厳しいことがバレると、今度は、「世界最高水準」と言い換えた。「世界最高」に「水準」を付け加えて、幅を持たせ、嘘を隠そうとしたのである。
今回は、やや正直に、最初から「世界最高」ではなく、「世界最高水準」と言っている。それもそのはず。世間が最も注目していた入場規制が緩められ、とても世界最高とは言えなくなったのだ。
最もわかりやすいのが、日本人などの入場料だ。日本がお手本にしているシンガポールでは8000円なので、当初は、公明党が「少なくとも」8000円と主張していた。しかし、自民党はこれを4分の1値切って6000円で合意した。この時点で、「世界最高」のキャッチフレーズは諦めざるを得なくなってしまった。他の規制についても、例えば、入場回数の制限は、週3回、28日間で10回という制限を設けて、入り浸りを防ぐなどと言っているが、全く議論されていなかった「カジノで金貸し」を認めるという禁じ手が法案段階で入り、カジノ反対論者を驚かせた。
これについても、貸金業ではなく無利子融資で、期限も2カ月だからむやみに借金することはないとか、事前に「かなりの額」の預託金を預けた富裕層にしか貸さないので、金に困った人がのめり込んで生活に困窮するようなことはないなどと反論している。
理屈を言えばいろいろ言えるものだが、後述するとおり、この規制では大変なことが起きる。それを想像できないような政府では、とてもまともなカジノ規制はできないと考えた方が良い。
■資産家年金生活者を陥れる罠はこれだ
そもそも、カジノ業者が貧乏人を食い物にするというイメージ設定が間違っている。カジノ業者にとっては、カジノで大金を使わせるのが最大のテーマだ。ターゲットは、貧乏人ではなく、カネがあって、時間を持て余す依存症予備軍なのだ。日本人で「カネがあって時間もある」層と言えば、そう、家持ち貯金持ちの年金生活者だ。
私は、経産省の官僚時代に3年ほどクレジットカードなどを所管する取引信用課長というポストを経験した。そこでは、個人信用情報機関も所管していたし、いわゆる多重債務者問題にも深くかかわった経験がある。アメリカの消費者金融の実態や規制の状況も現地で詳しく調べたりした。そこでわかったのは、貸金業者は、規制にうまく合わせながら、合法的に消費者の金を吸い上げるということだ。
そこで、私の経験を踏まえ、カジノ事業の特殊性も勘案したうえで、カジノ業者が今回の法案を前提にして、資産家年金生活者の金を最も効率的に吸い上げようとするのかを考えてみた。
カジノ事業者は、顧客の行動をカメラやチップのかけ方の記録などで詳細に把握できる。この客はたくさん使う客だ―すなわち依存症予備軍だ―と狙いを定めたら、カジノ業者が繰り出す最初の一手が、預託金勧誘だ。
そのカギとなるのが、マイナンバーだ。カジノ法案では、マイナンバーでの入場チェックが義務付けられる。逆に言えば、カジノ業者は何もしなくても全ての顧客のマイナンバーを入手できる。また、カジノ事業者は、法律で、貸金業者や銀行などが運営するメンバー外には利用できないはずの個人信用情報機関へのアクセスが認められる。法案では、顧客の個人信用情報をチェックして貸すように義務付けられてもいるのだ。彼らは、顧客が申し込む時点で、必ず、自宅が持ち家かどうかを確認する。そこで、持ち家だとわかれば、すぐにその時価評価がいくらか調べるだろう。そのうえで、信用情報機関で顧客の情報を調べて、どれくらいまで貸せるかその上限を設定する。
ところが、この問題で一番重要な預託金の額やその何倍まで貸していいのかという上限倍率規制の内容が法律には書かれていない。ある程度の富裕層に限定するという政府の言葉を文字通り受け止めれば、例えば、預託金の額は最低500万円などという額になるかもしれない。カジノのために500万円預けられるのは相当な富裕層に限られるから安全だと政府は言うだろう。しかし、それは嘘だ。
カジノ業者は、預託金を預ける顧客にVIPカードを渡して、無料宿泊や無料食事クーポンなどの数々の特典を用意する。預託金は使う義務はないのだから、とりあえず預ければ、特典が利用できてお得ですよという誘い文句につられて、「使わなければいいんだから」ということで預ける人はかなり出て来るはずだ。そのうえで、貸付倍率の上限は、2倍なのか、10倍なのか、それ以上なのか、それが法案には書いていない。一つの目安となるのが、FX取引の証拠金規制だ。これによれば、現在預託する証拠金の25倍まで為替取引できることになっている。500万円の25倍だと1億2500万円だが、それは少し大きすぎる響きがある。これを仮に10倍だとすれば、5000万円が貸付上限だということになる。
もちろん、貸しても取りはぐれれば何の意味もない。そこで、狙うのは家持ち層だ。仮に顧客が時価5000万円の家を持ち、貯金が3000万円あるとなれば、5000万円貸しても十分に回収できる。こうした層に預託金を預けさせればまずは大成功だ。
■週3回は実は週6日 入場日数規制のまやかし
次に重要なのは、いかに足繁くカジノに通わせて大金を使わせるかである。私は昨年、ラスベガスのカジノを見学したが、その尋常でない雰囲気の中に長時間いると、自分が、本来は違法である賭け事をやっているという意識が徐々になくなっていくようだ。そこにいる限り、カネを賭けてみたいという欲求が出て来るものである。観光客なら、帰りの飛行機の制約があるが、年金生活者にはそういう制約はない。ついつい長居する者も多くなるだろう。
それを規制するのが入場回数規制だ。前述したとおり、この法案では、1週間で3回、28日間で10回という上限が設けられている。週3回でも入り浸り状態だと思うが、実は、ここに盲点がある。1回=1日ではないということだ。法案では、一回当たりの滞在可能時間は24時間。その間なら何回でも出入りできる。それを前提にカジノ業者は様々な工夫を凝らしてカジノに「入り浸る」環境を作っていくだろう。
例えば、このようなことが可能だ。図を見ていただきたい。一日目の月曜日17時にカジノに入り、徹夜でカジノをやる。24時間やって火曜日の17時にカジノを出て、カジノ業者が渡す特典の宿泊券でカジノ外のホテルに泊まり、水曜日の昼頃起きて、これまた業者にもらった無料のビュッフェクーポンで食事を楽しんだ後、再び夕方17時にカジノに入る。翌日の木曜日17時までカジノにいて、またクーポンで金曜日昼まで宿泊し、ビュッフェで食事。夕方17時にカジノに入り、翌土曜日17時までカジノ。その後クーポンで宿泊。翌日日曜昼にホテルを出て、その日はカジノに入れないので、場外馬券売り場などで時間を潰して、クーポンで宿泊。翌日月曜日になると新たな1週間が始まる。
これを3回繰り返すと、21日間で9回入場となるが、実質的には、21日間で18日入場と言って良い。それでもまだ、28日10回の制限には届かない。そこで翌週月曜17時に入って、翌火曜日までカジノを楽しめる。こうして、23日間で実質20日間のカジノ入り浸りが可能となる。
■「無利息ですよ!」はサラ金の常套句
これだけ入り浸る顧客で勝ち続けるものはごく少数かもしれない。負けた者の多くは、途中で帰るはずだ。しかし、その中には一定数、止められなくなるものがいることをカジノ業者は熟知している。手持ちの現金が尽きた時、「無利子のチョイ借り」の誘惑が待っている。
今回の法案では、カジノ業者が資金を貸すことを認めた。競馬や競輪では認められていない禁じ手だ。一方で利息を取ることは禁じた。素人は、それは厳しい規制だと思うかもしれない。しかし、それは全く逆だ。私の経験では、利息が高ければ、借金を思いとどまる人でも、利息なしなら、と借りてしまう人は案外多いのだ。
さらに法案では、貸付期間は2ヵ月までと書いてある。ちょっと立て替えてもらうという錯覚を起こさせる期間と言って良いだろう。しかし、その後にはとんでもない落とし穴が待っている。2カ月経過すると、いきなり年率14.6%の違約金が発生するのだ。利息制限法では、100万円以上の場合の上限が15%だから、上限ギリギリの「高利貸し」になり、5年強で借金は2倍になってしまう。
さらに問題なのは、この「高利貸し」には貸金業法による貸付金額の総量規制が適用されないことだ。貸金業では、債務者の年収の3分の1を超える貸し付けは禁止だ。他の貸金業者に対する借金も併せて3分の1である。したがって年金生活者の場合、借金の残高が1年間の年金収入の3分の1になったところで貸し付けはストップする。しかし、カジノ業者の場合は、この規制がないから、前述のとおり、数千万円の貸し付けも可能となる。
気の毒なのは、その家族だ。若い頃からこつこつ貯めて、持ち家も持って、これから余生を楽しもうという比較的恵まれた人たちが、いきなり数千万円の取り立てを受け、家を無くし、蓄えも無くす。一気に貧困者に転落するのだ。
法案では、本人や家族の申告で、入場拒否対象にしてもらうことができるが、依存症になっている本人はそんなことはしない。また、家族も、気づかなければそういう申し出をすることができない。
ここで問題となるのが、カジノ業者の貸付だ。もし、現金でしかチップを買えないことになっていれば、資金が無くなるたびに銀行から預金を下ろす必要があり、家族が気付くチャンスもあるだろう。しかし、借金しながら賭け続け、その後違約金も含めて、業者が目標金額に届くまで取り立てに動かなければ、家族は気付きようがない。そして、とりっぱぐれ寸前の段階で、いきなり数千万円の借金の取り立てがやってくる。
こうしてみると、資産のない金に困った人が顧客の中心である通常の貸金業とカジノ事業者が行う不動産や貯金を保有する人を対象とした「特定資金貸付金契約」(カジノ法案ではこう呼んでいる)とは、全くの別物である。1件当たりの被害額では、後者の方がはるかに大きいのである。
■海外マフィアと日本の警察のどちらが強いか?
今回の法案には、以上の他にも、カジノ面積規制のまやかし、カジノを監督する管理委員会のまやかし(カジノ事業者が委員になること)など“地雷”になる条項がたくさん盛り込まれている。
さらに驚くべきは、法案に条文として記載されず、法成立後に政令などで定める条項が先に述べた預託金の金額などを含めて331もあることだ。政令だから国会のチェックがなく、政権与党や内閣府、国交省など、カジノを所管する利権官庁が事業者とグルになって、カジノの運営ルールを決めるという仕組みになっている。
これらに加え、海外マフィアを日本に呼び込むリスクも高い。マフィアと言ってもアメリカ系、イタリア系 中国系、ロシア系などが入り乱れてやってくる可能性がある。これら海外の組織的犯罪グループと日本の警察のどちらが強いのか、よく考えてみるべきだ。安倍総理はトランプ大統領に頼んで、アメリカFBIに日本支店を作ってもらうつもりだろうか。
問題だらけのカジノ法案は、一度廃案にして、そもそも刑法で犯罪とされている賭博を大々的に解禁する理由が本当にあるのかどうか、あらためて考え直さないと、大変なことになるのではないか。「後悔先に立たず」とはこういう時のためにある言葉だと思う。
これ『古賀茂明「資産家年金生活者をカモるカジノ法元経産省クレジット信用取引課長が警告」』と題したAERA Dot 2018/07/09 07:00の配信記事である。
カジノ法案の解らない人でも、この記事を読めば理解できるだろうと思われる。
正にこの古賀茂明さんの言う通りである。
何でも手っ取り早くやって取りたい政府の思惑が透けて見える。
私的にはそんな事よりパチンコ税を導入した方が余程効率が良いと思われるのだが・・・・・・・。
原発と同じで苦労せず手っ取り早い方法と言う点では同じである。
こんな法案止めた方がなんぼか国民のためと思うのだが・・・・・・。