日本商工会議所の三村明夫会頭は5日の記者会見で、政府が子育て支援に充てるお金として経済界に要請した3000億円の企業負担に反対する立場を改めて表明した。この日は記者向けに反対理由をまとめた資料まで配った。経団連が負担を容認したのとは大きく異なる。政府が政策パッケージを決める閣議は8日に迫っているが、まだ強く反対する理由は何か。
「『経済界として』という文言は外してほしい」。日商の石田徹専務理事は11月下旬、日商を訪れた経団連幹部にこう告げた。経団連は11月30日の「人生100年時代構想会議」で、子育て支援のために3000億円を経済界全体で負担する考えを表明する方針だった。だが、石田氏としては日商を含む「経済界として」という言い方は認められなかった。会議では、経団連としての「協力表明」にとどまった。
安倍政権は8日にも子育て支援や生産性革命を柱とする2兆円規模の政策パッケージをまとめる。政府が財源の一部として当て込むのが、企業が社員に支払う給与総額に応じて負担する事業主拠出金だ。2017年度には0.23%の料率を、20年度には0.45%へと段階的に引き上げる。企業負担は4000億円から7000億円に増える。
これに日商が反対する理由の一つは、引き上げに至る手続きだ。子ども子育て支援法は拠出金の引き上げについて事業主と協議して決めると規定する。経団連と日商、内閣府、厚生労働省の事務方は定期会合で意見交換しているが、関係者によると3000億円の追加負担に関する協議はない。
10月末の構想会議で、安倍首相が経団連の榊原定征会長に3000億円の追加負担を求めたのは日商にとって「寝耳に水」(幹部)だった。この会議には日商の三村会頭は参加していない。三村氏は5日の会見で拠出金のメリットが不透明な中で「拠出金の運用規律をはっきりしてほしい」と主張。引き上げを協議する審議会を設けるべきだと訴えた。
もう一つの反対理由は3000億円のうち、約6割を中小企業が負担する点だ。拠出金は給与総額に応じて負担額が決まる。中小企業の雇用者数は全体の7割程度を占めており、負担が中小企業に偏りやすい仕組みだ。人手や後継者が不足することによる倒産が相次ぐなかで、追加負担は厳しい。日商首脳は周辺に「大企業だけ追加負担すれば良いじゃないか」と語る。
「茂木さんが中小企業団体に説明してほしい」。11月中旬、三村氏は茂木敏充経済財政・再生相と会い、日商以外の中小企業団体に拠出金引き上げの周知徹底を要請した。軽減税率を取りやめて子育て財源に回す案も伝えた。だが政府側が内々に中小企業団体に説明する程度。中小企業側が十分な説明を受けて納得したとは言いがたい。
政府側は中小企業に形式上は配慮を見せ始めている。厚労省は18年度から労災保険料率を下げ、企業負担を1300億円分減らす。労使が折半する雇用保険料は今年度から下がっており、ここでも企業負担は1700億円減っている。合わせて3000億円だが、これは本来、労災や雇用の状況に合わせて増減し得るもの。拠出金の議論と直結するわけではない。
「これ以上はないと思います」。三村氏が事業主拠出金の料率が0.45%を超えることはないか、ある経済閣僚に尋ねるとこんな答えが返ってきた。法律で上限を決めても法改正すれば再び上限は上がる。「思いますでは困るなあ」。中小企業を束ねる三村氏に不安は尽きない。(中村亮)
2017/12/5 15:27の配信記事である
こういうところが今の安倍首相の身勝手とよく似ている。良いとこ取りにも甚だしい!