先日の子連れ抱っこ市会議員への賛否は?

 熊本市議会で生後7カ月の長男を抱っこして議場に入った緒方夕佳議員(42)の行動に、賛否が渦巻いている。当初はバッシングの様相を呈していたが、勇気ある問題提起と賞賛する声も増えてきた。盛り上がる議論の背景を探った。【小国綾子/統合デジタル取材センター、城島勇人/熊本支局】
 

広がり続ける女性間の格差

 ツイッター上の批判には、育児中の女性を名乗る投稿も少なくない。
 <議員ならシッター代を自腹で払え>
 <同じ母親として腹立つ。会社に子供連れてくなんてただの非常識>
 <常識やマナーやルールをお前みたいに守らないのと一緒にしないで>
 「子育てと仕事の両立に悲鳴を上げる人々の声を伝えたい」と語る緒方さんの行動に、当の母親たちが反発したのはなぜか。

 「ワンオペ育児」を著した社会学者の藤田結子・明治大教授は「緒方さんが議員だったことが大きい。社会学者の上野千鶴子さんはこのような女性たちの感情を『相対的剥奪』という概念で説明しています」と指摘する。

 これは「人は絶対的な劣悪さよりも、他人と自分を比較した時に不満や欠乏の気持ちを抱きやすい」という考え方だ。

 藤田さんは「非正規雇用で子供を産めずにいる」「2人目は無理」などの声を多数聞いている。「そんな人の目には恵まれた人のわがままと映ったのでしょう。『シッターを雇える身分なのに。私たちはもっと苦労している』と。女性間の格差は拡大する一方です。バッシングの背景には、非正規で使い倒され、不安定な中で子育てをする女性たちの厳しい現実があります」と説明するのだ。

「言いたいことは分かるんだけど……」

 日経WOMAN元編集長の野村浩子淑徳大教授は「訴え方が働く女性の共感を得にくいものだった」と分析する。「組織の中で男社会の論理を突き崩そうと地道に努力を重ねている女性たちの目に、緒方さんの訴え方は稚拙と映ったのでしょう。もっと戦略的にやらないと周囲の理解は得られない、と」

 確かに、ツイッターでも訴え方への批判が目立つ。
 <周囲に迷惑を掛けたり、身勝手とも取れる訴え方では、逆に働く女性(母)への偏見を招くのでは?>
 <言いたいことはめちゃめちゃ分かるんだけど、やり方が……>
 野村さんは「議会で子育て議員が増えることは大切です」と強調しつつ、こう語る。「一般企業では許可なく会議に子連れで行けば問題になります。一人の議員が『子連れ』を議会に認めさせる行動が、広く仕事と子育ての両立につながる、と実感できない人が多かったのではないでしょうか」
 

トーンポリシング」という指摘も

 「子連れ議会」の賛否を聞く「ヤフーニュース意識調査」(2日午後11時現在)では、約30万の投票のうち8割強が「反対」だ。ネット上の批判を見ると「ルール違反」「訴え方がダメ」などが目立つ。さらに「子供をダシにしたパフォーマンス」という声も。

 しかし、病児保育などに取り組む認定NPO法人「フローレンス」の駒崎弘樹代表理事は「ルールに従えという価値観は日本社会の特徴。しかしルールは人が作り、変えていくもの」と説く。「パフォーマンス」との批判に対しても「人種差別に反対してバスで白人に席を譲らなかった一人の黒人女性の行動が、公民権運動につながった。多くの社会変革は横紙破りのパフォーマンスがきっかけになっている。パフォーマンスで何が悪いのか」と反論する。

 駒崎さんはさらに、女性の権利を主張する欧米の運動を背景に生まれた「トーンポリシング」という新しい言葉で、今回の問題を読み解く。抑圧された側の発する訴えには怒りや悲しみの感情が伴う。その「トーン(調子)」を「ポリシング(取り締まる)」という意味だ。「気持ちは分かるが、そんな言い方では周囲に理解されないよ」「目的は正しいが手順を踏むべきだ」という発言は冷静で理性的に見えるが、問題の本質を訴え方の是非にすり替え、結果として抑圧に手を貸す、とされる。

 「最近、トーンポリシングが目立つ」と駒崎さんは危惧する。「『保育園落ちた 日本死ね』でも『死ね、はいかがなものか』と表現を批判し、訴えの中身をおとしめる主張がありました。緒方さんへの批判にもそんな傾向が多く見られます」
 

21世紀の「アグネス論争」?

 今回の問題に、30年前の「アグネス論争」を重ねた人も多いのではないか。

 タレントのアグネス・チャンさんは長男を出産した翌1987年、乳児連れでテレビや講演の仕事を再開した。これを作家の林真理子さんらが「職業人の自覚に欠ける」などと批判。「職場にプライベートを持ち込むなという『正論』が女性を抑圧している」「子連れ出勤は子育てを母親だけに押しつける」など多様な視点から議論が盛り上がった。

 アグネスさんの行動は当時、「横紙破り」と見られたが、その後の企業内保育所の整備へとつながったとされる。
 では、今回の論争は「アグネス論争」の焼き直しなのだろうか。

 「いいえ、時代は大きく変わっています」と藤田さんは言う。「当時のアグネス論争では、男性たちは『女同士の戦い』と高みの見物だった。今回は少なからぬ男性が緒方さんを擁護している。30年前より男性の育児参加が進んでいるからでしょう」

 緒方さんが1年前から議会事務局と交渉してきた経緯や、自分個人の権利だけでなく、子育て世代の大変さを訴えようとしたことが知られるにつれ、賛成意見も増えてきた。

 緒方さんへのバッシングの激しさを嘆き、応援を表明する子育て中の女性の声も多い。ツイッターでも、

 <懸命に生活してる子育て世代を、「恥」だとか、「迷惑」だとか、目を背ける風潮、要点に触れず、叩(たた)き潰す世の中だから少子化なんだろな>

 <わがままではなく、大切な問題提起。そもそも「議員さん個人でベビーシッターを雇って対応してください」という自己責任モデルが、この国の少子化を加速化させている>

などの投稿が見られる。

 ツイッター上では「#子連れ会議OK」というハッシュタグを使い、打ち合わせや会議などの場に子連れで来てもらって構わないと意思表明する動きが広まっている。

 日本の女性議員の割合は1割にも満たず、主要7カ国(G7)でも最下位。中でも子育て世代はごく一握りしかいない。緒方さんの横紙破りが、日本の議会の風景を変える一歩になるのかどうか。
 

緒方さん「子育ての悲鳴を可視化したい」

 今回の問題の経過を振り返る。

 緒方さんによると、昨年11月に議会事務局長ら3人に妊娠を報告し、子育てと議員活動の両立について相談した。今年4月に長男を出産したが、体調を崩して休んでいた。今年11月に入り、12月定例会への出席を議会事務局に連絡した。

 緒方さんは11月22日、15分間ほどの本会議に出席するため、ベビーシッター役を伴い長男を抱いて議場に入ったが、市議会は認められないとして紛糾。本会議は予定より40分遅れて開会し、緒方さんは出席したが長男はベビーシッター役とともに議場外に出された。緒方さんは毎日新聞の取材に「子育てと仕事の両立に苦しむ女性の悲痛な声を可視化したかった」と子連れ出席の目的を語った。その後、緒方さんに対し、熊本市議会議長が近く「開会を遅らせたことは重大な問題」として文書で厳重注意する。
 

熊本市の同僚議員や市民たちは?

 熊本市の同僚議員たちの反応はさまざまだ。

 厳重注意の処分を決めた議会運営委員会で、最大会派の自民の高本一臣市議は「開会が遅れたことと子育て環境の充実は切り離して考えるべきだ。緒方市議が子育て環境で不十分な点を提案した。環境の改善に向けた議論につなげたい」と話した。

 上野美恵子市議(共産)も「議会を混乱させたことは問題だが、適切な保育環境の確保の議論も必要」と一定の理解を示した。

 一方、満永寿博市議(自民)は緒方市議が市議会への託児所設置やベビーシッター代の公費負担を求めたことに対して「ベビーシッター代の公費負担はもってのほか。議員だけが利用できる託児所の設置は許されない」と否定した。

 市民も関心を寄せている。中央区の無職、安田勝年さん(72)は「乳児は泣くので議場に入るのは問題だ」としながらも「議会開会中だけでも市役所の空き部屋を使って託児所を作るなど、安心した環境で議員活動してくれた方が市民のためにもなる」と話す。南区の会社員、川本久仁夫さん(69)も乳児同伴に否定的だが「子育て中の議員は少ない。公費でベビーシッター代を出しても支出は少ないはずだ」と話す。

 一方、西区の主婦、林田美穂さん(42)は「ベビーシッター代は自費でまかなうべきだ。議員ばかり優遇するのは不公平だ」と疑問視する。長男が1歳だという中央区の主婦、村上葵さん(25)も「子供を預けられる環境だったのに、一緒に出席しようとしたのは理解に苦しむ。子供がもしも議場で泣いたら議論は中断する。周囲への配慮が必要だったと思う」。長女が1歳の南区の主婦、原田穂波さん(24)も「議会より民間の託児所を増やしてほしい。市民全体の子育て環境の充実を考えてほしい」と訴える。
 
 
これ「子連れ議会熊本市議の行動に賛否 盛り上がる背景は」と題した会員限定有料記事毎日新聞2017122 2300分の配信記事だ。
 
 
結論から言えば私は反対である。上記の理由でなく、私はだったら議員と言う職を選ぶなと言いたい。主張そのものは理解するが「女性と子育て」と言う総論になってしまう。でなければ自己中と映ってしまう。少なくとも自己主張を担保した独善行動と映るし順序が逆だ。もしそうだったら、議会に理解してもらえなければ、理解出来る環境にまで欠席するべきである。その場合には市会議員としての義務が遂行できなければ辞めるべきとも思う。とにかく考え方が稚拙で幼稚だ。