この問題では、メディア報道および文部科学省(文科省)や愛媛県の文書などさまざまに入り混じって、いったい何が論点なのか分かりにくくなっている気がします。そこで便法としていったん時系列で整理してみました。
内閣府によると、「構造改革特区」とは「実情に合わなくなった国の規制が、民間企業の経済活動や地方公共団体の事業を妨げていることがあ」るとの認識の上で、「地域を限定して改革」して「地域を活性化させることを目的として平成14(2002)年度に創設されました」。地域からの提案を国が受けるという、いわばボトムアップ型です。
17年3月30日の参議院農林水産委員会で舟山康江議員の質問に対して川上尚貴内閣府地方創生推進事務局次長が「平成十九年(2007年)から平成二十六年(2014年)までの間、計十五回にわたり、今治市、愛媛県が連名で構造改革特区での提案を行ってきております」と答弁。設置予定母体が加計学園でした。
これらは結局すべて実現しませんでした。ただ問答無用の「対応不可」から動いたかと思われた時期も。民主党政権下の2010年3月25日開催の構造改革特別区域推進本部(本部長は鳩山由紀夫首相)で決まった「政府の対応方針」で、「獣医学部の設置の認可」が「平成22年(2010年)度中を目途に速やかに検討」とランクアップしたのです。
《12月》
「国家戦略特区」法が成立しました。構造改革特区と異なるのは、「国が定めた国家戦略特別区域において、規制改革等の施策を総合的かつ集中的に推進する」という、トップダウン型の意思決定です。計画に同意するかどうかを首相が議長を務める「国家戦略特区諮問会議」で話し合い、同意となった案件が首相の認定を待つという仕組みです。アベノミクス「第三の矢」の成長戦略の目玉として導入されました。
《2月》
加計学園の加計理事長と安倍首相が面会し、首相が「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」と発言したされています。愛媛県が2018年5月に国会へ提出した文書に記載されていました。これに対し、学園側は面会を否定。6月19日には理事長が急きょ、本部のある岡山県で記者会見して、面会は「記憶にも記録にもない」とあらためて否定します。県との打ち合わせで「いいね」などの情報を「私が言ったのだろう」とする渡辺良人学園事務局長は減給処分となりました。
《4月》
愛媛県と今治市の職員、及び加計学園幹部が2日、藤原豊内閣府地方創生推進室次長と内閣府内で面会した後に、柳瀬唯夫首相秘書官と首相官邸で面会。柳瀬氏は「本件は、首相案件」と発言したとされています。これも愛媛県が作成した文書に記載されていたものです。柳瀬氏は「記憶の限りではない」とぼかしていましたが、今年5月10日の衆議院予算委員会に参考人として招致された時は「加計学園の方、その関係者の方と面会をいたしました」と軌道修正。
その上で「今治市の個別プロジェクトが首相案件になるという旨を申し上げるとは思いません。そもそも、言葉といたしまして、私はふだんから首相という言葉は使わないので、私の発言としてはややちょっと違和感がございます」と答弁。「首相案件」発言も、「加計学園の件につきまして、総理に対して報告したことも、指示を受けたことも一切ありません」と首相の関与も、それぞれ否定しました。
《6月》
《同月》
その一部に「獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討」の項目が設けられ「現在の提案主体による既存獣医師養成でない構想が具体化し、ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的需要が明らかになり、かつ、既存の大学・学部では対応が困難な場合には、近年の獣医師需要動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う」と記されています。
■2016年 諮問会議「広域的に存在しない地域に限り」
《1月》
「広島県・今治市 国家戦略特別区域」の計画が認定され、29日に広島県と今治市が国家戦略特区に指定されました。その1つが「獣医師の養成に係る大学設置事業」で、加計学園が「獣医学部の設置の認可を受けた上で、愛媛県今治市において、獣医師が新たに取り組むべき分野における具体的需要に対応するために獣医学部を新設する」という内容。開設は2018(平成30)年4月とされました。
《3月》
《9月》
後述する「総理のご意向」「官邸の最高レベル」発言がなされたとされる内閣府と文科省の打ち合わせ(26日)のあった月。2017年6月15日に文科省が「国家戦略特区における獣医学部新設に係る文書に関する追加調査」として公表しました。獣医学部をつくるためには国家戦略特区を担当する内閣府と認可する文科省の協議が必要です。
文科省の追加調査の「資料」のうち「藤原(豊)内閣府審議官との打合せ概要」では、藤原氏が文科省課長などに「平成30(2018)年4月開学を大前提に、逆算して最短のスケジュールを作成し、共有いただきたい。(中略)これは官邸の最高レベルが言っている」と明かし、「『できない』という選択肢はなく事務的にやることを早くやらないと責任をとることになる」とまで念押ししたとしています。
また「大臣ご確認事項に対する内閣府の回答」という文書には、当時の松野博一文科相の発言として、開学時期などに絡んで「『最短距離で規制改革』を前提としたプロセスを踏んでいる状況であり、これは総理のご意向だと聞いている」と書かれています。
《10月》
17日に京都府の農林水産部副部長や京産大の副学長らが国家戦略特区ワーキンググループ(WG)のヒアリングを受けました。獣医学部設置構想を説明します。議事要旨を読む限り、WG委員の反応はおおむね好意的で、獣医学部の新設をはねつける文科省の姿勢に対して批判的という点では、京産大側に同調する姿勢も見られるぐらいです。
《11月》
9日の国家戦略特区諮問会議で、「広域的に獣医師養成大学等の存在しない地域に限り」新設を可能にするために関係制度の改正を行うと決定しました。
《1月4日》
内閣府と文科省が連名で告示。獣医学部新設に関して、前年11月の諮問会議での決定「に従い、一校に限り」「認可を申請される」としました。「平成三十年度に開設する獣医師の養成に係る大学の設置」にしか適用しないとも。同日、事業者の公募を開始しました。
《1月10日》
《1月20日》
前年11月の諮問会議決定から1月4日の告示までの経緯から推測すると、加計学園のライバルであった京産大排除を目的としていたと勘ぐることはできましょう。何しろ同大が立地する「関西圏 国家戦略特別区域会議」には大阪府立大学生命環境科学域獣医学類があるため、「広域的に獣医師養成大学等の存在しない」に当てはまりません。しかも「一校に限り」ですから、「加計学園の次」の椅子もないわけです。結局、京産大は期日までに応募すらしませんでした。
もっとも、京産大は7月に行われた記者会見で、獣医学部新設の断念に至ったこうしたストーリーを肯定していません。マスコミ報道を総合すると、申請しなかった最大の理由は1月の文科省・内閣府告示で、開学時期が「平成30年度」と初めて知り、質の高い教員確保には準備期間が足りないと判断したようです。
その通りかもしれないし、上述の勘ぐり通りであったとしても、「時期が我が校にとって早すぎた」という穏便な言い方で波風を立てなかったのかもしれません。
《3月》
《5月》
朝日新聞が5月17日付の朝刊1面で、「新学部『総理の意向』文科省に記録文書 内閣府、早期対応求める 加計学園計画」との見出しで疑惑追及を開始。記事冒頭を引用すると、「安倍晋三首相の知人が理事長を務める学校法人『加計学園』(岡山市)が国家戦略特区に獣医学部を新設する計画について、文部科学省が、特区を担当する内閣府から『官邸の最高レベルが言っている』『総理のご意向だと聞いている』などと言われたとする記録を文書にしていたことがわかった」とあります。
おおよそこの記事が号砲となって、「加計学園問題」がマスコミをにぎわすようになりました。
《11月》
10月の衆院選で自民党(安倍総裁)が284議席を獲得。連立を組む公明党と合わせて3分の2を維持しました。前回の選挙より改選数が10減されていたので前進したといえましょう。結局、文科省は11月14日に加計学園の獣医学部新設を認可しました。
安倍首相が指示した根拠は現時点で存在せず
この問題は詰まるところ、安倍首相が長年の友人である加計理事長の念願であった獣医学部新設のために、「私情で公のプロセスをねじ曲げたのではないか」という疑いに尽きます。なるほど「そうだとしたら疑わしい」文書や発言が見られるのは事実。一方で首相が指示したという明確な証拠は、いまのところ存在しません。
多分に「疑わしい」をオーソライズする役割を担った2018年5月以来の前川喜平前文科省事務次官の発言も、認可の選考過程に携わった文科省の事務方トップの言うことだから信ぴょう性が高いと考える人々がいる半面、既に前職となった者の言い分に過ぎず、かつ文科省はそもそも一貫して獣医学部の新設そのものに消極的であり、いわば規制したい立場を覆された結果なのでバイアスのかかった言動であるとも推測できます。
どこの国でも長期政権に緩みや驕りが生じるのはある意味当然で、行政府の長たる首相に官僚が「忖度」するのも(もししていたとすれば)当たり前といえば当たり前といえます。そうした権力の構図を根底から変えるには、理論上は政権交代が有力な手段の一つになります。ただ政権が担えるのか野党の力量も問われることになります。
■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など
この時系列に羅列された事柄を見ると、15年もの間出来なかった事が、知人である権力者が座った事により、急転可能になったと見て間違いがないと私には見える。ここで行政当局は二言目には法を犯していない。つまりは違法性ないとの見解だが、法を犯さなければ何をしても良いともとれ、道義的責任を排除している。また法を司る検察もつまりは役人であり、官僚の忖度の域に入る。私から見ればこんな理不尽・不条理他に無い! 穿って見れば、この「国家戦略特区」15年もの間のご苦労に報いるための規制緩和に名を借りた、安倍首相の気遣いに思えてならない。「モリカケ問題」以上に悪質な戦後政治の破廉恥政策と言って良く、人間古来の動物的本能「喜怒哀楽」に恥を加えた「喜怒哀恥楽」と言え人間としての最大醜聞事と言えるだろう。恥ずかしくて言葉にも出せないが、今もって潔白だと言ってる人間が現実としている事そのものが恥ずかしい。人間そのものの価値観の違いと思える。