実際、強まる一方の小池旋風で都議会自民党は崩壊寸前だ。都議選の前哨戦となった2月の千代田区長選では自民党候補がトリプルスコアで大敗。“都議会のドン”と小池百合子都知事に名指しされた内田茂・都議が引退に追い込まれ、都議会は百条委員会で石原慎太郎・元都知事の証人喚問を決定した。泥船の都議会自民党からは離党者が相次いでいる。
都議選(定数127)は定数1の千代田区から定数8の世田谷区までが混在するが、小池知事の「都民ファーストの会」は全選挙区に70人以上の候補を立てて過半数を狙う構えだ。自民党東京都連の選対スタッフの表情は引き攣っている。
「小池氏がそこまでの数の立候補者を立てるとなれば、自民党は7つある1人区で全敗する可能性が高い。最低1議席は確保できると思われていた15の2人区も相当厳しくなる。このままでは20議席減どころか、過去最低だった2009年都議選の38議席を大きく割り込む歴史的大敗になるかもしれない」
都連幹部から最新の選挙情勢の報告を受けた安倍首相は、「そこまで悪いのか」と絶句したという。
10年前の第1次安倍内閣当時、参院選大敗をきっかけに政権を失った経験がある安倍首相は「選挙常勝」に強いこだわりを持つ。講演でも、「私は国政選挙4連勝。これは、戦後では佐藤栄作・元総理と並ぶ」と選挙の強さを誇ってきた。
地方選挙とはいえ首都決戦で大敗すれば、それが蟻の一穴となって政権基盤を揺るがす可能性がある。都議選は負けるわけにはいかないのだ。
そこで、官邸では小池旋風にカウンターパンチを浴びせる秘策が練られている。「7月総選挙」だ。官邸に太いパイプを持つ永田町関係者が語る。
「永田町でも霞が関でも解散は秋以降とみられているが、官邸では早期解散論が消えていない。東京で小池旋風が吹き荒れているといっても、全国的に見れば安倍内閣の支持率は60%と高く、野党の蓮舫・民進党はガタガタ。いま解散を打てば自民党の敗北はまず考えられない。
メディアは総選挙報道シフトを敷き、都議選での小池新党vs都議会自民党という局地的な対立の構図をウヤムヤにできる。逆に、安倍首相が解散を先送りするほど総選挙のタイミングが難しくなる。国際情勢は不安定で、経済もいつ失速するかわからない。だから7月都議選に解散総選挙をぶつけてダブル選挙にするという案を官邸は捨てていない」
都議選のために解散総選挙を打つとは本末転倒に思えるが、相対的に都政への注目度が下がるのは確かだろう。東京選出の自民党代議士は「都議選で大敗した後の総選挙は自民党には不利」とダブルを期待する言い方をする。
「都議選で自民党都議が大量に落選すれば次の総選挙での“選挙運動の手足”がなくなってしまう。現在、自民党は東京の衆院25小選挙区のうち22議席を持っているが、民進党がいくら弱いといっても、次の総選挙に共産党を含めた野党統一候補を立てられると自民党は東京で大きく議席を減らすことを覚悟しなければならない。その点、総選挙と都議選のダブルになれば都議と一緒にフルに選挙運動ができる。相乗効果は非常に高い」
もうひとつ、「都議選ダブル」なら自民党に有利な現行制度で総選挙を行なうラストチャンスとなるかもしれない。
「仮に、総理が政府の区割り審議会の答申(5月27日が期限)が出される前の5月23~26日に衆院を解散すれば、憲法で40日以内の総選挙と定められているので、自民党議員の多くが望む現行の選挙制度下で7月2日投票の総選挙日程がギリギリ可能となる」(同前)