経済浮揚策これが現実である

 日銀の 黒田東彦総裁が大規模な金融緩和策を導入して4日で1年となった。日銀は世の中に出回るお金を74兆円増やしたが、その大半の70兆円が金融機関に眠ったままで、企業や個人への貸し出しに回っていない。急速に進んだ円安株高に熱狂した市場は落ち着きを取り戻し、デフレ脱却に向けて真価が問われる2年目が始まる。
 「日本経済は2%の物価安定目標の実現に向けた道筋を順調にたどっている」。黒田総裁は就任から1年となる3月20日の講演で力説した。しかし、黒田総裁の強気な姿勢と裏腹に、大規模な緩和策にはほころびも見え始めている。
 日銀が供給するお金の量を示すマネタリーベースは、昨年3月の134兆円からことし3月に208兆円へ74兆円増えた。一方、金融機関が日銀に設けている当座預金残高も昨年3月の47兆円からことし3月に117兆円へ70兆円膨らんだ。
 金融機関から企業や個人への貸出残高は8兆円の増加にとどまり、金融機関が日銀から受け取ったお金は十分に活用されていない。
 なぜ貸し出しは伸びないのか。全国銀行協会の 平野信行会長(三菱東京UFJ銀行頭取)は「金融機関の利ざやは米国で3%ぐらいだが日本は1%程度」と述べ、企業の資金需要が少なくリスクに見合った利ざやが取れないのが原因との見方を示した。
 鍵を握るのは輸出と設備投資だ。だが、企業は海外に生産拠点を移し、海外経済の先行きも不透明さを増しており、製造業は雇用や生産の増加につながる設備投資に慎重な姿勢を崩していない。
 みずほ証券の 上野泰也 チーフマーケットエコノミストは「日銀が期待を持ち上げようと頑張っても、企業の新陳代謝を活性化するような産業政策がなければ、日本経済の再興は難しい」と話す。
 「非常に効果があり画期的だ」(経団連米倉弘昌会長)と称賛と歓迎が相次いだ日銀の「異次元」の金融緩和策だが、2年目の黒田総裁率いる日銀が進む道は平たんではない。
◎物価目標は5年で達成を 岩田一政・元日銀副総裁 
 ●日銀の大規模な金融緩和への評価は。
 「物価上昇率を前年比で2%程度にする目標設定は正しい。ただ昨年4月から2年間で達成というのはあまりに短い。5年ぐらい時間をかけてゆっくりと目指すべきだ」
  「人々の期待が転換するには一定の時間がかかる。2008年にも物価上昇率が一時的に2%に達したことがあるが、原油価格の上昇が原因だったため、すぐに急落した。安定的に推移することを確かめるには時間が必要だ」
 ●5年間も金融緩和を続ければ弊害もある。
 「海外の中央銀行には、金融緩和の長期化による悪影響が放置されないよう金融緩和をやめる枠組みを金融政策の中に組み込んでいる例がある。日銀も現在の政策を正常化する場合に向けて、一定の条件や仕組みを設けるべきだ」
 ●これまで物価は順調に上昇してきた。
 「半分ぐらいは円安によって輸入物価が上昇した影響だ。企業の生産拠点が海外に移り、貿易構造が変化する中で、輸出の持ち直しが遅れている。輸入が伸びたため、想定より円安が物価上昇に強く働いている」
 ●景気の先行きは。
 「基本的には、これまでの景気回復の流れが続く。消費税増税の影響もあり内需は弱まるが、輸出や設備投資は少しずつ出てくるだろう。ただ14年度の実質成長率が、日銀の予想する1・4%に達するのは困難だ。物価上昇率も日銀予想の14年度で前年比1・3%を達成するのは難しい」
  「円安による物価の押し上げ効果が弱まる中、物価上昇は景気回復による需給の引き締まりが引っ張っていくことになる。2年で2%を実現するにはかなり力強い経済成長が必要になる計算だ」
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  いわた・かずまさ 東大卒。日銀副総裁を経て10年から日本経済研究センター理事長。東京都出身。67歳。
◎緩和解除時に大きな危険 池尾和人・慶大教授 
 ●大規模な金融緩和への評価は。
 「そもそも政策金利をゼロまで下げた時点で金融政策は限界に達している。限界を超えようとして、現在の大規模緩和は無理に無理を重ねており、 金融緩和をやめなければ いけない時には大きな危険を伴う」
 ●円安株高が進んだ。
 「円安は米国景気の改善や欧州債務問題の進展、日本の経常収支悪化によるものだ。安倍政権誕生や大規模緩和導入と偶然、時期が重なったという幸運を自分の手柄にしたといえる。株高は円安で進んだ面が大きい」
 ―住宅ローンなど銀行の貸出金利の基準となる長期金利を押し下げた。
 「大規模緩和の導入前と長期金利の水準はほとんど変わっていない。元来、引き下げ余地がないほど低い水準だったのだから当然だ」
  「企業への貸し出しの増加は、原発問題で社債の発行量が減った電力会社向けや、消費税増税前に駆け込み需要があった個人の住宅購入向けが中心で、金融政策の効果は大きくない」
 ●2%の物価上昇目標を掲げたことで人々の期待は変化したか。
 「金融政策を含む何らかの要因で人々の心理が変わる可能性はある。ただ、ゼロ金利の下で日銀が量的金融緩和を実施すると、人々の物価に対する将来の予想が変化するという明確な根拠はないというのが通説だ」
 ●効果がないのに危険はあるということか。
 「日銀の 黒田東彦総裁は自信満々に2%の物価上昇を実現すると明言している。効くか分からない薬を特効薬だと言って処方しているようなものだ。その気合に押されて風邪が治る場合もあるかもれしない。ただ薬の副作用についてもしっかり説明する責任がある」
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  いけお・かずひと 一橋大大学院博士課程単位取得退学。京大助教授を経て95年から慶大教授。京都市出身。61歳。(共同通信

これ「【70兆円、銀行に眠る】企業、個人へお金回らず 日銀の大規模緩和1年 熱狂去り問われる真価」と題した47ニュース4月4日 [金曜日]の共同通信報道記事である。

 思うに経済学者や、官僚が机上の経済論理しか考えないと、経済大国である我日本が陥る良い見本である