米大統領選に対する見どころを元東大学長の佐々木毅さんの記事がローカル紙に載っていたので紹介したい

今年の重要な出来事として挙げられているものの中で突出しているのが、米国の大統領選である。これは4年に1度のことで、改めて特筆するのにはそれなりの理由がある。最も一般的な関心は、選挙結果によって政策にどのような変化がもたらされるかである。
 周知のようにトランプ大統領は米国第一主義を掲げ、自由貿易政策を放棄したり、環境問題についてのパリ協定から離脱したりと、それまでの米国の政策と真っ向から対立する政策選択をした。また、国内     世論の分断をあおるような政策や発言をあえて行い、偏見や差別のない発言を政治的に正しいとする 「ポリティカル・コレクトネス」の伝統に反旗を翻した。そのため、こうした転換がこの4年間の一時的な異常事態で終わるのか、それとも持続性のあるものなのか、それを占うのが今年の選挙だということになる。
 旧同盟国などにはかつての米国の政策への回帰を期待する向きがないわけではないが、いずれにせよ、こうした関心は米国の選挙に対する内外からの平均的な見方とでもいうべきものであろう。
 もう一つは米国の民主政のあり方からする見方である。これはトランプ氏がこれまでに例を見ないタイプの大統領であることと関係している。すなわち、幾多の前例や慣行を無視したのみならず、発言の正確さに欠け、「ほとんどうそ」「うそ」「真っ赤なうそ」を合わせると7割に達するという調査結果がある
ほどである。
 まるで「政治にうそは付きもの」を地で行っているように見えるが、オバマ前大統領と比べてもうその度合いは明らかに異常値を示している。民主政はうそに無縁だなどと強弁するつもりはないが、相互のチェックによってそれを少なくしていく仕組みであることは確かである。
 従ってあえて言えば、トランプ氏は異形の「言いたい放題」「やりたい放題」型大統領であり、こうした大統領が米国の民主政とどこまで両立可能であるかを問うのが今度の選挙である。これは政策問題と無関係と言い切れないが、それを超える民主政におけるリーダーのあり方について重要な問い掛けを含
んでいる。
 米国の連邦議会上院では目下、権力乱用と議会妨害を根拠とするトランプ氏に対する弾劾裁判が進行中であるが、大方の予想では上院での共和党多数の支持を得て遠からず無罪判決が下ると考えられている。
 上院での共和党多数という現実を考えれば、弾劾に踏み切るという民主党の判断の是非は問われるところであろうが、抑制均衡という米国の政治機構の作用からすれば予想された反応であった。その結果として大統領が無罪となれば、米国の民主政は自らの自信の根拠である抑制均衡モデルに寄りかかっていられなくなる。
 さらに、弾劾裁判を無罪で切り抜けた大統領が再選されることになれば、米国政治は新しい次元に入ることになる。すなわち、抑制均衡のメカニズムは機能しなくなり、「言いたい放題」 「やりたい放題」はもはや歯止めが利かなくなる。
 確かなことは、トランプ氏が1期目以上に何でもできると考えても不思議はないということだ。その場合の関心は、先に挙げたような諸政策よりも、自らが敵と見なす者たちへの復讐であると占う論者もいる。
ここで思い浮かぶのは旧来の同盟国のリーダーに対するトランプ氏の冷淡な態度(安倍晋三首相は例外という事であろうが)と比べ、強権体制のリーダーに対する一貫した好意的な態度である。
 北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長に対する態度は日本でもおなじみであるが、最も有名なのはロシアのプ~チン大統領に対する態度であって、その惜しみない賛辞は物議を醸してきた。同じく中国の習近平氏が国家主席の任期制限を撤廃したことも彼の称賛の対象であった。
 今年の米国政治は異形の大統領の扱いを巡り大きな試練に直面しそうである。それだけに選挙を挟んで何が起こるか分からないが、どんな結果になろうと後始末は容易ではない。米国の民主政の将来が懸かっている。 (元東大学長)


これ「米大統領選の見どころ」と題したあるローカル紙2020/2/1の朝刊の記事である。


上記記事を読んでると、筆者の指摘の「ほとんどうそ」「うそ」「真っ赤なうそ」と言う部分だけは安倍首相トランプ米大統領と「言いたい放題」や「やりたい放題」は良く似ていると、吹いてしまった。だが同じ独裁的でも、経済人出身のトランプ米大統領は流石計算的だと思わずにはいられないし、安倍首相よりは1枚上手だ。