現在の国会の現状を憂い、今後への対策等の一提言と見られるような元東大学長佐々木毅さんの記事を紹介したい

 厚生労働省の毎月勤労統計調査が問題になっている。2千万人の大が不正な処理によって影響を受けるというのであるから、参院選を控え、国会議員たちは閉会中審査を行わざるを得なくなった。この不祥事を調査するために設けられた特別監察委員会の報告書に厚労省職員が関与していたことが明るみになり、与野党は組織的隠蔽が行われてきたと追及した。同時に、政府の基幹統計の4割で誤りなどが見つかり、その他の統計についても信頼性が問われている。
 統計は行政機関の公平性、公正性を担保する最も重要な事項であり、公務員としての基本的倫理が危うい状態にあることを示している。専門的に言えば、日本の行政の「組織の精神」が腐食しつつあることの証拠である。
 第一の対策は行政機関自身の努力によるところが少なくないが、それとともに外部からの監視がそれを後押しする必要がある。閉会中審査での政治家たちの追及の声を聴くにつけ、政治家や国会は普段何をしていたのかという疑問が浮かび上がってくる。閉会中審査によって「ガス抜き」を図ったに過ぎない
のではないかという見方もある。
 大臣経験者などの責任は免れないとともに、最大の行政監視機関である国会の不活発さ(活動量の少なさ)にも大きな責任がある。このところ国会の改革が話題になり、大島理森衆院議長がテレビなどに出演するようになっていたところに統計偽装問題が加わったというのが現在の構図である。
 ほかの国と比べ、日本の議会の特徴は活動時間が短いことである。通常国会が半年それに秋に長短さまざまな臨時国会が開催される。会期が細切れであり、その分、時間を巡る与野党の駆け引きが激しい。スケジュールに従って計画的に審議を行うという伝統が乏しいし、この計画性のなさが国会の権威の現れになり、関係者は日程問題で消耗することになる。大臣などの国際会議への出席が難しいことにもなる。
 それから審議の中身がほとんど大臣に対する質問によって占められ、調査活動や議員同士の議論にお目にかかることは珍しい。国会が政府の姿勢を正し、国民の前に明らかにすることは国会の大切な役割であるが、大臣には政府を率いる重要な任務がある。質問もないのに国会の委員会室に一日中座り続ける大臣の姿も珍しくない。
 しかも、先に指摘したように日程に計画性が乏しいため、こうした姿は余計に無理が目立つ。大臣の役割としてはどちらも大事であるが、問題はそのバランスであり、そのための工夫や合理化が避けられなくなっているのが現状である。
 政府側の一つの対応としては臨時国会の会期を短くして、国会審議の負担を軽減することが考えられる。しかし、昨年の外国人労働者の受け入れ増加を目指した入管法改正に際して言われたように、この方策は審議不十分とか急ぎ過ぎとかいった批判を免れない。
 もう一つの方策は、大臣たちの国会審議への関与を思い切って所管業務に対する質問への定例の応答に限定し、予算・法案審議などは与党議員の手に委ねることである。もちろん、首相については定例の党首討論を義務付ける。
 これは現在政府の黒子の役割しか与えられていない与党議員に大きな役割を与え、与野党を含む議員間競争を促す意味を持つ。そして通年国会であっても大臣が疲弊する心配はない。もちろん、予算・法案審議を与党議員に委ねた場合、政府の意向がどれだけ貫徹できるかを含め、政府と与党との関係が今よりも目に見えるものとなり、政策論議もより充実したものになることが期待できる。
 ポピュリスムの台頭をはじめ、民主政はさまざまな新しい挑戦に直面している。30年前、日本の政治
は金権・派閥政治からの脱却を目指して政治改革を行った。30年を経て、再び民主政に対するテストが始まった。ポピュリスムはそこまで来ている。油断は禁物である。現在の政界にどれだけの度量とエネルギーがあるか、国会改革はそれを測る試金石である。(元東大学長)
 
 
これ「国会改革の視点」と題したあるローカル紙の2019年1月28日(月)の朝刊の記事である。
 
 
いつも感心して見てるが、長年政府の委員会等重要な立場で活躍された経験が生きた、成る程と納得させられる記事と私は感服した。毎週の月曜日に載って来るので、月曜日には本当に楽しみである。私みたいに今では世捨て人に近い、好きな事やっての生活の中で、仕事を離れ、もともと好きだった政治に一国民として参加してるように感じさせる五大紙とローカル紙の政治記事を読むのが、今の一番の楽しみである。その中でもこの元東大学長佐々木毅さんの記事が一番好きだ!今後ずーっと紹介して行きたい。