本年の参議員選自民党大敗を予想した書を紹介したい

 自民党に「亥年現象」という言葉がある。12年に一度めぐって来る亥年3年ごとに行われる参院選4年ごとの統一地方選が前後して実施されるからだ。統一地方選4月、参院選7月。統一地方選で全力疾走した地方議員らは参院選の応援に力が入らない。現に衆院小選挙区比例代表並立制が導入された初めての「亥年選挙」だった1995年の参院選自民党は大苦戦をしている。当選者は46人。つまり改選議席過半数を大きく割り込む結果となった。
 中でも比例代表区では当時の野党第一党だった旧新進党18議席を獲得、自民の15議席を凌駕した。新進党はその後、解党したが、解党しなければ96衆院選でも自民に勝っていた可能性は否定できない。この時は公明党新進党に参加しており、公明党の底力を見せつけた選挙でもあった。
 その次の「亥年選挙」は2007年。野党民主党自民党を圧倒した。民主の当選者は60人。これに対して自民は37議席にとどまった。非改選議員と合わせた新勢力も民主109議席に対して自民83議席。この時の首相が安倍晋三だった。安倍は選挙後に体調を崩し、首相退陣に追い込まれた。この参院選098月の衆院選での政権父代に直結した。
 それから12年。再び安倍は「亥年選挙」を迎える。しかも地合いは必ずしも安倍にとっては良い状況とは言えない。むしろ長期政権から生じる「飽き」という定量化できない厄介な空気の中での参院選が巡ってくる。相当なハンデ戦と言っていいかもしれない。「飽き」に対する不満、ストレスは自民党内にも広がる。
 その象徴が自他ともに安倍側近を任じてきた元沖縄・北方対策担当相の山本一太60)の群馬県知事選への出馬表明だろう。しかも山本は、自民党群馬県連はもとより目民党選対委員長甘利明に対しても事前の説明もなしに、いきなりブログで出馬を宣言した。
 「なぜきちんと相談しなかったのか」
甘利は声を荒らげた。ただし、その甘利に対する不満も渦巻く。
 「甘利さんは政策通かもしれないが、選挙対策には向いていない」
 参院選に向けて山本の知事選転出に限らず、大阪選挙区(改選数4)では現職の太田房江67)の出馬を止められず、結局は新人の柳本顕(44)の二人を公認せざるを得なくなった。大阪では立憲民主党が、テレビで顔と名前を売った弁護士の亀石倫子(44)を擁立した。前評判は高く「かなりの支持がある」(自民党選対幹部)とみられる。日本維新の会大阪万博の誘致成功で勢いづく。自民党の苦戦は必至だ。
 統一地方選でも福井県知事選で5期を目指す西川一誠(73)に、同じ自治省(現総務省)出身の杉本
達治(56)が名乗りを上げた。激戦とみられており、「野党側が有力候補を立てれば共倒れになりかねない」(公明党幹部)情勢だ。
 言うまでもなく福井県は日本有数の原発立地県。ここでの敗北は日本の原発政策の根幹を揺るがすことになる。安倍の求心力の源泉は「選挙に強い」(自民党幹部)ことだ。その「常勝神話」に黄信号が点る。ただでさえ参院選衆院選と違い時期を選べない。とりわけ19参院選は直前に天皇陛下の退位と皇太子さまの新天皇即位という代替わりがある。そのころの日本全体の国民世論の動向は全く予測不能だ。
 いずれにせよ自民党にとっては旧民主党政権崩壊後の混乱の中で「勝ちが転がり込んできた2016参院選」(党選対幹部)の反動で議席減は避けられない。このため勝敗ラインを前回当選者数のマイナス1055議席に置く。それでも野党の倒立候補の擁立もしくは候補者のすみ分けが奏功すれば50議席割れもあり得る。
 結果として安倍の宿願である憲法改正の大前提である「改憲勢力参院三分の二議席」が崩れ去る。既に憲法改正をめぐっては安倍側近の下村博文憲法改正推進本部長への起用が裏目に出て、安倍が目論んだ臨時国会への自民党案提出は断念。参院選前の国会発議は事実上消えている。そして参院選敗退となれば安倍は究極の政治目標を失う。
 さらに安倍が意気込む北方領土の帰属をめぐる日口外交でも劣勢を強いられている。当面の目標は62829日に大阪で開かれる主要二十力国・地域(G20)首脳会議の機会に設定されるロシア大統領プーチンとの日口首脳会談。しかし、「プーチンと二人でこの問題に決着をつける」という安倍の意欲とは裏腹に、ロシア外相ラブロフは全く逆の方向だ。
 「日本が第二次大戦の結果を認めることが絶対的な第一歩だ」
 外務省の中にもプーチンとラブロフの役割分担説に加え、ロシア政権内部で意思統一ができていな
いとの見方も出ている。日口交渉をめぐっては安倍がプーチン1956年の日ソ共同宣言を基礎に決着を目指す考えを示しだのは周知の通り。その核心は「平和条約締結後に歯舞群島と色丹の二島を日本側に引き渡す」という二島返還論だ。これに対して日本外交が貫いてきた大原則は「国後、択捉を含む四島の帰属問題を決着した上で平和条約の締結を目指す」というもの。安倍公言は明白な方針転換だが、安倍も外相河野太郎もこのことについては言及を避ける。河野に至っては外務省での記者会見でひと悶着を引き起こした。日口交渉の対応についての記者からの質問に同じ答えを繰り返した。
 「次の質問をどうぞ」
 記者クラブから抗議の文書を突き付けられ、河野は謝罪に追い込まれた。一時的にポスト安倍の候
補者に擬せられた河野はこの一事をもって政治家としての資質を問われ、ポスト安倍候補からの脱落
は確定的と言っていい。
 日口交渉をめぐっては安倍の周辺に元官房副長官鈴木宗男の影がちらつくのも安倍にとって大きなマイナスだ。鈴木を含む、かって「宗男事件」を巡って外務省を追われた作家の佐藤優、元外務省欧亜局長の東郷和彦のいわゆる「宗男トリオ」が異口同音に「二島プラスアルファ」を“大合唱”する。二島の返還の後に国後、択捉への自由往来や周辺海域での漁業権の確保が「アルファ」とされる。仮に安倍がこのラインで日口交渉に臨めば「鈴木の振り付け」のそしりは免れまい。それ以上に二島返還すら高いハードルとなって安倍の前に立ちはだかる。
 結局、安倍は執念を燃やす二大政
治目標を参院選で失う可能性が膨らむ。それだけではない。参院での自民党の大幅な議席減は安倍退陣論に点火する。ましてや101日に予定される消費増税の実施後の景気の落ち込みが顕著であれば、反動減対策で23千憶も予算化した政治貢任は避けられない。
 「安倍降ろし」の防波堤を委ねた党幹事長二階俊博の健康不安説が現実のものになりつつある。年末
にインフルエンザで入院したことで「これまで一度も健康診断を受けたことがない」(二階側近)とい
う二階の高血圧が判明した。
 「このまま退院させるわけにはいかない」
 医師の警告でそのまま入院を続けた。側近の幹事長代理林幹雄が「携帯電話を持たせると静養にな
らない」として携帯電話を取り上げたため、“音信不通”となり重病説が駆け巡る原因になった。二階は1217日に党本部に姿を見せたが、健康不安が解消されたわけではない。
 ただ国際捕鯨委員会〒WC)からの脱退問題では安倍と二階の間に微妙な隙間風が吹いた。安倍の地元、山口県の下関は近代捕鯨発祥の地、一方、二階の地元、和歌山県太地町は今も捕鯨で成り立つ。二階の捕鯨に対する思いは尋常ではない。
 「われわれが他国の食文化について文句を言ったことがあるか。もう少し(安倍は)本気を出してもら
わねば」
 戦後ほとんどない国際機関からの脱退に安倍は消極的だった。そ
れを二階が押し切った格好だ。
 安倍は二階に参院選の指揮を委ねるのか。安倍にとって隠れた危機管理と言っていいだろう。二階に代わり得る存在も見当たらない。それどころか自民党にとって最大の弱点になりつつあるのが「ポスト安倍候補ゼロ」という人材枯渇状態だ。元幹事長の石破茂自民党総裁選の地方党員票で安倍に肉薄したが、「負けは負け」(政府高官)。ところが、石破は「負け」と言う事実に対してきちんと向き合っていない。いわば「負けっぷりが悪い」(同前)のだ。
 総裁選の出馬を見送り、安倍に恩を売った岸田文雄は総裁選が終わったのを見届けるように全国行脚を始めた。総裁選に挑戦しなかった代償は大きい。ポスト安倍狙いに迫力が出るはずはない。19年度予算編成でも岸田の存在感はほとんどなかったと言っていい。
 総務会長加藤勝信も一時的な評判倒れに終わっている。トップリーダーに必要な明朗さ、スケール感がない。経済再生担当相の茂木敏充は総裁選での立居振る舞いが所属する竹下派内の顰蹙を買った。日米貿易交渉で正文にない(日米物品貿易協定(TAG)」なる。造語”を使ったことも霞が関の信用失墜を招いた。そして依然として同じ結論に舞い戻る。
 「万が一の時は菅義偉」-。
 こうした状況を考慮すれば、参院選大敗でも「安倍降ろし」は出にくい。ただし安倍も無傷では済まない。政権の生命線と言ってもいい大きな「武器」を失う。衆院解散権だ。既に衆参同日選挙説も野党牽制カードとしての意味しかなくなった。代替わりに伴う過密日程と公明党の圧力で事実上封じられた。衆参同日選挙になると投票用紙は計四枚。そこに公明党の「絶対反対」の根拠がある。
 「衆参同日選になったら投票用紙に書くのは公明党の公認候補の氏名だけ。無効票も覚悟の上だ」
 公明党の幹部はこう凄んでみせた。自民党参院選でも公明党の現職がいる神奈川、福岡で候補者追加の動きがある。公明党は「やるならどうぞ」の姿勢を貫く。
 もはや解散権を失えば安倍が「一強政治」を貫くのは難しい。安倍は二年以上の残り任期をレイムダックのまま過ごす可能性が出てくる。政界引退後も鋭い視線を政界に注ぐ亀井静香は自公勢力の過半数割れを指摘した上で、「自社さ村山政権の再来がある」と語る。自社さ連立政権は過半数割れ自民党が旧社会党委員長の村山富市を担ぎ、新党さきがけを加えた三党連立。この「禁じ手」で自民党は政権復帰を果たした。
 この成功例を過半数割れでも政権維持に使うというのが亀井の見立てだ。そこで自公ほどこと手を
結ぶのか。亀井は「国民民主党の代表の玉木雄一郎だ」と予測する。「自民党は人材が払底、小泉進次
郎はまだ早いとなれば、玉木しかいない」
 突飛に見えるが、極めて現実的な展開かもしれない。「ポスト安倍なき安倍のレイムダック化」が始まる――――。これが2019年政局の基本構造だ。 (文中敬称略)
 
 
これ「夏の参議員選自民大敗の兆し」と題した3万人のための情報月刊誌「選択」1月号の記事である。
 
 
自民党の「亥年現象」だけではない。消費税が絡む時には全て自民党は大敗してる。この10月からの消費増税10%は例え社会保障費の充足と言う御旗があっても難しいだろう。だが安倍首相が財務省を説得しても絶対に財務省は首を縦に振らないだろうが、あの滑舌の甲高い声で麻生を介しての3度目の消費増税延期を画策すればどう転ぶか解らないが、不可能の総裁4選のために死に物狂いの脚色しか勝に転ばせる妙案はないだろう。それにも増してもう少し安倍首相が謙虚に国民に気を遣った政治運営をしてれば、国民は少しは耳を傾けるだろうが、余りにも強権奢り過ぎた感が強い。恐らくこの記事の通り自民に勝ち目は無く、大敗とはいかなくても捻じれ現象は起こるだろう。安倍首相の自業自得と言う事だろう。