大阪の橋下さん安倍政権はきっと国民から「しっぺ返し」を食らうと言った、だが「大阪都構想」は橋下さんあなたは信用されなかったからではなく嫌われたんだよ

文藝春秋11月号の特選記事を公開します。(初公開 20181029日)
 夕暮れ時になるとスーツ姿のサラリーマンで賑わう、大阪市の繁華街の一角にある小さなオフィスビル。その中に、橋下綜合法律事務所は入っている。
 201512月に大阪市長を退任した橋下徹氏(49)は、現在、そのオフィスにある執務室から、ひとりの民間人として、日本の政治を見つめている。
「今や、僕は政治家でもなんでもない。ただのコメンテーターですから」
 橋下氏は、笑いながらそう言う。敵対した相手を激しい言葉で徹底的に論破していた政治家時代に比べると、柔和な喋り方になった。
 だが、ひとたび話題が「政治」に移ると、“橋下節”が飛び出した。
 安倍晋三首相が自民党総裁3選を決め、102日に第4安倍内閣が発足した。安倍首相が引き続き総理大臣の座に就くことについて、橋下氏は「僕は基本的にこれまでの安倍政権の政治には賛成です。その理由は『(政策の)実行力があるから』です」と語る。
「政権評価は、インテリたちが小難しいことをごちゃごちゃ言っても、結局『リセットする』か『このまま続ける』かの二者択一です。安倍政権に問題がまったくないわけではありませんが、今すぐリセットするほどでもない」
 その一方で、“モリカケ問題”をはじめ、次々と噴出する政府の不祥事は、「安倍政権が慢心しているが故の『驕り』がこれらの問題に繋がってきている」と手厳しい。とりわけ、第4次内閣でも留任が決まった麻生太郎財務大臣については、「辞任すべきだった」とまで言い切った。
「(一連の財務省の不祥事に関して)確かに麻生さんに直接の責任はない。しかし、管理・監督責任という点では明らかに責任がある。辞任は当然です」
 そして、麻生大臣を辞めさせなかったことは「安倍さんの悲願である憲法改正国民投票のときに響いてくる」と分析する。
「国民から必ずしっぺ返しを食らうでしょう」
 なぜ橋下氏はそう言い切れるのか。それは、橋下氏もまた自らの悲願である「大阪都構想」を打ち出し、住民投票によって否決された苦い経験を持つからだ。
 麻生大臣留任によって安倍政権が「必ずしっぺ返しを食らう」と橋下氏が考える理由とは何か。
 それは 『文藝春秋11月号 の橋下氏による特別寄稿「安倍首相への忠言」に綴られている。
「文藝春秋」編集部/文藝春秋 201811月号
 
 
これ橋下徹氏が断言「安倍首相は国民から必ずしっぺ返しを食らう」ーー文藝春秋特選記事文春オンライン12/4()7:00の配信記事だ!
 
 
政治家とは、関ヶ原の戦いに参戦した戦国武将のような存在です。「どっちにつくか」で「生きるか、死ぬか」が決まる。
「リーダーを選ぶ際に、保身は考えず、日本の未来だけを考えるべきだ」なんて、高邁なことを考える人が生きる世界ではありません。自分に何のメリットがあるか。良いポジションを得ることができるか。見返りは何か。不利益は何か。裏切ったら干されるか――。あらゆる智謀をめぐらし、誰の下につくかを判断する。その結果、強い権力を得て、自分の思いを達成していくことが政治家としての真っ当な歩み方だと僕は思っています。
 去る920日に行われた自民党総裁選では議員の多くが安倍晋三首相につきました。僕は今回の総裁選は、政治家の権力闘争として至極当然のあり方だったと考えています。
 安倍さんの陣営は熾烈な多数派工作を繰り広げ、国会議員票の82%、党員票の55%を獲得して、石破茂元幹事長を破りました。今回、石破さんを応援した議員が「干される」という話もありますが、僕は当然だと思っている。権力闘争とはそういうものだからです。
 その意味で、今回の小泉進次郎さんの言動はとても残念でした。
 進次郎さんはギリギリまで態度をはっきりさせず、投票当日になって「健全な批判勢力が必要」と話していることが報じられました。ようやく本人が口を開いたのは投票後。「違う意見を押さえつけるのではなく、違う声を強みに変える自民党でないといけない。そんな判断から投票した」と石破さんに入れたことを明かしました。
 僕は進次郎さんとは話したこともないし、どうこう言える立場でもありません。彼は顔もいいし、行儀も良いし、万人に人気もあるから、僕なんかよりも遥かに立派な政治家でしょう。しかし、今回の一連の言動は、僕と同じコメンテーター的なものでしかなかった。優等生ぶって発言しているのでしょうが、竹下登元総理ばりの「言語明瞭、意味不明」。結局、彼が何を言いたかったのか、僕には全く分かりませんでした。
 本当に“違う声を強みに変える自民党”を作りたいなら、自ら積極的に“批判勢力”になって、石破さんをとことん応援するべきでしょう。また、2012年の時とは考えを変えて「今は安倍さんを支持したい」と思ったのならば、変えた理由を含めてはっきりとそう表明すれば良いじゃないですか。
 要するに、進次郎さんはリスクを取らなさすぎたのです。安倍さんに入れれば「筋を曲げた」「判断を変えた」と批判される。それは避けたい。でも石破さんを全力で応援したら官邸にガンガン詰められる。それも避けたい。だから、中途半端なところで、丸く収まってしまったのでしょう。
 政治家でいること自体が目的の政治家ならそれでいい。しかし、国を引っ張ることを目指す政治家なら、年齢や経験にかかわらず、決断力、実行力、説明力を国民に見せて欲しいところです。一票を入れるだけでいいのは我々一般の有権者。政治家は自ら国を引っ張る手段として一票を入れるもの。だからこそ、安倍さんと石破さんのいずれを支持するのであれ、自分がしかるべきポジションに就いて日本を引っ張るんだという迫力を示して欲しかった。僕は子供の政治家でしたが、進次郎さんは大人の政治家を通り越して、おじいちゃん政治家ですよ。
 
■このタイミングで総裁選はオカシイ
そもそも、今回も含め自民党の任期満了による総裁選はもう不要だと思っています。なぜなら、それは民主主義を無視した時代遅れも甚だしいものだからです。
 自民党総裁は私的団体のリーダーです。だから「党員で決める」という理屈は正しいかもしれません。しかし、自民党総裁は実質的に日本のリーダーでもある。それを決めるのは、やはり国民であることが筋でしょう。
 議院内閣制の日本では、建前上は「まず国民が議員を選び、議員が首相を選ぶ」ことになっています。しかし、2大政党制を前提とした小選挙区制度の下では有権者は「リーダー」を明確に想定して候補者()に投票します。昨年10月に600億円もの税金を使って総選挙を実施し、国民は「安倍政権」を選択しました。
 にもかかわらず、このタイミングで私的団体の論理を優先してリーダーを選び直すのはオカシイ話ですよ。国政選挙で決めたことを最大限重視すべきだと思います。
 自民党が総裁任期を定めている理由は、「総裁(=首相)ポストをみんなで回すため」です。
 高度成長期はそれで良かったのでしょう。首相は権限も責任もない“派閥の上に乗っかるお飾り”に過ぎなかったからです。これは地方議会の議長と同じです。多くの地方議会では「申し合わせ事項」に従い、議長職を12年で辞任してポストを回していく。自民党が首相を選ぶプロセスもこれと大差ないと言わざるを得ません。
 議院内閣制をとるイギリス、ドイツでは政権与党の党首の継続・交代は原則、総選挙の結果で判断します。選挙に勝ち続けた党のリーダーは、意思がある限り、党首を続けることができるわけです。例えば、ドイツのメルケル首相はもう在任13年になります。
 現在、自民党の総裁の任期は3年です。2003年までは2年でした。昨年、党則変更で「3×3=9年」と延ばされたものの、3年毎に総裁選をやるのはスパンが短すぎますし、それに加え国政選挙でも審判を受けるとなると、日本の国のリーダーの地位はあまりにも不安定になり過ぎます。ようやく各国のリーダーと気心が知れて来た頃に、国政選挙の結果とは別に首相が交代するのは国益を害します。任期満了による総裁選で首相を選ぶシステムは今すぐ改めて、国政選挙の結果だけで継続・交代を判断するシステムにするべきだというのが僕の持論なんです。
 安倍さんは今回、改めて3年の総裁任期を得ました。僕は基本的にこれまでの安倍政権の政治には賛成です。その理由は「実行力があるから」です。
 政権評価は、インテリたちが小難しいことをごちゃごちゃ言っても、結局「リセットする」か「このまま続ける」かの二者択一です。安倍政権に問題がまったくないわけではありませんが、今すぐリセットするほどでもないと思います。
 なぜなら、安倍政権は「雇用増大」について政策を実行し、しっかり結果を出しているからです。これは世界のどの国でも同じですが、「国民が職に就けて飯を食えること」が、その国の政治の良し悪しを判断する一番の柱であることは間違いありません。
 20187月の完全失業率2.5%、有効求人倍率1.63倍です。民主党政権下の20127月の完全失業率4.3%、有効求人倍率0.83倍ですから、改善していることは一目瞭然ですね。最低賃金も毎年全国的に右肩上がりで推移しており、最近は「バイト代が上がった」という声もよく聞きます。
 
■「ちょっと大人の政治をするからね」
リーダーが政策を実行して結果を出すためには、その前提として組織が強くなければいけません。安倍政権は、コアメンバーが安定しているので、政権運営が上手くいっているとも言えるでしょう。
 最たる存在が、菅義偉官房長官。安倍政権と自民党は実質的に菅さんがまとめていると言っていい。
 菅さんの凄さはその「人間関係力」。一日に朝食会や夜に3件もの会食をこなし、人と会うそうです。そして、与野党議員を問わず、色々な貸しを作っていく。
 目を見張ったのは、2015年、軽減税率導入の議論が行われていた時の動きです。食品への導入をめぐり、自民党の税調は「生鮮食品のみ」とする意見。しかし公明党の意見は「食品全般」。自民党案で決まりそうになると、菅さんが登場しました。一気にちゃぶ台返しをし、官邸主導で公明党案に決着しました。だから公明党は今後、肝心なところでは菅さんの言うことは絶対に聞かなきゃいけないでしょう。もの凄い政治だと思います。
 僕は以前、菅さんにこう聞いたことがあります。
「裏切られて腹が立つことはないんですか?  僕は誰かに裏切られたら腹が立ちまくって、とことんそいつを追い詰めないと、蕁麻疹が出るわ、毛は抜けるわで、もう大変なんですよ」
 すると、菅さんは笑ってこう言いました。
「裏切られるのなんて当たり前だよ。そんなことに腹を立てていたら、政治なんかできないよ」
 そして、「僕らは橋下さんの政治よりもちょっと大人の政治をするからね」と。確かに、今振り返ると、僕の政治は、ホントに子供みたいだった。
 僕はそういう人付き合いが全くダメだけど、維新には、松井一郎さん(大阪府知事)という「人間関係力」がある政治家がいました。松井さんがいなければ、維新はここまでの政党になっていませんよ。そういえば、菅さんと松井さんはお互いに似た匂いを感じるのかむちゃくちゃ波長が合っていましたね。
 ナンバー1が「道しるべ」となり、ナンバー2に「人付き合いのプロのまとめ役」がいないと政治はできません。安倍さんと菅さんは、その役割分担がしっかりできている。だから安倍政権は安定しているのでしょう。
 
■麻生さんが辞めるべきだった理由
もちろん、安倍政権の政策に反対のところ、不満なところもあります。
 最も不満なのは、僕が政治家人生を懸けて進めてきた「地方分権」について、安倍政権はまったくやる気がないこと。むしろ、中央集権体制をいっそう強化していきたいという意図を感じます。
 政治家は「強い力」を持つと、何から何まで自分の権限でやりたくなるものです。安倍さんは今、強い政府の下で日本全体を動かしている「高揚感」と「自己達成感」を抱いていると思います。トップがそんな状態ですから、地方分権は進む気配も見られないのです。
 なぜ僕が中央から地方に「権限と責任」を移すべきだと考えるか。それは、中央政府には「国家の舵取り」に集中してもらいたいからです。内政の細かい案件は地方に振り、中央は中央にしかできない仕事、特に外交・安全保障、税制、マクロ経済運営などを強力に進める。そっちのほうが、国際社会の中で日本がより強くなるということを安倍さんはあまり認識していないみたいです。
 そもそも「森友学園問題」と「加計学園問題」は地方分権が進んでいれば、あのように中央の政治が停滞する大きな問題になっていなかった。森友学園問題なんて、所詮、大阪にある私立小学校の敷地の問題で、わざわざ中央政府が関与するような大きな案件じゃないと思う。財務省出先機関である近畿財務局が担当していたから国会で議論せざるを得なくなったわけで、地方分権がしっかり行われ、あの土地が大阪府所管だったならば、府議会で議論する問題です。加計学園問題だって、「獣医学部の新設」が文部科学省所管だから国会で大騒ぎになった。道州制の下、「大学の設置」「学部の新設」が道州の所管になっていれば、道州議会で議論する問題となります。いずれも中央の政治が停滞するような案件ではない。
 未だに解決していない「待機児童問題」も、わざわざ中央政府自らが解決していくような案件ではない。中央政府は「目標」と、達成した時の「インセンティブ」と、達成できなかった時の「ペナルティ」だけを設定し、各自治体の市町村長にそれぞれ権限を与え、自由な裁量で解決にあたらせる。その代わり責任も負ってもらう。こちらのほうがよほどスムーズに待機児童は解消しますよ。
 現在、保育所の設置については中央政府が面積基準や保育士の配置基準など細かいルールを定めており、これには僕も大阪市長時代に難儀しました。もし仮に大阪市独自のルールを作らせてもらえていれば、待機児童問題なんて一カ月もあれば解決できたと思います。
 首相や中央政府には、もっと専念すべきテーマがあるはずです。アメリカのトランプ大統領やロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席は、「待機児童問題」の陣頭指揮なんか執っていません。中央の政治には、大きな視野のみを持ってほしい。特に首相には、日本のリーダーとして海外を渡り歩き、海外の強力な指導者たちと激しい外交交渉を繰り返し、国際的な利益を追求してほしい。そのためにも、地方を“有効活用”した地方分権型の統治機構を作るべきなのです。
 一方で、森友・加計学園問題財務省による決裁文書の改ざん、陸上自衛隊の日報隠ぺい、文科省の贈収賄と次々に出てくる政府の不祥事には、僕も納税者の一人として怒っています。安倍政権が慢心しているが故の「驕り」がこれらの問題に繋がってきているわけです。
 これらの問題に対する安倍政権の対処法は、はっきり言ってダメだと思いました。とりわけ、麻生太郎財務大臣は辞任すべきだったと思います。
 決裁文書の改ざん、福田淳一事務次官のセクハラ問題について、確かに麻生さんには直接の責任はない。しかし、管理・監督責任という点では明らかに責任がある。「組織の不祥事・不適切行為の調査能力」はトップに最も求められる能力です。それができなかったのだから、大臣の資質が欠けていたと言わざるを得ない。辞任は当然です。麻生さんを辞めさせなかったことは後々響いてくるでしょう。自民党が下野した際、同レベルの不祥事を起こした大臣に「辞めろ」ともう言えませんし、安倍さんの悲願である憲法改正国民投票のときに、国民から必ずしっぺ返しを食らうでしょう。
「政府はあそこまでデタラメな説明をしてくるのか。それくらい国民を舐めているんだな」
 きっと、多くの人が、僕と同じような感想を抱いていると思います。実際、20185月の朝日新聞の調査では、安倍政権が森友・加計問題の疑惑解明に「適切に対応している」と答えた人は13%、「対応していない」は75%にも上りました。
 ところが――それにもかかわらず、安倍内閣の支持率は下がるどころか上昇基調です。総裁選後に日経新聞テレビ東京が行った世論調査では、支持率は55%。財務省による決裁文書の改ざんが発覚する前の水準まで戻っているのです。安倍政権は、余裕綽々だと思います。
 安倍内閣の支持率はなぜ下がらないのか。僕は、その理由として「有権者(国民)が賢くなったこと」が挙げられると思います。
 森友・加計問題について、朝日新聞毎日新聞などの“インテリ”メディアは当時、安倍政権を連日徹底的に攻撃していました。一昔前であれば、あれだけ大手メディアに攻撃された内閣は、確実に倒れていたでしょう。
 しかし、そうはなりませんでした。なぜなら、多くの国民がインターネットを用いて情報収集が出来るようになり、政権の「良し悪し」を判断する材料を自ら集めることができるようになったからです。
 おそらく、多くの国民は、森友・加計問題についての朝日新聞毎日新聞などの報道もちゃんと見た上で、次のように考えていたのだと思います。
「確かに安倍政権には問題もあるし、熱烈に支持をしたいわけでもないが、現在の国際状況や経済状況を考えると、リセットするべきではないだろう」
 極めて冷静な判断です。多くの国民はこんな判断が出来るくらい賢くなったのです。「大手メディアから国民が一方的に情報を受ける時代」「メディアが世論を作る時代」はもう終わったのです。むしろ、国民は朝日新聞毎日新聞などが、反権力だけに固執し、「政権を倒すこと」だけが生き甲斐になり、「その次」を真剣に考えていないことも見透かしているのだと思います。
 
■野党は「オムツをつけた赤ちゃん」
「安倍政権の他に選択肢がない」という状態も、安定支持率の原因です。要するに、野党が弱すぎるのです。現在の野党の国会議員には「権力への執着心」があまりに欠けている。僕はそれが最大の問題だと思います。
「政治家は権力にこだわれ!」と言うと、朝日新聞などの“インテリ”から総攻撃を受けるでしょう。しかし、僕は「権力は悪ではない」と考えています。
 先日、憲法学者の木村草太さんと話した時、彼もまったく同じ考え方をしていました。国家が成立するには、無秩序状態を無くすための「主権=権力」というものをまず確立した上で、次にそれが暴走しない防波堤として「憲法」を作る――僕たちはこう考えています。国家から権力が失われた時に無秩序で悲惨な状況が生まれることは、アラブの春以降の中東を見れば分かることです。
 そして、政治家にとっての権力とは「手段」である。もちろん、権力を悪用して保身に走り、自己利益を図るのは言語道断。しかし、権力がなければ政治家は自らの「政治的な思い」を実現することはできません。
 自民党の強さの根源はそこにあります。彼らは権力を持った経験が多く、「権力を持たなければ政治家をやっている意味がない」と考えています。だから権力に執着する。そんな政治家の典型が、自民党で幹事長まで務め、その後、党を飛び出した小沢一郎さんです。小沢さんは「強い野党を作るには権力に執着するべきだ」という信念を貫き、2009年に政権交代を実現させています。
 では、今の野党はどうでしょうか。残念ながら、ほとんどの議員は権力を持ったことがないか、一部の議員がせいぜい民主党政権3年間のみ権力の座についただけなので、権力の重要性が分かっていません。多くの議員は国会議員の良すぎる身分に安住しています。
 言うなれば、現在の野党は、まだ立てもしないオムツをつけた赤ちゃんです。今の野党が「自民党から政権を奪取するぞ!」と言うのは、赤ちゃんが「大谷翔平選手を打ち取るぞ~」と言っているようなものです。そんなの無理に決まっていますよね。まずは両足で立ち、両腕をぐるぐる回せるようになり、ボールを投げられるようにならなければ始まりません。野党もそれとまったく同じ。「多くの経験を積んで成長した上で強敵に勝負を挑む」というプロセスが必要になってくるのです。
 僕は先月『政権奪取論』という本を上梓したのですが、同書で伝えたかったのはそのことです。野党を強くするためには権力を使う経験をさせる必要がある。しかし、「試しに政権を取らせてみようか」というわけにもいかないので、別の舞台を作らなければなりません。
 その舞台こそ、「地方自治体」です。
 地方自治体を舞台に権力行使を体験すれば、野党は一皮も二皮も剥けて、強くなると僕は信じています。
 中国共産党は組織としてなぜ強いか。それは、中央委員会の序列上位の人たちは皆、地方で行政権を行使した経験があるからです。習近平国家主席も、福建省長や浙江省党委員会書記を経験した上で、中央委員会入りしています。トップとして権力を行使し、役所をマネジメントした経験は、必ず「強さの源泉」になってくる。
 僕が2010年に「大阪維新の会」を作ってやりたかったことは、「地方で党の足腰を強くしてから国政へ進出する」という前例を作ることでした。
「地方で“風”を起こすこと」が政権交代を実現する最大のエネルギーであると僕は今も信じています。“実験台”にされる自治体は「たまったもんじゃない」と思うかもしれません。しかし、既存の政治を打ち砕くにはそれしか方法がないのも事実です。少し時間はかかるかもしれませんが、“強い野党”を作れるのは、最終的には地方の有権者や地方の政治家しかいないのです。
 
憲法改正のカギを握るのは誰だ?
しかし、強力な野党のリーダーが現れる気配は今のところありませんから、しばらくはこのまま“自民一強”の時代は続いていくと思われます。
 では、安倍さんは残りの任期で何ができるでしょうか。
 3年と言っても、政治的にはあっという間の期間ですから、僕は優先順位を明確に付けるべきだと思っています。最上位は、安倍さんの悲願でもある憲法改正国民投票の実施です。「憲法改正を全国民に問う」なんてことは憲政史上誰もやったことがありません。だから、これだけは任期中に必ず実現してほしい。
 僕はかねてから「国民投票目的的憲法改正論」を唱えています。つまり、憲法改正の中身やその成否そのものよりも、国民投票の実施こそが最大の目的だとする立場です。なぜ「国民投票」にこだわるかと言うと、憲法改正の成否がどうなろうとも、国民が直接「大きな国家課題に答えを出す」という経験をすることで、日本の民主主義のレベルが飛躍的に上がると信じているからです。
大阪都構想」の住民投票を実施した経験から、そのことは肌で感じています。結果的に否決になってしまったものの、あの住民投票を経て“大阪の民主主義のレベル”は劇的に上がりました。投票日までの間、大阪に住むみんながこの問題を真剣に考えてくれました。保育所の前ではママたちが、スーパーでは主婦たちが、銭湯ではおっちゃんたちが、大阪市中の人が「大阪都構想」について語り合い、最後は一票を投じて、結果を出した。そのプロセスこそが何よりも大事なのです。
 大阪は、今、全国でも有数の政治レベルが高い都市になっています。10年前、大阪府知事選挙に立候補した時の僕の公約は〈子どもが笑う大阪〉でした。今考えれば、そんな曖昧なキャッチコピーを掲げても当選するくらいの政治レベルの街だったのでしょう()。今はこれじゃ無理ですね。大阪府下で行われる首長選挙では、各候補者は極めて具体的な地域課題とその解決策を掲げ、住民もそれを吟味して投票しています。
 大阪以外の大きな自治体を見渡すと、多くの首長は霞が関から来た官僚出身の落下傘候補か、テレビなどで名の知れた著名人ばかりです。
 しかし、大阪を見てください。松井一郎大阪府知事をはじめ、吉村洋文大阪市長、宮本一孝門真市長、伏見隆枚方市長、永野耕平岸和田市長、冨宅正浩柏原市長……市議会議員や府議会議員から地道に経験を積んだ人が行政権を行使しています。彼らが今後、その経験を活かして国政に出ていく可能性も十分あると思います。こうしたルートが優れた政治家を輩出していくのです。
 そしてもう一つ、僕が「大阪都構想」の住民投票を経験して得た教訓があります。それは、投票する人は、最終的に、その案の内容ではなく「提出者が信用に足る人物かどうか」で判断するということです。
 投票前、僕の見立てでは「大阪都構想」について、「賛成の人:反対の人:よく分からない人」は、おおよそ「3:3:3」の割合で分かれていました。
 賛成と反対の人は、僕たちが何を言おうとその判断は揺らぎません。カギを握るのは、「よく分からない人」です。彼らは何で判断するのかといえば、最終的には「橋下徹は信用できる人物なのか」なんです。その上で、「○」か「×」をつける。「大阪都構想」がなぜ否決になったかといえば、それは、「提出者の『橋下徹』という人間が信用されなかったから」ということに尽きると思います。
 この理屈は、安倍さんによる「憲法改正国民投票」にも当てはまるでしょう。もし、安倍さんが、「憲法改正案の中身が良ければ大丈夫だろう」と思っているのならば、僕は経験者として「甘い」と忠告したい。
 内閣を支持するかどうかは、多少問題があっても「現在の状況はまあいい」「野党よりマシ」という“総合的な判断”の下で行われますが、「憲法改正、是か非か」を決めるのに“総合的な判断”はありません。憲法改正案だけを見て賛成、反対を決めるからです。そしてこのような大きな課題については、賛成・反対・よく分からない、の比率は大阪都構想と同じくだいたい3:3:3です。
 そして、森友・加計学園問題への対応をはじめとした安倍政権の慢心した態度への不平と不満は、絶対に国民投票で「反対」の方向に強く作用してくるはずです。
 繰り返しますが、多くの国民は、安倍政権の国民を舐めた態度を冷静に見つめています。
「いくら『憲法改正やりたい』言うても、調子に乗っとるから、ここでお灸をすえなあかんな!」
 実は心の中でこう思っている人が大勢いるということを、安倍さんはしっかり認識するべきなのです。
※禁無断転載 (C)文藝春秋 橋下 徹/文藝春秋 201811月号
 
 
こっちも「橋下 徹前大阪市長・元大阪府知事 安倍首相への忠告〈最大の敵は自分自身の驕り〉【全文公開】――文藝春秋特選記事」と題した文春オンライン12/4() 7:00の有料配信記事である。
 
 
確かに橋下さんの言い分を聞いてれば至極当然で当たり前の事を言ってるように見えるが、二つだけ間違ってる事がある。民主主義に照らして無理して選挙民である国民を信用してるように書いてるが、その実、心の底では半分信用どころかバカにしてるように見受けられるところがあるからである。橋下さんが言うように国民は皆そんな高等な人間だけではない。解ってて無理して称賛してるようなところがある。もし橋下さんが本当に政治的なトップがやる事はそんな小さなことではなく、国の行く末を大局的な見地をもってするような人と言ってるが、だったら橋下さん自ら健全な野党、権力を交代せしむる勢力、それが維新だったのかと言いたい。健全な野党どころか、権力になびいた、政権党の補完勢力ではなかったのかと私は言いたい。ここまで最もな偉い事言えるんだったら何故維新をそうさせなかった?と私は言いたいのである。言ってる事とやってる事がまるっきり違うではないのか。また橋下さんは「大阪都構想」がなぜ否決になったかといえば、それは、「提出者の『橋下徹』という人間が信用されなかったから」と言ってるが、それは違う、「信用」ではなく、それは「嫌い」だったからと言っておきたい。事人間は生き物である。本当に事の決断時は、それなりの「信用」で判断するだろうが、それはインテリ層だけと言いたい。本当の人間は生きてる者としての判断は好きか嫌いかに尽きる筈、理屈ではない、生き物として合うか合わないかの二者拓一、つまりは好きか嫌いかである、それが人間なのである。そこのところがさしものの橋下さんの解らなかったところと言える。正に「大阪都構想」はそれだった。橋下さんあなたは信用されなかったからではなく嫌われたんだよ