これは誤算だろうか。消費増税の呪縛が解けるどころか、設備投資を手控える企業が多く、経済全体が失速した――。
先週初め(11月16日)の内閣府の発表によると、今年7~9月期の実質GDP(国内総生産、速報値)は、年率換算で前期比0.8%減となった。大方のエコノミストの予測(同0.3%)を下回ったうえに、年率0.7%減だった4~6月期に続く2期連続のマイナス成長である。
この事態に、日本銀行が19日の金融政策決定会合で景気判断を「緩やかな回復を続けている」と据え置くなど、政府・日銀は平静を装っている。気になる先行き(10~12月期)についても、多くのエコノミストが7~9月期に在庫調整が進んだことを根拠に持ち直すとみているという。
だが、楽観は禁物だ。FRB(米連邦準備理事会)の12月利上げの公算が高まる中で、企業が思い切った在庫の積み増しに転じるとは考えにくい。むしろ、設備・在庫投資の一段の抑制が起こる悲観シナリオを念頭に置く必要がありそうだ。
安倍政権発足後の12四半期をみると、マイナス成長に落ちたのは今回が6回目。2期連続のマイナス成長は、5%から8%へ消費税率引き上げが実施された昨年4~6月期から翌期にかけての2期連続マイナス成長に続く事態である。
今回のマイナス成長を招いた元凶は、前期比1.3%減を記録した企業の設備投資だ。前期に比べてマイナス幅が0.1ポイント拡大した。背景にあるのは、一段と鮮明になった中国経済バブルの崩壊である。大手企業は、このところ過去最高水準の利益を上げてきたものの、チャンスよりリスクに反応する傾向は変わらない。8月中下旬に上海市場発の世界同時株安が起きたこともあり、企業の投資マインドが冷え込んだ。
第2の悪役は、政府支出だ。前期比0.3%増と拡大幅が0.3ポイント低下した。
一方、力強さには欠けたが、個人消費は前期比0.5%増と2四半期ぶりのプラスに転じた。夏休みのレジャー需要が効いたほか、夏物家電や夏物衣料が売れたという。外需(財・サービスの純輸出)も前期比0.1%増と3四半期ぶりにGDPを押し上げる要因になった。金額ベースで見れば輸出入とも低調ながら、欧米向けの輸出が堅調で中国やアジア向けの低迷を補った。
■政府は「景気後退」を頑なに否定
四半期ベースで2期連続のマイナス成長となれば、景気後退局面とみなしても不思議のないところだが、安倍政権は、そうした見方を頑なに否定している。まず、甘利明経済財政・再生大臣がGDPの発表と同じ16日の記者会見で、「(景気は)トレンドとしては回復に向かいつつある」と従来と同じ景気認識を繰り返した。
続いて、19日。マニラで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議で、IMF(国際通貨基金)のリプトン筆頭副専務理事が「日本経済は成長への回帰を目指しているが、現在、やや休止中」と説明したのに対し、安倍首相が反論。「第2次安倍政権になって以降、国内総生産は27兆円増え、企業も最高の収益を上げている」と強調した。
一方、日銀の黒田東彦総裁も19日の金融政策決定会合後の記者会見で、「雇用・所得環境の着実な改善が続く中、個人消費は底堅く、住宅投資も持ち直している。企業・家計ともに所得から支出への前向きな循環はしっかり作用し続けている」と景気回復傾向は不変との見方を示したという。
さらに、17日付の日本経済新聞朝刊によると、「18人の民間エコノミストの予測を平均すると、10~12月のGDPは1.1%と小幅ながらプラス成長になる」見通しという。「在庫調整が進んで生産が持ち直す」というのがその理由としている。
しかし、「在庫調整が進んだ」からといって、経営者のマインドが冷え切ったままでは「生産が持ち直す」保証はない。
特に、気掛かりなのが、相変わらず実態のわからない中国バブル崩壊の深刻さだ。加えて、FRBが18日に公表した10月27~28日分のFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事要旨にも注目せざるを得ない。焦点の利上げについて、次回12月に断行するかどうかについて、「大半の委員」が「(その時点には)政策金利の正常化プロセスを開始する条件が整うと想定している」と明記しているからだ。これでは、日本の経営者マインドは容易に改善しないだろう。
安倍政権は、指標に逆らって景気が好調だと主張し続けるよりも、ほかにやるべきことがあるのではないだろうか。(文=町田徹/経済ジャーナリスト)
これ「見たくない日本的現実」「日本経済、失速鮮明に GDPマイナス成長止まらず…安倍首相、景気好調を強弁」と題した経済ジャーナリスト町田徹氏の文を昨年の11月25日に載せたBusiness Journalの記事である。