軽減税率の決着は自民党の「まじめ」と「不まじめ」の闘いだった?

 消費税再増税と同時導入する軽減税率をめぐる攻防は、勝者と敗者をくっきりと浮かび上がらせた。敗者は言うまでもなく、「4千億円以上の財源はない」としていた財務省谷垣禎一幹事長ら自民党幹部。勝者は財務省トップを出入り禁止にして、同省や自民党税調幹部が掲げる財政規律至上主義をはねつけた菅義偉官房長官。菅氏は来年の参院選も見据え、公明党とも歩調を合わせ、自民党執行部を切り崩していった。
 「財務省にとらわれて、参院選に負けたのでは元も子もない」
 菅氏に近い議員は10日、幹事長として指導力を発揮できなかった谷垣氏を冷ややかに評した。
 自民党税調と財務省公明党首相官邸。軽減税率の導入をめぐる両者の暗闘の中で、党運営の責任者であるはずの谷垣氏は、最後まで財政規律の維持にこだわり、両者の距離を縮めることができなかった。
 その結果、自民党が野党時代、民主党政権を批判する際に用いた「決められない政治」というフレーズが、危うく自らにふりかかるところだった。
 そもそも「税制」は長く、自民党の権力の源泉だった。これまで歴代首相ですら手を触れることのできなったこの「聖域」が、今回の税制改正では全く通用しなかった。
 「すべての出発点はあの更迭劇だった」
 ある幹部がそう指摘するのは今年10月、安倍晋三首相が6年間も税調会長として君臨した野田毅氏を、電話一本で更迭したことだ。
 野田氏は今夏、財務省幹部とともにマイナンバー制度を活用して増税分を上限付きで還付する案をぶち上げたが、公明党の支持母体の創価学会が「痛税感の緩和にならない」と反発。これを受け、首相は野田氏をあっさりと交代させた。
 野田氏は10日の党総務会で、対象品目の拡大を進める官邸を批判。会合後は、あらかじめ政府が一定額を入金した「プリペイドカード」を配る案こそが唯一の解決策と周囲に訴えた。だが、野田氏の発言を正面から受け取る党幹部はもういなかった。
 ただ官邸側にも誤算があった、税調会長の後任に指名した宮沢洋一氏が野田氏以上に税制の原則論にこだわり、財源は社会保障・税一体改革の枠内で捻出できる「4千億円以内」に抑えるよう主張したことだ。平成24年に一体改革の3党合意にサインした谷垣氏と、国の財政健全化を重視する稲田朋美政調会長が宮沢氏を後押しした。
 同月中旬に入ると、官邸と自民党執行部の対立は激しさを増した。
 「軽減税率の財源は、あくまで一体改革の枠内でいいんですよね」
 首相が20カ国・地域(G20)首脳会議など外遊の最中、20時間だけ一時帰国していた同月17日。稲田氏は安倍首相に電話をかけ、こう尋ねた。首相は「それで結構。安定財源を充てなければならない。谷垣さんが妥協しないよう、しっかり支えてほしい」と答えた。
 同日には、谷垣、稲田両氏と二階俊博総務会長、高村正彦副総裁、宮沢氏らが党本部で密会し、一体改革の枠内を堅守する方針を確認。さらに谷垣、稲田両氏は24日朝、党役員会のため党本部を訪れた首相を二階、高村、宮沢の3氏とともに囲み、「軽減税率は安定財源を使う」という言質を取った。
 出席者は「『それは一体改革の枠内ですか』との確認の問いに、首相は『そうだ』と明確に答えた」と振り返る。
 谷垣氏らは首相の“お墨付き”を得たと思った。しかし、ここから菅氏の猛反撃が始まった。
「俺に知らせないで総理と会うとはどういうことだ!」
 消費税再増税と同時導入する軽減税率をめぐり、安倍晋三首相が谷垣禎一幹事長ら自民党幹部と会談した11月24日朝。会談を知った菅義偉官房長官は、思わずこう声を荒らげた。さらに、同席した宮沢洋一税調会長が記者団に「首相は『一体改革で捻出できる4千億円の枠内』に理解を示した」と説明したことを知り、菅氏はさらに激怒。約2時間後の記者会見では「私は『枠内』とは聞いていない」と異例ともいえる打ち消しに出た。
 さらに、菅氏ら官邸サイドは財務省に対し、4千億円の1・5倍となる6千億円の財源を確保するよう厳命。麻生太郎副総理兼財務相は29日、都内のホテルで開いた立党60年記念大会で、同席したベテラン議員に「菅は勇み足をした」と苦々しく語った。
 だが菅氏の攻勢はとまらない。財務省の田中一穂次官を議員会館の自室に呼び「対象品目を広げられるよう、財源を探してほしい」と重ねて指示。田中氏が4千億円以上の支出に難色を示すと、「財務省はできないとしか言わない」と協議を5分で打ち切り、田中氏を退席させた。
 この後、菅氏は田中氏と同省の佐藤慎一主税局長に「官邸への出入り禁止」を通告。周辺には軽減税率制度が整わなければ29年4月の消費税率10%への増税を見送る可能性を示唆する発言を繰り返すようになる。
 菅氏は、頑強だった党執行部の切り崩し工作にも乗りだした。ターゲットは党三役で最長老の二階俊博総務会長。実は二階氏自身、12月1日に公明党の漆原良夫中央幹事会長や太田昭宏国土交通相と会談した際、同党が来年の参院選を見据え、軽減税率の対象拡大に不退転の決意で臨んでいることを感じていた。
複数の関係者によると、8日に自民党の二階氏と菅氏が電話などで協議。これ以降、二階氏は周囲に「公明党への選挙協力費として、財源の上積みは避けられない」と語り出す。
 中立の立場を取っていた首相も、同日面会した党幹部に「明日、谷垣さんには『もう合意してくれ』と通告する」と語り出した。話を聞いた幹部は「たった数千億円で自公の関係がガタガタしては良くない」と周囲に漏らし始めた。
 菅氏は首相の「お墨付き」を奪い返し、党執行部を切り崩した。9日昼、官邸で首相と谷垣、菅両氏の3者会談が開かれた際は、谷垣氏の外堀は埋まっていた。
 財務省は、財政規律を重んじる自民党税調幹部の意向を尊重するあまり、持論を繰り返すばかりで、菅氏に応えるアイデアを提供した様子はない。議論の終盤、劣勢が濃厚になると「10%増税を見送られるくらいなら1兆円は安い」(幹部)という投げやりな声も聞かれた。財務省幹部は「首相の『ない袖は振れない』という言葉に頼りすぎた。対象品目の線引きを最初に財務省が決めて議論すれば、1兆円も取られずに済んだはずだ」と肩を落としている。
 自民党内には、自分たちの頭越しに巨額の財源捻出を決めた菅氏に対し、「まるで独裁政治だ」(幹部)とやっかむ声も聞かれる。首相の高い支持率と官邸の実行力に頼り切る自民党の哀しき姿が、そこにある。
 
 
これ『「俺に知らせないで総理と会うとはどういうことだ!」菅官房長官、谷垣氏らに激怒 「独裁政治」とやっかみも』と題した産経新聞12月11日1150の報道記事である
 
 
 この産経風に言わせて頂けば、「まじめ」は谷垣幹事長と宮沢自民党税調組であり「不まじめ」は菅官房と官邸周辺である。要するに真面目に国の将来を考えた財政の健全化を主張した谷垣幹事長と宮沢自民党税調組は「不まじめ」な菅官房と官邸周辺に敗れてしまったと言う事である。これには伏線があった。それは党人派のように割り切れなかった「財務省OB」だったと言う事だ。つまり自説を曲げてまで選挙を考えれなかったと言う事であり、バカになれなかったと言う事でもある。そこに行くと叩き上げの菅官房あたりは実務を優先し理想を捨てた結果でもある。これは党人派の官僚出に対する趣意返しにもあたる。見方を変えれば実務に長けた官僚出へのジェラシーの成せる業とも言えなくもない。要得るに先生方も偉い事言ってるが普通の人間(悪知恵の働く)だったと言う事だ。