■攻防の構図
軽減税率がやっと落ち着いた。軽減税率の対象は「外食を除く生鮮・加工食品」で合意した。
■財務省の大失態
まだ予算編成が始まったばかりの時期に大臣発言とは驚いたが、やはり詰めが甘く、給付案は完全に頓挫してしまった。そもそも、制度が出来上がっておらず、うまくスタートできるかどうかわからないマイナンバーを前提とするのは、誰にでもわかる初歩的ミスである。
しかも、大臣に恥をかかせたわけで、財務省官僚の失態である。普通であれば、どこかの記者にリークして観測気球を上げるべきであったが、それすらもやらなかった醜態だった。
それでも、軽減税率はできないと財務省は見ていた。なぜなら、軽減税率の導入には、商品ごとに税率や税額を明記した請求書(インボイス)が必要になるが、これに経済界は事務が煩瑣になるとして反対すると読んでいたのだ。
ところが、普通の商取引では請求書は当たり前。しかも、貿易関連ではどこの国との取引でもインボイスを使っている。
さらに、本コラムでも以前言及したことがあるが、インボイスがないのは日本の消費税だけだ。これが、消費税脱税や益税(消費者が事業者へ支払った消費税のうち事業者から国庫に納入されず、事業者の手元に残る租税利益)の温床ともされ、問題視されていた。
そうした声から、世界と同様にインボイス導入となって、軽減税率の技術的な障壁が取り除かれた。
この意見は、消費税部分だけを見れば正しい。
ただし、約6000万人いる日本の納税者のうち、申告納税と源泉徴収の比率は1:2くらいで、申告納税は海外と比べて少ない。このため、給付金を申告と合わせてやりにくいのが実情であり、しかも今回救済すべきは非納税者なので、給付金措置が実際にはやりにくい。わかりやすさというのは、しばしば政治で求められることだ。
■安倍官邸「二つのシナリオ」
財務省の用意した数字は4,000億円。5%から8%への消費増税の時、軽減税率ではなく給付金でお茶を濁したが、その時の財源が6,000億円。今度は2%増税なので、4,000億円といういかにも財務省らしい話だ。
法人税減税では財源論なんてない。もともと財源論は官僚の手法であり、経済成長するなら財源論はまったく無意味だ。アベノミクスの効果で税収は増加していることからも、財源論は説得力を持たなかった。結局、1兆円となり、軽減税率対象は「外食を除く生鮮・加工食品」となった。
官邸が軽減税率対象を広くしたいのは、もし消費増税をやる羽目になっても、できるだけその悪影響を薄めたいという思惑があるからだ。おそらく官邸としては、2014年4月からの8%への消費増税に懲りているから、できることなら、2017年4月からの10%への消費増税も避けたい気持ちだろう。
自民党税調・財務省が、最後になって外食まで含む案を出してきたのは、低所得者対策という公明党のウリを奪うとともに、加工食品と外食との境界を決める作業が難しいので、事務作業を優先し、何が何でも2017年4月からの消費増税を成し遂げたい、という財務省事務方の希望の合作であろう。
■新聞業界へのアメ玉
ともあれ、1兆円となり、軽減税率対象は「外食を除く生鮮・加工食品」でおさまった。
ただし、この攻防で、新聞が軽減税率の対象かどうかは、ほとんど報道されていない。食品の中での話だから、まさか新聞は対象にはならないというのが常識だろうが、表向きは今後検討という。
ところが、実際には、新聞は軽減税率の対象になることで決着がついているという話で、積極的に報道されていないだけという。
軽減税率によって財政健全化がさらに厳しくなると報道しながら、ちゃっかりと自らは軽減税率を求める新聞には笑ってしまう。
筆者には、新聞を軽減税率の対象にするのも、官邸の「対策」のように見える。ここで、新聞を対象としないこともありえる。その場合、手のひら返しで、急に消費増税反対になるかもしれないが、すねて反官邸運動に走るかもしれない。一方、ここで新聞にアメ玉をあたえれば、今後の官邸に不利はないという見方だ。
これは、あえてリスクを冒さず、新聞を官邸に向ける作戦だ。官邸は、自民党税調・財務省の連合軍に完勝した。新聞はパワーのあるところに、ネタを求めてくるので、官邸は軽減税率のアメ玉を与えたと見るべきだろう。
■税理論の原則を無視
今回、官邸は、財務省の財源論を完全に破った。財務省はなぜ財源論しか言えないのか。なぜ財源論にこだわるのか。それは、財務省が消費税を社会保障目的税化(社会保障財源化)しているからだ。これが財務省のアキレス腱になっている。
消費税の社会保障目的税化が間違いというのは、1990年代までは大蔵省の主張でもあった。しかし、1999年の自自公連立時に、財務省が当時の小沢一郎自由党党首に話を持ちかけて、消費税を社会保障に使うと予算総則に書いた。(なお、平成12年度の税制改正に関する答申〔政府税制調査会〕の中で、「諸外国においても消費税等を目的税としている例は見当たらない」との記述がある。)
ついでにいえば、消費税は地方税とすべきだ。
消費税は一般財源だが、国が取るか地方が取るかという問題になる。地方分権が進んだ国では、国でなく地方の税源とみなせることも多い。これは、国と地方の税金について、国は応能税(各人の能力に応じて払う税)、地方は応益税(各人の便益に応じて払う税)という税理論にも合致する。
ヨーロッパの国は一国の規模が小さく、GDPで見ても日本は欧州の国が7つか8つくらい集まった規模だ。ヨーロッパの場合にはサイズが小さく、日本からみれば地方単位であるので、EUを1つの国として、その中に地方があり、それぞれで消費税を導入しているという見方もできる。
また、地方分権の進んだ国では、オーストラリアのように、国のみが消費税を課税し地方に税収を分与する方式、ドイツ、オーストリアのように国と地方が消費税を共同税として課税し、税収を国と地方で配分する方式、カナダのように国が消費税を課税し、その上に地方が課税する方式、アメリカのように国は消費税を課税せず、地方が消費税を課税する方式がある。
このように世界を見ても、分権度が高い国ほど、国としての消費税のウエイトが低い。
今回は高橋洋一さんの記事を紹介して終わりたい。