タブーに挑戦、性の介護者「ホワイトハンズ」に見る身障者の性(せい)と性(さが)(その1)

 過日たまたまテレビで「性の介護」と題した番組を見た。もちろんNHKである。

 私はこの番組を見て、ついにここまで来たかと正直感心した。これを考え出した東大学生だった坂爪真吾さんにには驚く他無い。何故ならタブーである性の問題を介護と言うジャンルで性の公共を確立したからである。
 
 ざっとこの「ホワイトハンズ」の「性の介護」の内容を簡単に紐解けば、四肢の不自由な方々への射精介助なのである。健常者で言うデリヘルと思えばいいだろう。それが15分で3,500円で出来るのだから、夢のような話だ。
 
 私を含めいわゆる男と言う動物は、生来女性と言う動物に対し、非常な憧れを持っている。(余りにも堅苦しい言い方で恐縮です。簡単に言えば唯単にスケベだ言う事であります。(笑))。恐らくこれは女性の人には一生もって解からない事だと思う。良い例が思春期の頃の中学生から高校生あたりと言える。髭が生え、陰毛も生える。声変わりを迎え、異性に興味を持つ。そして色気付き、毎日対象を女しか見ず、毎日鏡を見ながら、髪型とニキビを気にして暮らす。この頃になると一日中、勉強が手につかず、異性の事ばかり考えてる。その頃である、男性特有の夢精が起こるのである。これこそ男性特有の現象である。私等もガキの頃、何度パンツを濡らした事か。その度に、その現象に疎い母親にこっぴどく叱られた事を、今60を超えた老体になってもハッキリ覚えてる。
 
 話を戻そう。基本的にこの「ホワイトハンズ」の性の介護を受けられるのは、四肢の不自由な方々、特に両手で自分でオナニーが出来ない方々、つまり脳性まひの方々と言える。
 
 男性にとっての最高の快楽は後にも先にも、この射精でしか無い。今この「ホワイトハンズ」によってそれが脳性まひの方々も現実となるのである。
 
 とにかく私が詳細に説明するよりも、この「ホワイトハンズ」の性の介護を受けられた方々の感想を聞けば一番よく理解してもらうと思われるので、一部紹介したい。
 またこれらの対象は全て男性となるが、私は男性なので男性の生理しか解からないが、女性はどうなのだろうか、私にはどうにも解からない。こと性に関しては解からない事だらけである。
 
利用者の声。
 
1.自己紹介:「障害者って、別に『天使』とかじゃないですよ」。
 
はじめまして。私の名前は、斉藤憲弘と申します。
年齢は48歳。生まれつきの脳性まひ(アテトーゼ型)です。
こうやって文章を書いている分には、普通の健常者と全く変わらないように見えますが、実際は重度の言語障害と不随意運動があるので、初対面の方とは、ほとんど対面でのコミュニケーションができません。
おそらく、その辺の子どもが道で私と出会ったら、あまりの動きの激しさに、ビビッて泣き出すと思います(笑)。
それでも生まれつきなので、特に自分が人と比べて不幸だとか、障害者だからどうこう、とは、ほとんど思ったことはないですね。しゃべれないのも動けないもの、「当たり前」です。
一人暮らしを始める3年前までは、実家で両親と同居していました。
両親が高齢になったことも手伝って、3年前からこの築30年の公営アパートの1階で、一人暮らしを始めました。
はじめのうちは、もう毎日がトラブル続きで必死だったのですが、友人・知人、地域の方々、地元のNPOや介護事業所のヘルパーさんたちの支えもあって、なんとか1年ほどで、一人の生活にも慣れました。
生活が落ち着いてきたところで、重度身体障害者であれば誰もが考えるであろう、「性の介護」のことについて、思いをめぐらすようになりました。
私自身、昔は今よりもずっと麻痺や拘縮が軽く、スムーズに両手が動いていたので、なんとか自分の力で自慰行為ができたのですが、20代の半ばごろから二次障害が強くなってきたために、自力で行うことが非常に困難になってきました。
はじめのうちは携帯尿器の縁やベッドの手すりなどを活用?してなんとか処理していたのですが、さすがに年齢と二次障害による麻痺や拘縮の進行と共に、そうしたことも苦しくなってきました。
まさか家族やヘルパーさんに「私のズボンを下ろして自慰介助をしてください」と依頼するわけにも行かなかったので、このことは長年悩みの種でしたね~。
現在の介護・福祉制度では、「障害者の性」は完全に黙殺、最初から存在しないもの、とされていましたから。
そもそも、世の中に「障害者=天使」、「障害者=ピュア」とかいう、当事者の私達からすれば、笑っちゃうような思い込みがあるんですよね。
「障害者に、性欲は無い」と真顔で語る人も、大勢いましたし。
いや、貴方に私の性欲の有無を勝手に代弁されても、困るんですが(笑)。
施設に入っている友人の場合はもっと悲惨で、十数年、場合によっては三十年以上自慰行為をしていない、という脳性まひの男性が、それこそゴロゴロしていました。
一概には言えませんが、施設というところは、20代の女性職員が、自分より年上の50代男性入居者を、「ちゃん」付けで呼んでいるような世界ですからね。
職員の立場としても、「ウチの純真無垢な●●ちゃん」に、ギラギラした生々しい性的欲求があるとは、あまり考えたくないのでしょう。
また「手の不自由な男性同士、お互いの口を使って自慰行為をサポートし合った」という話も、嘘か本当かは分りませんが、聞いたことがありますし。
まぁ、少なくとも本当の「天使」はそんなことしないよな、と(笑)。
そういう背景もあって、若い頃からずっと、「将来一人暮らしをするようになったら、絶対に風俗を利用しまくってやる!」と野望に燃えていました。
実際、脳性まひの中年男性の中には、それが強烈なモチベーションとなって、自立生活を始める方もいらっしゃるようですし。
 
2.ホワイトハンズとの出会い:「はじめは、障害者を狙った、新手の詐欺だと思っていました(苦笑)」
 
さて、いざ一人暮らしを開始して、生活も落ち着いたところで、「さぁ!」と思ってネットで風俗店を探してみても、どのお店も、「こ、これはちょっと・・・」と思うお店ばかり。
時間帯によってなぜか利用料金がコロコロ変わったり、経営者の名前や事務所の場所が全く明記されていなかったり、電話番号やメルアドが全部携帯だったり、従業員が全員偽名だったり。
要するに、信頼感ゼロ、非常に胡散臭いんですよね。
「障害者ということで、割高な料金を吹っかけられた」といった被害談は、風俗利用経験のある首都圏の脳性まひの友人・知人から頻繁に聞いていたので、私も店舗の選択にはかなり慎重になっていました。
なにせ、こちらは動けないし、喋れません。
いったん相手を家に上げてしまえば、物を盗まれようが、財布からお金を巻き上げられようが、一切抵抗できませんから。
そもそも、経営者の名前や事務所の住所が分かっておらず、連絡先が全て携帯の場合、仮にこちらが警察に通報したにしても、簡単に逃げられてしまうじゃないですか。
そういう意味で、経営者の名前や事務所の住所が明記されていない店舗、連絡先が携帯電話&携帯アドレスのみの店舗は、最初から選択対象外でした。
でもそうなると、ほとんど全ての風俗店が、選択対象外になってしまうんですよね。
どうして、性に関連するサービスって、こういった胡散臭い風俗店しかないんだろう・・・。
もっと普通に、誰もが当たり前に利用できる、性の介護サービスって無いのかな、とぼやいてましたね。
そんな時、偶然ネットサーフィンで発見したのが、このホワイトハンズです。
一番最初にホームページを見たときは、「えっ、こんなのが今の日本にあったんだ!」と驚きました。
ちょっと前に、「セックスボランティア」とかいう本が流行しましたよね。
私も、知り合いの理学療法士さんから借していただいて、読んだことがあります。
あの本のなかに、オランダでは障害者に対する性的な面での有償ボランティアサービスがあると書かれていましたが、まさか日本でもあるとは思いませんでした。
それでも正直、はじめは「脳性まひの障害者を集中的に狙った、新手の詐欺なんじゃないかな」と疑心暗鬼でした(笑)。あまりにも、脳性まひ者のニーズに特化しすぎていたので。
実際、世間知らずの障害者が、ネット上で詐欺師のカモにされるケースは、それこそはいて捨てるほどありますからね。私も、カモ予備軍として狙われているのかな、と。
まぁ、カモられるほどの大金は持っていないのですが・・・。
信用できるかどうかを確かめるために、簡単な問い合わせメールを送ってみました。
すると、10分後くらいに、いきなり「お問い合わせありがとうございます」という事務局からの返信がかえってきて、「は、早ッ!!」と、ビックリしました。
地元の社会福祉協議会なんて、メールを送っても、返信まで1ヶ月近くかかるので(笑)。
利用方法やケアの内容について何度かやり取りした後、(偉そうな発言ですが)まぁまぁ信用できそうな組織だと判断できたので、実際にケアを利用してみることにしました。
それでも私は疑り深い&貧乏臭い性格なので、「まぁ、初回だけちゃっかり受けておいて、『す、すいません、ちょっと今月はお金が・・・』という口実で、その後の利用は断っちゃえばいいかな」と、軽く考えていました。
そうそう、ホワイトハンズさん、基本的にスタッフの年齢や容姿は選べないんですよね。
まぁ、キャバクラや性風俗店ではないし、通常のヘルパー事業所でもスタッフの年齢や容姿は選べないところがほとんどなので、当たり前と言えば当たり前ですが。
私も若い頃は、どうせケアしてもらうなら妙齢の女性より若い女性のほうがいいなぁ、とは思っていたのですが、この年になってようやく、容姿のよさと性格のよさは比例しない、ということが分かるようになったので、それほどヘルパーさんの容姿だの年齢だのにこだわりはしなくなりました。
そういうことにこだわっているうちは、まだまだ「青い」ですね(笑)。
介護で大切なのは、ルックスではなくハートですから。
 
以下続きます。