もはや「安倍4選」などあり得ない
今般の臨時国会ではご存知のように菅原一秀前経産相、河井克行前法相が「政治とカネ」の問題で相次いで辞任したのを皮切りに、安倍晋三総理自身が主催する「桜を見る会」に地元講演者を招いて酒食を提供したことに関して公職選挙法違反の疑い、ニューオータニで開かれた「前夜祭」については、政治資金規正法に抵触する可能性など続々と「不都合な真実」が発覚し、嘘と公文書破棄による言い繕いも破綻し始めている。
もはや安倍の4選などあり得ない。
安倍総理が抜き去るまで、総理大臣として最長の在職日数を誇った桂太郎も、最後は護憲運動の盛り上がりの中で退陣を余儀なくされ、その後、失意のまま一年も経たないうちに没している。
国民の中には、安倍政権への不満がマグマのように溜まっている。その不満をすくい上げる政治家が与野党問わず出てくれば、国民はその政治家とともに声をあげるだろう。
『月刊日本 2020年1月号』では、「安倍長期政権の終わり方」という第一特集を組んでいる。今回はその中から、自民党元幹事長である山崎拓氏の論考を転載、紹介する。
レガシーなき安倍長期政権
―― 11月20日に憲政史上最長政権になった安倍政権を、どう評価していますか。
山崎拓氏(以下、山崎): 戦後の歴代内閣はそれぞれ歴史的なレガシーを遺してきました。戦後内閣の主だった功績を列挙すれば、吉田内閣は主権回復、岸内閣は安保改定、池田内閣は所得倍増、佐藤内閣は沖縄返還、田中内閣は日中国交正常化、中曽根内閣は国鉄、電電公社の民営化、小泉政権は郵政民営化、拉致被害者の救出(一部)をやり遂げている。
それに対して安倍政権は、憲政史上最長とはいいながら主だった功績はない。アベノミクスはデフレ脱却を実現できず、北方領土交渉は膠着状態、公約した拉致問題は未解決のまま、憲法改正も迷走状態です。レガシーなき長期政権だと言わざるをえません。
―― 先日、中曽根康弘元総理が亡くなりましたが、安倍政権と中曽根政権はよく比較されます。
山崎:安倍政権と中曽根政権は表面的に似ているかもしれませんが、その中身は全く違う。
まず「官邸主導」の意味が真逆です。中曽根総理は土光臨調に象徴されるように、あくまでも民間の有識者の英知を活かして官僚を主導しました。
しかし、安倍総理は逆に俗な官僚に主導されています。安倍総理は「アベノミクス」「一億総活躍社会」など様々なキャッチフレーズを次から次へと出しますが、本人のアイデアではないでしょう。いわゆる秘書官のグループの振り付けだと思います。安倍総理は官僚を使うのではなく、面従腹背の官僚に使われているようにしか見えない。
また外交面では、中曽根総理は米ソ両国の間で一定の指導力を発揮しました。中曽根総理はレーガン大統領、ゴルバチョフ書記長と会談を行い、両者に冷戦構造の解消を提唱された。ベルリンの壁撤去と38度線の解消を持ちかけ、日本も積極的な役割を果たすと訴えたのです。
私は首脳会談に陪席したのでよく知っているのですが、中曽根総理はその方向に米ソ両首脳を説得され、その心を動かした。このような主体的な日本外交が、1989年12月に米ソ両首脳が冷戦終結を宣言するマルタ会談につながったのだと私は思っています。
それでは、安倍総理は「新冷戦」と呼ばれる米中対立に十分な指導力を発揮できているか。このままでは日本は米中の狭間で埋没してしまうという危機感は日本社会全体に広がっているのが現状です。
安倍総理はレガシーを築き上げて歴史に名を残す名総理にはなれないのではないかと思います。
「エリート」でも「叩き上げ」でもない安倍総理
―― 安倍総理は戦後生まれの世襲議員であり、それ以前の宰相とは異質なように見えます。
山崎:安倍政権は戦後政治の中で特殊な位置を占めていると思います。戦後政治を振り返ると、そこには戦前から続く官僚主義と、戦後に始まった草の根民主主義という二つの潮流がありました。戦後政治の底流には、エリートと叩き上げ、そのどちらが日本を引っ張っていくのかという主導権争いがあったのです。
それが最もよく現れたのが佐藤政権末期です。当時、「ポスト佐藤」の座をめぐって福田赳夫と田中角栄が争いましたが、福田は吉田茂、岸信介、池田隼人、佐藤栄作に連なる官僚主義の嫡子です。それに対して、田中は草の根民主主義の申し子です。
佐藤総理には、戦前から続いている官僚エリートが国政を担うべきであるから、その系譜に連なる福田が新たな自民党総裁として政権を担当すべきだという思惑があったと思います。
しかし結果的に田中がポスト佐藤の座を獲得したことで、官僚主義の流れは途切れました。田中派の系譜、すなわち草の根民主主義の潮流はその後も脈々と受け継がれていった。
それでは、中曽根総理はどうか。中曽根総理は帝大卒業後、内務省を経て海軍主計中尉になり、もともとは戦前の官僚エリートです。しかし、政治家になってからは憲法改正の旗を立てて自転車で全国を遊説したり、また憲法改正の歌を作ったりして、草の根民主主義の在り方を実践された。その意味で中曽根総理はエリートと叩き上げの両面を兼ね備えた政治家だった。
ところが、現在の安倍政権はエリート主義でも草の根主義でもなく、いわば世襲主義です。エリートでもなければ叩き上げでもないボンボンが日本を引っ張っているという状況は、これまでになかったことです。
―― 佐藤内閣の時には「三角大福中」と呼ばれる有力な後継者たちがいましたが、今では存在感のある総理総裁候補はほとんどいません。なぜ自民党は活力を失ってしまったのですか。
山崎:それは安倍総理が後継者を育成しなかったからです。たとえば、中曽根政権は「ニューリーダー」と呼ばれる後継者たちを育てました。竹下登には大蔵大臣・幹事長、安倍晋太郎には外務大臣・総務会長、宮澤喜一には通産大臣・政調会長を任せるなど、後継者たちを政府与党の枢要ポストに起用して経験を積ませ、お互いに切磋琢磨させたのです。
最終的に中曽根総理はご自身がやり残した売上税(消費税)導入をやり遂げるという約束で、竹下登を後継指名されました。あらかじめ一定の方針を持って後継者を育成し、バトンタッチしたということです。
それに対して、安倍総理は積極的に後継者を育成しているようには見えない。小泉進次郎を環境大臣という端役に起用したのが良い例です。もちろん現代において環境問題は重要な問題ですが、伝統的に環境大臣というポストは端役とされています。安倍総理には、国民が最も支持する若手議員である進次郎氏を枢要ポストに起用して育てる気がないということです。
安倍政権の中で連続して主要閣僚に起用されているのは麻生副総理兼財務大臣と菅官房長官ですが、これは色々な意味で後継者育成には該当しない。党三役では二階幹事長が目立っていますが、総理を目指しているわけではない。総務会長や政調会長は誰がなっているのか分からないくらい存在感がない。
安倍総理が後継者を育成してこなかったために、「ポスト安倍」の自民党は後継問題をめぐって四分五裂の状態に陥り、低次元の権力闘争の混乱だけが残るでしょう。つまり「三角大福中」時代のように超大物が競い合うのではなく、小物が競い合うという感じになる。もはや自民党は「ヘソのない政党」のようになってしまった。安倍総理が一強独裁体制を敷いてきたツケは大きい。
安倍にしがみつくだけの自民党議員
―― 自民党議員が小物ばかりになったのは、小選挙区制の弊害でもあると思います。
山崎:同感です。中選挙区制の時代では、派閥が議員を育成する役割を果たしていました。中選挙区では一つの選挙区で複数の候補者が当選するため、派閥同士で熾烈な競争を行い、お互いに切磋琢磨することができたわけです。しかし小選挙区では派閥同士の競争原理が働かない。そのため、派閥はかつてのような教育システムの機能を果たせなくなったのです。
また中選挙区制では無所属非公認でも選挙に出て、当選することもできました。私自身、1972年の初当選時は無所属でした。しかし現在の小選挙区制では無所属非公認では選挙に出られない。出ても当選できない。昔は志さえあればチャンスを作れたが、今は志がないし、あってもチャンスが作れない。
その結果、地盤・看板・鞄はあるが志のない世襲議員が増えていき、自民党の質が著しく劣化している。「自分は生まれながらに政治エリートになる資格がある」と勝手に思い込んで出てくる人間ばかりで、安倍という権力者にしがみつくだけの政治家群像になってしまった。
昔の自民党には「こいつは将来大物になるぞ」という人材がゴロゴロいましたが、今の自民党にはほとんど見当たらない。人材が払底している。自民党OBとして私自身の責任も噛み締めていますが、本当に目を覆いたくなる状況です。自民党だけではなく日本全体にとって由々しき事態です。
―― 小選挙区制度の弊害は明らかです。この制度は変えるべきだと思います。
山崎:それはその通りですが、現実的ではないと思います。小選挙区制で当選している議員に選挙制度を変えるモチベーションはないですからね。それゆえ問題は、現在の選挙制度のままでいかに人材を育成していくか、ということです。答えは一つしかない。派閥の競争がなくなった以上、やはり与野党の競争で人材を育成するしかないのです。
もともと小選挙区制の在るべき姿は、与野党の間で振り子の原理が働いて、政権交代の緊張感があることです。与党は政権交代を防ぐために、野党は政権交代を実現するために、お互いに党内で議論を重ねて魅力ある政策を打ち出し、有為の人材を育成していく。
ところが、実際には与野党の実力に差があり過ぎて振り子の原理が働いていない。十両相手じゃ横綱の稽古にはならんのです。その結果、稽古をしていない横綱の実力も大関どころか関脇、小結くらいに落ちる。野党が弱いだけではなく、その状況に胡坐をかいた自民党も劣化して、政治全体の質が落ちてしまっている。
いま必要なのは、政権交代の緊張感を取り戻すことです。そのためには野党が強くならなければダメです。そうすれば自民党も負けん気を出して、与野党で切磋琢磨することができる。
「石破総裁」ではなければ選挙に勝てない
―― 安倍総理の総裁任期満了まで2年を切りましたが、安倍政権はどのような終わり方になると思いますか。
山崎:安倍総理がどんな辞め方をしても、無傷で済むことはまずないと思います。これは非常に難しい問題で、私が総理の立場でもどうしていいか分からないほどです。
重要なのは、2021年10月に衆議院の任期が切れるため、2年以内に総選挙があるということです。それゆえ問題は、自民党は誰をトップにして戦うのか、誰をトップにすれば勝てるのかということです。
仮に安倍総理が2021年9月の総裁任期満了で退陣した場合、新総裁はわずか1か月で総選挙を戦うことになりますが、それは無理です。
そのため、安倍総理は2020年中に岸田文雄政調会長にバトンタッチするのではないかとも言われていますが、岸田氏に対する国民の支持率はわずか数パーセントです。これでは岸田氏に禅譲しても総選挙を勝ち切れるとは思えない。
かといって安倍総理が自分で解散総選挙をおこなってから岸田氏を後継指名することもできない。安倍総理が選挙を打っても敗ける可能性の方が高いからです。
つまり安倍総理、岸田政調会長がトップでは次の選挙で勝てないだろうということです。ここから安倍総理が党内から退陣を迫られる可能性が出てきます。自民党内ではまだ「安倍4選」が既定路線であるかのような錯覚があるため、「4選になったらどうしよう、いま逆らうと大変だ」という空気が残っている。しかし、すでに「安倍4選」の可能性はなくなりつつあり、潮目が変わろうとしている。
―― 自民党が次の選挙に勝ちたいならば、党内で反旗を翻すしかない。
山崎:それをできるのは石破茂しかいない。現にそうしています。確かに石破氏は自民党内で強く支持されているわけではないが、国民からは強く支持されている。最近の世論調査では「次の総理」として石破氏への支持率が急上昇し、首位に立っています。
国民がこれほど石破氏を支持しているという事実は重い。なぜ自民党議員がそれに注目しないのか。石破以外に次の選挙で自民党が勝てる総裁がいるのか。数パーセントの支持率しかない岸田氏をトップにして総選挙を戦うという道はありませんよ。
なぜ石破茂には国民的人気、特に地方の人気があるのか。それは本人が地方出身であること、全国を回って絶えず地方創生の重要性を訴えていること、政界屈指の勉強家であることが国民から理解され、その熱意が国民に伝わっているからでしょう。
実際、石破氏の演説はずば抜けて優れている。他の「ポスト安倍」候補は迫力のある演説ができていない。明らかに勉強不足ですよ。
石破氏は小物ばかりの自民党の中で、総理の任に堪えうる数少ない人物です。肚を括って決起すれば、必ずや総理の座を手にするでしょう。しかし、ここで引き下がったらダメです。それでは「怯儒にして兵を引く」という状況になる。
私は石破氏に期待していますが、それは私情ではなく、将来は別にして当面の間は他に総理の任に堪えうる人材がいないと思うから、国の前途を憂いて言っているまでです。石破氏には是が非でも国家国民のために奮起してもらいたい。(12月3日インタビュー、聞き手・構成 杉原悠人)
【月刊日本】
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
ハーバー・ビジネス・オンライン
これ「安倍長期政権の終わり方<自民党元幹事長・山崎拓氏>」と題したHARBOR BISINESS Onlin 12/29(日) 8:32の配信記事である。
ホントこの山崎さんの言う通りだ。
小泉純一郎元首相は本当に自民党をぶっ壊してしまったと言って良い。今にして思えば、安倍政権になり、自民党本来の良き古い政治が懐かしさを覚えるようだと思えるが、正直先進国日本が長期安倍政権になり数年遅れ始め、迷路に入った感じがしてしょうがないのである。これも政治に興味を持った者だけが感じているのかも知れず、政治に無知な人間や無党派層はそれにも感ぜず、またもや安倍自民を選ぶならわが日本は暗黒時代に突入し、元に戻るに何10倍もの期間を費やすに違いないと思う。今後我日本のとる道は、安倍自民と決別し早急に与野党に拘らず救国の意識を持った危機感を共有した政治を行ってもらいたいものである。