北朝鮮の間接的共謀者、中国

2010年9月7日の漁船衝突事件以来の対中国・北朝鮮外交問題について、あるローカル紙になるほどと思われるコラムが載っていたので紹介したい。
テーマは「北朝鮮の間接的共謀者、中国」と題し、寄稿者は佐藤隆蔵ニューヨーク大名誉教授である。以下に記す。
 
『 北朝鮮が韓国の延坪島ヨンピョンドを砲撃した事件は、極東における軍事的な緊張を高める挑発行為であった。北朝鮮がなぜこの時期にこうした行動を起こしたのか。
 これに対する専門家たちの分析を大別すると①金正曰総書記の後継者、正恩ジョンウン氏に関するデモンストレーション効果を狙ったもの②これまで通りの瀬戸際外交北朝鮮の存在感を世界に誇示しようとしたもの、が挙げられる。
 だが米国の一部には、これに加えて③中国との間接的な共謀説、がある。
 後継者問題に関しては、正恩氏はいきなり党の要職に就き、「軍事の天才」の触れ込みに恥じぬような実績を示さなければならない。今回の砲撃の背景にはこうした事情がある。民間人2人を含む4人を殺害した残酷な軍事行動が、仮に正恩氏によって企画されたとしても、将軍様を絶対者と信じているナイーブで愚直な北朝鮮人民にならいざ知らず、北朝鮮以外の人々の目には、彼が天才だとは映らない。北朝鮮国内向けの宣伝である。
 瀬戸際外交は対外的挑発による譲歩を狙ったもので、より重要な結果を招く。これまで国際社会はこの外交に翻弄されてきた。1990年代の初め、クリントン米政権はカーター元大統領の訪朝で北朝鮮の核開発を放棄させた、と誤った判断をした。この代償として日本や韓国は北朝鮮の年間消費量の約半分の石油などを提供させられた。
  ブッシュ政権になると、この約束が守られていないことが分かった上、6カ国協議の最中に、偽米ドル札事件で封鎖した銀行口座を解除せざるを得なかった。北側が核実験という崖つぶち外交を突き付けてきたからである。また、イラクで手を焼いていたプッ シュ政権は北米大陸にも届くといわれたミサイル発射に仰天して、テロ支援国家の烙印も取り下げてしまった。
 今回は米の核専門家にウラニウム核計画が進められている現場を見せるど同じ時期に、延坪島砲撃を実行することで米韓や世界から自分たちの望むものを引き出そうとしている。だがこうした表面的な北朝鮮の行動のみを見るのではなく、その背後に潜む中国の意図を探る必要がある。
 中国は、正恩氏の後継発表代表者会議に要人を立ち会わせた。北朝鮮はいまや中国の属国に等しい。北朝鮮が崩壊すると多数の難民が流入する。中国はそれを恐れて支援している、と言われている。だがそんな程度の付き合い方ではない。明らかに今の中国にとって、北朝鮮の存続は中国の世界外交にメリットがある。裏を返せば、北朝鮮に挑発行為をさせているのは中国だ、と言ってもよい。中国は間接的な共謀者なのである。それではいかなるメリットがあるのか。
日本を追い越してGDP(国内総生産)2位になった経済力と13億の人口を有する軍事大国の中国には、米国以外に対抗できる国はなくなった。その米国ですら、モノの 輸入と米国債の販売相手として中国に頭が上がらない。レアアース(希士類)の輸出制限を加えたり、先のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)でホスト国の日本に来てまでも、たった22分間しか会って やらぬ、と言わんばかりのムッとした態度の胡錦濤国家主席の中国は、その気になれば、金政権を崩壊させるこどなど朝飯前である。
 北朝鮮を暴れさせることで日、米、韓は無駄なエネルギーを費やさざるを得なくなる。それが間接的に中国を利しているのである。日本外交にとって対北朝鮮戦略の選択肢は極めて少ない。まず日米韓が、北朝鮮の背後に居る中国と渡り合うために結束を強めることだ。場合によっては中国との経済的結びつきより、国益を優先した外交的決断も必要となるであるう。菅政権の尖閣諸島問題で見せた弱腰外交で日本の国の威信は地に落ちた。さらにもう一つ。北朝鮮に節度ある行動をとらせなければ、中国白身が共謀者として世界から非難を浴びせられる、と中国に自覚させる必要がある。』
 
以上である