民主党2010参議院選の総括その2

これじゃあ、勝てる選挙も勝てないのだ。
 恐らく、今後、菅の小沢切りは問題になる。なぜ、こんなバカをやったのか。小沢批判に血道を上げるメディアにおもねり、気取りを狙った側面もあるだろうし、一説には財務相時代に「小沢が次は脱税でやられる」みたいな怪情報をかがされたのではないか、と言う人もいる。真偽のほどは分からないが、菅は浅はかの一語である。
 今回獲得した「44」という議席数は、民主党にとって酷な数字だ。与党の議席数は、非改選と合わせても110議席過半数の122議席に「12」も足りない。
 惨敗したのだから政権運営に苦労するのは当然としても、10人当選で11議席となったみんなの党を取り込んでも参院を押さえられない。
 過半数の確保には、さらに別の党を抱き込むか、自民党にでも手を突っ込んでハグレガラスを引っこ抜くか……。いずれにしても、二の矢三の矢をつぐ必要がある。
 政治評論家の浅川博忠氏が言う。
渡辺喜美代表に行政改革や公務員改革を担当する大臣ポストを与え、みんなの党を抱き込んでも、与党はギリギリで半数です。最終的に公明党の閣外協力を取り付けることになるでしょう。もうひとつ考えられるのが、民主党自民党に抱きつく連立です。例えば菅代表は、2000年の加藤の乱のとき、自民党加藤紘一元幹事長を支援して倒閣に動いていた。彼を窓口にするパターンが想定されます。確かに、いまの加藤さんは党内に仲間が少ない。しかし、与党なら大臣になってもおかしくない中堅議員とか、野党暮らしにシビレを切らした議員とかが行動を共にする可能性はある。自民党は股裂き状態になり、分裂含みの展開になります」
 民主党だって、そのままではいられない。
 小沢前幹事長は3年前に森喜朗元首相と一度は大連立で合意した。たちあがれ日本与謝野馨共同代表とも近い。自民党には菅を「左翼」と決めつけている連中も多いし、小沢が100人を超えるシンパを引き連れて党を割れば、喜んで連携するのも出てくる。
 反小沢と親小沢。政界は再び小沢を軸にして再編に向かう公算が大きいのだ。
 参院選の結果を受けて、政府与党は法案を審議する本格的な臨時国会を9月以降に召集する予定だ。
衆院の3分の2」という切り札を持っていない菅首相は、衆参のねじれに直面してもだえ苦しむことになるが、現実には、その前からドタバタの連続となる。
「与党は今月30日から数日間だけ臨時国会を召集し、新議長を選出する予定です。慣例では第1党の議長候補を全会一致で選ぶことになっているが、今回、野党は共闘で議長ポストを取りにいくと息巻いている。そんなことをやられた上に議院運営委員長まで押さえられたら、民主党は完全に主導権を握られる。菅内閣は立ち往生です」(政界事情通)
 今月中ともいわれている検察審査会の2度目の議決も波乱の要素だ。強制起訴を免れてセーフとなれば、“一兵卒”の小沢が動き出す。封印を解かれた党内最大の実力者は、あの手この手で執行部を揺さぶるだろう。
 米軍普天間基地の移設問題も再燃する。日米合意の履行には、8月末までに辺野古崎の滑走路の工法を決めなければならない。大マスコミは間違いなくワーワー騒ぐ。
 少しでも舵取りを誤れば、バッシングの嵐に叩きのめされた鳩山政権の二の舞いである。
 菅首相が目指す第3の道とか消費税増税社会保障の見直しは、方向性を打ち出すのすら難しい。連立相手が決まらない段階ではすべてが手探り。所信表明演説に何をどう盛り込むか判断するのも困難な状況である。
菅首相はねじれを回避して国会に臨みたいでしょうが、その前に多元連立方程式を解かなければならない。それができなければ、政策も打ち出せません。タフで面倒な作業が待っています」(浅川博忠氏=前出)
 参院選の惨敗で思い出されるのが安倍首相だ。責任論をはねのけて居座ったものの、臨時国会所信表明演説の2日後に政権を放り出した。草の根の市民運動家も、神経が細かいボンボンと同じ運命かもしれない。
 無事、国会までたどり着いたとしても、混乱は続く。菅政権は奈落の底に向かって突き進むことになる。
 何よりも、野党に議長ポストを奪われたら、民主党の国会運営は立ち行かなくなる。「政治とカネ」の問題で証人喚問だってあり得るし、問責決議案を連発されるかもしれない。
 現在、民主党は議長だけでなく議院運営委員長や予算委員長も握っているが、委員長ポストを持っていかれたら、民主党ペースでの国会運営は難しくなる。強行採決なんてハナからできないが、十分に時間を割いて結論が出ていても、質疑応答に形を借りた政権批判に延々とさらされる局面も出てくる。最初に血祭りに上げられるのが郵政法案だ。民主党国民新党臨時国会での成立を約束しているが、数の上ではムリになった。これに反発して国民新党まで騒ぎ出せば、社民党に潰された鳩山政権そっくりになる。
 安倍、福田、麻生という自民党末期トリオも、衆参のねじれで国会運営が立ち往生し、にっちもさっちもいかなくなった。ただ、当時はまだ衆院で3分の2を握っていたからいい。参院から差し戻されても、衆院で再可決する道があった。3分の2を押さえていない菅民主党の現状は、さらに険しい。政治ジャーナリストの泉宏氏も、こう言う。
「菅政権はもはや八方ふさがり。出口が見えません。選挙期間中に枝野幹事長がみんなの党などに秋波を送ったことも致命傷です。あんな形で連立を持ちかけられたら、突っぱねるしかない。窓口が枝野幹事長である限り、どこも組もうとはしません。民主党は四分五裂。瓦解していくしかないでしょう」
 臨時国会をなんとか乗り切れたとしても、来年の通常国会で予算が組めなければ、即アウトだ。来年は統一地方選もある。「これじゃ戦えない」という声が大きくなれば党内はグチャグチャ。なにしろ組む相手もいないのだ。民主党政権は夏の夜の夢で終わりかねない。
 今、永田町の注目は小沢一郎が今後、どう出るのか、という一点だ。選挙後、雲隠れしている小沢は一切のコメントを出していない。しかし、小沢周辺議員は騒ぎ出している。
 高嶋良充参院幹事長は「落選議員を含めて意見を聞き、総括しないといけない」と言い、執行部のつるし上げを狙う姿勢をあからさまにした。
 小沢側近のひとりは、「参院選敗北の責任は首相にある。代表選には誰か立てないといけない」と言い、公然と菅降ろしにノロシを上げた。
 こうした党内の不満を封じ込めるために菅執行部はシャカリキだ。とりあえず、代表選まで現行体制を維持する方針を表明。時間稼ぎをして、ガス抜きを狙っている。しかし、それも代表選まで。その後の政局は波乱含みだ。小沢は何を考えているのか。
「今後の政局の中で自分が主導権を握るためにはどうしたらいいのか。おそらく、考えを巡らせていると思います。ねじれを受けて、まず、菅執行部がどうするのか。小沢サイドと和解するのか、脱小沢を貫くのか。検察審査会の結論も影響する。それを待って人事や責任問題を考えようとしている菅執行部に小沢サイドはイラ立っています。審査会の結論や菅執行部の出方次第では小沢グループは動く。当然、政界再編をにらんだ仕掛けを考えているはずです」(小沢に近い議員)
 永田町には、こうした政局の絵図を描ける政治家が目下のところ、小沢しかいない。だからこそ、畏怖され、警戒され、小沢像が肥大化するのである。政界をかき回し続ける小沢は悪魔なのか、魔物なのか。いつも、こんなふうに見られてしまう。
「小沢を悪魔にしているのは周囲だと思いますよ。これほど有能な男はいないのに、周囲が勝手に畏怖し、恐れる。だから、反小沢や脱小沢みたいな議論が出てくる。松下政経塾上がりの頭でっかちの若い議員には小沢の実力が煙たいのです。それが小沢排除というとんでもない議論を生み、党内の亀裂を深め、選挙に負けた。角福戦争だって終わればノーサイドで協力したのに、民主党は幼い。こうした考え方が小沢を悪魔化しているのです」(政治ジャーナリスト・野上忠興氏)
 むしろ魔物の小沢を積極的に取り込まない限り、追い詰められた民主党に明日はない。菅が小沢排除に動けば、小沢の悪魔の側面を思い知らされることになる。