今度の参議院選を見て感じた元東大学長の佐々木毅さんの記事があったので紹介したい

 令和最初の国政選挙である参院選はほぼ予想された通りの結果に終わったと言っても過言ではないであろう。自民、公明両党が過半数を獲得するとか、立憲民主党がかなりの程度躍進するとかいったことはほぼ予想通りになった。また、改憲勢力議席が3分の2に達しないといった予想も一貫して見られた、これも予想通りになった。昨今、諸外国の選挙結果の予想が難しくなっているのと比べ、これは日本のマスメディアがなお世論をそれなりに的確に捉えているという証拠でもある。ただし、それもいつまでも続く保証はない。
 自民党参院での単独過半数を失った。この間の野党の不人気からすればもう少し議席を増やせそうに思えたが、伸びがなかった点で喜べない選挙ではなかったか。安倍政権は安定を売り物にして選挙を戦ったわけであるが、東北を中心にアベノミクスの成果に対する評価に陰りが見られ、国民の間に長期政権に対する「飽き」が広がっているのかもしれない。これはこれからの政権運営全体にとって、さらには自民党にとって結構大きな問題である。
 野党は同じような内輪での分裂と再編にエネルギーを使い果たし、国会での存在感も芳しくない中での選挙であり、―人区で2桁の議席を確保して辛うじて面目を保つたということであろう。裏返して言えば、自民党の勢いのなさに救われたということかもしれない。
 もちろん、新しい動きも出てきた。比例区で一気に220万票余りを獲得した「れいわ新選組」は最初から注目度が高かったが、予想通りの成果を上げた。今後、野党勢力の結集が話題になる度に、注目を集めることになろう。
 今度の参院選から伝わってくるのは政治全体の勢いのなさ、有権者との絆の弱体化である。何よりもそれを雄弁に物語るのが4880%という低投票率である。この政治の空洞化は今年の春の統一地方選でも明らかになった点で、中央、地方全体にわたって進行中である。もちろん、50%を割ったのは今回が初めてではないが、これまでの政治がもろくなりつつあり、従って今後、政治が激しく動く予兆として念頭に置くべきであろう。
 参院選が安倍長期政権に対する評価を意味するものであったとすれば、アベノミクスの成果を認めつつも、それが政権を大きく持ち上げ、国民の多くを巻き込むような強力な政治的磁力を持っていないことはかなりの程度はっきりした。それというのもアベノミクスは既に実行され、当たり前のものになり、その成果もリスクもほぼ見えてきたからである。
 デフレからの脱却を図り、経済成長によって高齢社会の負担をしのごうという作戦はそれなりの合理性を持っていたが、金融政策を使い切り、財政赤字を増やして得た成果は限定的であったと言わざるを得ない。
 この間、国際経済情勢に恵まれていたにもかかわらず、消費税の引き上げのため膨大な額の経済対策を必要としているという現実は何よりも雄弁にそのことを物語っている。そして今や米中摩擦の激化など、日本経済を取り巻く環境は激変している。あらゆる政策には賞味期限という運命が待ち構えているが、そのことを垣間見させたのが今度の参院選であった。
 興味深いのは、参院選後に安倍晋三首相が真っ先に言及したのが憲法改正であったことである。参院での改憲勢力が3分の2に達しなかったことを受けて、自民党案に必ずしも固執しないことなど、従来とはやや異なるニュアンスの呼び掛けをした。憲法改正といっても内容次第で政治的意味合いは全く違う。一言で言えば、政権の命運を懸けて行う改憲なのか否かで政治の舞台は違ってくるし、総選挙との関係も微妙に絡んでくる。従って、今後の動きを見なければ着地点は見えない。
 はっきりしているのは、有権者自が当面の課題と考えているのは社会保障制度を巡る政策論議の充実と不安の払拭であり、決して憲法改正ではないということである。つまりは財政や消費税を巡る議論の
深化はもはや避けて通れないというのが世論の声であろう。(元東大学長)
 
 
これ「参議院選から見えて来たもの」と題したあるローカル紙の7月27日の朝刊記事である。
 
 
いつもそうだが、政治に対する佐々木毅元東大学長の痒いところに手の届く記事である。私はいつも思う。私もこのような記事書けるくらいになりたいものだと思ってる。でも無理だろうとも思っている(笑い)