業界の覇者から転落し、いまや“振り向けばテレ東”といわれるまでに落ち込んだフジテレビ。編成幹部の“非常事態”宣言から、「生き残れない」発言を経て、この秋の改編で打ち出された「勝負の秋、進化の秋」――。果たしてフジの思惑通りにいくものなのか、長年テレビ制作に携わったプロの目で、メディア遊民氏が読み解く。
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東京キー各局の秋改編が次々に発表されている。
中でも最も注目すべきは、フジテレビの編成改訂だろう。この10年あまりを概観すると、視聴率は05年度をピークとして、10年以上も下がり続けてきたからだ。
実は同局は昨秋の改編で、「今、フジは完全に非常事態」と発言していた。そして去年(2017年)秋・今年(18年)の春・今年の秋の3回の改編で、反転攻勢に出るとしていた。
果たしてその宣言は現実のものとなるのか。これまでの業績と、今回の改編内容から近未来を占ってみよう。
フジの業績 【グラフ(1)】
「楽しくなければテレビじゃない」。
1982年から12年連続三冠王を続けたフジの、大躍進が始まる時のスローガンだった。
さらに一時日テレに王座を奪われたが、04年からも7年連続三冠王に返り咲いていた。 つまり30年近くも首位争いを演じてきた大局だったのである。
ところがこの10年あまりは不調続きだった。
05年度の視聴率は、全日(6~24時)9.5%・G帯(19~21時)14.3%・P帯(19~23時)14.6%と、他の追随を許さないトップ局だった。ところが17年度は全日5.7%・G帯7.8%・P帯7.7%。各時間帯の減少率は、40%減・45%減・47%減と惨憺たる状況だ。半減近い下落で、同局が失った媒体力は計り知れないほど大きい。
広告収入で見ると、05年度の2966億円は、17年度に1907億円まで減っていた。3分の1の収入が吹き飛んだ計算だ。
同局の深刻さは数字だけでなく、ここまでのプロセスの中にもある。
実は04年度から7年連続三冠王の時代に、既に数字は下がり始めていた。局幹部にもその自覚はあったが、「トップのジレンマ」があり、大掛かりな改編に踏み切れず、ジリジリと数字を下げていた。
そして三冠王の座を日テレに譲った11年。首位の呪縛から解き放たれた同局は、思い切った“てこ入れ”が出来るはずだった。
ところが12年以降の下落幅は、積極的に対策を打たなかった時以上に大きくなってしまった。つまり改善策が裏目に出ていたのである。
30年近い“わが世の春”の間に、はっきり言って勝ち方がわからなくなっていたのである。
非常事態宣言
どろ船状態のフジの舵取りを、去年6月に託された宮内正喜氏は、社長内定の記者会見で「現在の低迷しているフジテレビの業績を上げる、この1点に尽きる」と宣言した。また今年1月に1年の抱負を聞かれ、「4月改編、10月改編が結果を出さなくてはいけない勝負」と答えた。さらに2月の定例会見では、「4月改編が最重要な改編」と予告していた。
同局の編成幹部も、昨秋の改編で「今、フジは完全に非常事態」としていた。その半年後の今春の改編では、「非常事態」から「変えなければ生き残れない」と、危機感は一層高まっていた。
その発言通り、今春の改編は大掛かりだった。
改編率では全日28.2%・G帯29.8%・P帯29.5%。日テレの全日3.1%・G帯0.5%・プライム9.3%、TBSの全日4.3%・G帯9.1%・P帯15.0%と比較すると、フジの“変貌率”がいかに大きかったが分かる。
象徴的だったのは、2つの長寿番組の打ち切り。
21年続いた『とんねるずのみなさんのおかげでした』と、22年続いた『めちゃ×2イケてる!』を斬り捨てた。他にも『おじゃMAP!!』や『良かれと思って!』など、看板バラエティが消えていった。
秋改編の概要
そして宮内社長が「結果を出さなくてはいけない勝負」と明言した、最後の改編となる10月改編。
改編率は全日5.8%、G帯23.1%、P帯24.5%。今春の「史上最大の改編」に次ぐ規模となった。改編発表の席上、編成幹部は「フジテレビの顔になる看板番組を育てないといけない」「いろいろな層に見られる番組を作りたい」と説明した。
今回のテーマは「勝負の秋、進化の秋」。
今春の「変わる、フジ 変える、テレビ」から、いよいよ大詰め感が出てきた。
具体的には、月曜夜10時の『世界の村のどエライさん』、金曜夜7時の『モノシリーのとっておき』、土曜夜7時の『さまぁ~ずの神ギ問』、土曜夜8時の『世界! 極タウンに住んでみる』が終了する。
弱点だった週末を補強し、“家族全員で見てもらえる”ヒット番組の開発を目指すとしている。
■成功の可能性は・・・? 【グラフ(2)&(3)】
では3回の改編で、フジは非常事態を突破できるだろうか。
結論から言えば、五分五分と言ったところだ。
四半期ごとのP帯視聴率をトレースしてみよう。
2013年から2017年上半期まで、視聴率は激しく下がり続けていた。ところが去年の秋改編後、下落幅は縮小し始めた。そして今春の改編後の4~6月期、微小ではあるが上昇に転じている。下げ止まり感が出てきており、過去2回の改編はホップ・ステップと見ることも出来る。
最大の要因は、ドラマが改善し始めた点。
看板の月9が去年夏の『コード・ブルー』を例外に、右肩下がり傾向が続いていた。他2枠も緩やかな下り坂を進んでいた。ところが今年4月クールから、明らかに反転し始めている。夏クールでは、2枠が二桁に乗せる勢いとなっている。
ただし成功率“五分五分”と言ったのは、バラエティに明確なプラス材料が出ていない点だ。
P帯は一週間で28時間。フジはその8割ほどをバラエティとしている。つまりバラエティが強くならないと、面としての編成は数字が上がってこない。
ここ数年、フジは様々な新番組を繰り出してきた。ところが同ジャンル週間ベスト10に入ってくるような強力な番組は、今のところ1つも誕生していない。
今回の改編でも、バラエティ4番組を終了させ、新番組を投入する方針だ。
ところが改編発表の席上では、3番組しか発表しなかった。番宣効果も含めると、この席上で伏せておく意味は全くない。新番組の決定が難航している可能性もある。
最も比重の大きなバラエティが、残念ながらはっきりしない。これでは“非常事態の突破”確実とは簡単には言えない。
同局は5月の決算発表で、広告収入は2018年度もマイナス3%ほどと予想した。厳しい状況はまだ続くと見ている一面もありそうだ。
今や“振り向けばテレ東”状態の同局が、かつての栄光を取り戻せるか否か。奮起を期待したい。
メディア遊民(めでぃあゆうみん)
メディアアナリスト。テレビ局で長年番組制作や経営戦略などに携わった後、独立して“テレビ×デジタル”の分野でコンサルティングなどを行っている。群れるのを嫌い、座右の銘は「Independent」。番組愛は人一倍強いが、既得権益にしがみつく姿勢は嫌い。
週刊新潮WEB取材班
2018年9月9日掲載 新潮社
>かつての栄光を取り戻せるか否か
取り戻せる訳ないでしょう。
何故なら無知な若者をターゲットにしたエンタに傾斜した芸能テレビ社となってしまったからだ。少なくとも識者にソッポ向かれたテレビ局なんざ生きる道等無いからだ。唯一つ道がない訳でない。それは共に歩んで来たお笑いのエンタの神様、よしもとグループの本元吉本興業に買ってもらった方が一番良いと思う。そうなれば真の民間企業の精神が埋め込まれるからだ。今のままではいづれジリ貧だ。私的にはこんなテレビ会社なくなってもらった方がと思っている。
一大事件や未曽有の災害が起きてる最中(さなか)でも、他社が一斉にその放送中にでも平気でエンタティメント放送に固執するテレビ会社なんぞいらない。こんなの潰れた方がまだマシだ!!