朝日新聞が2日付けで「特ダネ」として報じた学校法人「森友学園」への国有地売却に関する近畿財務局の決裁文書の「書き換え疑惑」で、週明けの5日以降の国会審議は大荒れとなった。「疑惑」を政府や財務省当局が明確に否定できないからだ。
当事者の財務省近畿財務局は5日の野党側の現地調査にも文書開示を拒否し、国会での追及には首相が「私のあずかり知らない話」と開き直り、麻生太郎財務相や財務省当局は「捜査が終わらないと、きちんと調査できない」と、森友問題に関する大阪地検の捜査を優先する方針を繰り返す。
ただ、同地検の捜査終了時期は不明で、政府の露骨な時間稼ぎの答弁に野党は反発し、与党もいらだちを隠さない。野党側の「事実なら内閣総辞職もの」との追及に、首相は「答える立場にない」と開き直るが、いずれは当該文書の存否も含めた事実関係を明らかにせざるをえず、「1強政権を崩壊させかねない時限爆弾」(自民幹部)となる可能性も否定できない。
国会への調査報告を迫られた財務省だが、6日午前の参院予算委員会理事会では、富山一成理財局次長が「告発を受けた捜査の対象となっており、すべての文書を直ちに確認できない状況」として書き換え文書の存否すら明らかにしなかった。このため野党は「ゼロ回答以前で論外」と猛反発、同日の予算委審議をボイコットし、7日も国会空転が続いた。
立憲民主党、希望の党など野党6党は6日、国会法などを根拠に問題文書の提出を強く要求したが、自民党側は「提出すれば捜査に影響を与える」(森山裕国対委員長)と、財務省と同様の理由で拒否した。このため、その後の自民、民進両党の参院国対委員長会談で民進側は「予算審議などには応じられない」と審議拒否を通告した。
■二階氏「理解できない」、小泉氏「次元が違う」
疑惑が浮上してからの政府側の対応については、自民党内からも不満が相次いだ。国会運営の司令塔の二階俊博幹事長は6日、「どういう理由で資料を出せないのか理解できない。明らかにしないと国会が進まない」と厳しい口調で批判した。国民的人気者の小泉進次郎筆頭副幹事長も党会合で「(これまでの森友問題とは)次元が違う話だ」と語るなど、党内には動揺が広がった
こうした混乱拡大に与党の自民、公明両党幹事長は7日、財務省に対し速やかな調査結果を求める方針を決め、参院の両党国対委員長と民進党の国対委員長の協議で8日朝の参院予算委理事会に財務省が決裁文書のコピーを出すことで合意した。政府・与党の軌道修正で国会はとりあえず正常化の方向となったが、8日に出される文書のコピーの内容や書き換えの有無に関する財務省の説明が、逆に火種の拡大につながる可能性もあるだけに、今後の展開は予断を許さない。
朝日新聞が報じた疑惑は、森友学園への国有地売却の契約に関する近畿財務局の決裁文書と、財務省が森友問題発覚後に国会に開示した決裁文書が一部で異なっている、というもの。具体的には、近畿財務局が2015~2016年に森友学園と国有地の取引をした際、同局の管財部門が決裁を受けるために作った文書に関し、交渉経緯や取引の内容などに関する部分が「事後に改ざん」された可能性がある、との指摘だ。
朝日の報道の根拠は、(1)決裁文書を確認した結果、契約当時の文書と昨年財務省が国会に開示した文書は、起案日、決裁完了日、番号が同じで、決裁印もある、(2)しかし、契約当時の文書にある森友学園との時系列のやりとりや、同学園の要求への対応を詳述した部分が、開示文書では項目ごとなくなったり、一部が消えている、ということ。
森友学園問題は、昨年2月、朝日新聞が「国有地が不当な大幅値引きで同学園に売却された疑惑がある」と報道したのがきっかけ。国会での野党の追及に対し、財務省当局は「法令に則った適正な取引」(当時の佐川理財局長)などと疑惑を否定する答弁を繰り返したが、その後、交渉の部分的な録音記録が判明したことなどから、国会では佐川氏の「虚偽答弁」疑惑の追及が続いてきた。併せて、一連の問題をめぐっては、大阪地検特捜部が財務省当局に対する背任容疑の告発を受理し、昨年9月から関係者への任意の事情聴取などを進めてきた経緯がある。
■「確認」との朝日報道に他紙は慎重だが
そうした中、永田町関係者が注目するのは「朝日報道」の信ぴょう性だ。同報道では当該文書について「入手した」とは書かず、「確認した」との表現にとどめている。この点については自民党内でも「ブツ(原本のコピーなど)はなく、提供者に見せてもらっただけでは」との見方も浮上している。これだけ重大な疑惑にもかかわらず、他メディアはそろって後追いもせず、事実関係についても「朝日新聞によると…」という慎重な対応だからだ。
しかし、朝日新聞は一貫して森友問題での疑惑報道の先頭に立ち、一連の経過の中で判明した報道内容での事実関係の誤りについては、国会などで首相から「朝日は事実でない報道をした」と繰り返し批判された経緯もある。このため、関係者の間では「確実な裏付けがなければ報道するはずがない」(大手紙幹部)との声も多く、永田町では「朝日新聞が潰れるか、安倍政権と財務省が共倒れになるか、という究極の戦い」(閣僚経験者)という見方も広がる。
もちろん、財務省が部分的なミスを認めた場合でも「首相の責任論に直結するわけではない」(政府筋)のが実情だ。太田充財務省理財局長が国会で、当該文書決裁の責任者が近畿財務局の管財部次長だと答弁したことで「財務省はトカゲのしっぽ切りで逃げるつもりだ」(民進党)との観測も広がる。ただ、財務省が朝日報道の一部でも認めた場合、「担当者の処分だけでは済まない」(立憲民主党)のも間違いない。疑惑が浮上して以来の財務省の説明は二転三転しており、「もし事実なら由々しき事態」と繰り返してきた麻生財務相も責任を問われ、安倍政権への大打撃となる事態が想定される。
いずれにしても、8日に財務省が提出する森友関連決裁文書のコピーや説明内容次第で、その後の展開が変わってくる。ただ、財務省は7日の野党のヒアリングに対し、8日提出予定のコピーの内容は「国会に提出済みのものと同じ」と説明しており、それでは疑惑払拭につながりそうもない。その場合、野党側は「またもゼロ回答」と反発し、国会審議も混乱が続く可能性が大きい。
首相は7日夜、赤坂の料理屋に二階氏を招き、食事をともにしながら約2時間にわたり会談した。内容は明らかにされていないが、関係者によると決裁文書の「書き換え」疑惑への対応も含め、9月の総裁選までの政権運営について突っ込んだ話し合いがあったとみられている。
首相にとって2日の朝日報道からの国会混乱は「想定外の事態」(側近)だったとされる。しかし首相は、政権幹部らとの鳩首協議などは避け、3日の土曜日午後は行きつけの都内のホテルのジムで長時間を過ごした。さらに4日の日曜日は自宅近くの代々木公園をゆっくり散歩し、咲き誇る紅梅の写真をインターネットに投稿することなどで、余裕の表情をアピールした。
その一方で、事態が一段と深刻化した6日には、平昌五輪から続く韓国と北朝鮮の「融和外交」の成果として、両国が4月末の南北首脳会談開催で合意するという「国際的ビッグニュース」が伝えられ、各メディアの「書き換え疑惑」についての報道が片隅に押しやられるという「首相にとっての幸運」(自民幹部)もあった。
■まだ読めない「6カ月後」の総裁3選
ただ、首相にとっても「事態の早期収拾による政権危機の回避」(政府筋)は簡単ではない。森友問題の捜査が続く限り、昭恵夫人の国会招致の問題も含めた国会での野党の攻撃は続き、「少しでも対応を誤れば、働き方改革関連法案の今国会成立も危うくなり、首相の自民党総裁3選にも黄信号が灯る」(自民長老)ことにもなりかねない。
永田町には「政界一寸先は闇」との格言がある。一昔前の自民党実力者の中で「稀代の寝業師」と呼ばれた故川島正二郎元副総裁の言葉で、同氏自身が知人に「一寸先も読めないような人物は政治家ではなく、少なくとも6カ月先まで読めなければ政治家とはいえない」と解説したとされる。現時点で首相が3選を目指す自民総裁選はちょうど6カ月後となる。故川島氏が指摘したように、首相にとって「まず『一寸先の闇』を乗り越えないと、6カ月後まで読むことはできない」(自民幹部)というのが実情で、今後の国会運営の不透明な状況が続くことは間違いなさそうだ。
正にこの記事を読む限り、安倍首相の危機感の意識は薄い!まるで「他人事」を聞いてるようだ。国の長として、そしてこの不祥事を起こしたある意味当事者として、主体性を持って主導して事実解明をしない限り、収束はしないだろう。ここでそれをやらない限り、身内である自民党議員による総裁三選は難しいと思われると同時に安倍1強と言う神話が永久に語り継がれる事はないだろう。