北京五輪のマスコット「ビンドゥンドゥン」を頭上にかざした坂本花織(21歳、シスメックス)は、満面の笑みを浮かべた。フィギュアスケート女子シングルで、日本人選手として12年ぶりのメダルを獲得し会見に臨んだ姿は、拝みたくなるほどの幸福感に満ちていた。何かをやり遂げた人間だけができる表情で、一点の曇りもなかった。
「本当に今日までよく頑張った、と自分でも思います」
朗らかな彼女が言うと、いやらしさがないから不思議である。おそらく、少しの飾り気も邪気もないからだろう。本当によく頑張ったんだろうな、と共感を覚えるのだ。
もっとも、何も考えずに試練も受けず、五輪で銅メダルを勝ち獲れるはずはない。
■苦戦から始まった今季
開幕前、フィギュア女子のメダル争いは「ロシア勢の無敵ぶり」に焦点が当たっていた。ROC(ロシア・オリンピック委員会)の代表になったカミラ・ワリエワ、アンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トゥルソワの3人は、国内のし烈な競争を勝ち上がった。
他にも、元世界王者エリザベータ・トゥクタミシェワ、2019年グランプリ(GP)ファイナル優勝のアリョーナ・コストルナヤ、今シーズンGPファイナル進出(コロナ禍で中止)のマイア・フロミフは、3人と比べても遜色がない。4回転、もしくはトリプルアクセルという大技を予定構成に入れ、基礎点で各国選手を引き離していた。
「ROCが表彰台を独占する」
それが下馬評だった。
2月17日、フリー演技の坂本。銅メダルを勝ち獲った
坂本のメダルの勝算が高かったとは言えない。NHK杯で優勝し、GPファイナルにロシア勢以外で唯一、出場した点で「伏兵」ではあったが、4回転もトリプルアクセルもなく、分は悪かった。メダル争いを考えたら、わずかなミスが命取りで、向こうはジャンプ1、2本転倒したとしても、十分に立ち直ることができた。
しかも今シーズンの前半戦、坂本は苦しんでいた。
昨シーズンまでのフリースケーティングは、映画『マトリックス』のプログラムで、豪快で軽快な滑りを見せ、彼女らしさが全開だった。今季新たに採用した『No More Fight Left In Me/Tris』は「女性の闘争、自由、解放」が根底にあり、テーマとして簡単ではない。本質にたどり着くには時間を要し、天真爛漫な彼女に合うのか、という疑念もあった。
昨年10月、近畿選手権では底をついていた。
「これ以上ないくらいにボロボロでした。まだ練習をしきれていないので難しいですね。完璧にやり込まないといけないんですが。(プログラムの)ストーリー的には難しいところもあって。まとめて言うと"大人の女性"を表現することで、解放、自由、そのうれしさなんですが。まだ理解しきれず、やり込めていないのが、(不振の)一番の原因で」
大会後に彼女は語っていたが、だからこそあえて連戦に挑んでいた。昨年8月のげんさんサマーカップを皮切りに、誰よりも試合のリンクに立ってきたのだ。
「連戦で試合の緊張感に慣れてくる、というのもあるかもしれません。微妙に試合の間隔が空くよりは続けてやろう、と。連戦のほうが、自分にはいいかなって。疲れは取りきれないですし、10代の機敏さはどこにいったんやって思いますけど」
そう言って笑った坂本は、もどかしさを感じながらも前に進むことをやめなかった。
■平昌五輪後「4年後はいける」
何より、坂本は彼女だけの勝算があって、五輪に挑んでいた。前回、2018年平昌五輪では6位。その経験こそが、ひとつの根拠となっていたのだ。
「リンクはどこも一緒なのに、勝手に"オリンピックだから、全然違うリンク"って考えすぎちゃったのかもしれません。緊張しすぎて、体(の動き)が狂い始めて、正気じゃなかった、と思うので。あらためて考えたら、よう頑張ったなって(笑)」
昨年のインタビュー、坂本はそう明かしていた。五輪という舞台の緊張に縛られる。予想はしていたが、思った以上に体は硬直した。
「でも自分のなかで、平昌が終わった時に"4年後はいける"って思ったんです。オリンピックに限らず、初めての試合、たとえばジュニアGPシリーズ、世界ジュニア、(シニアの)GPシリーズとか、一発目(の試合)はその時の精一杯をやっても順位は低いんですけど。2回目って、1回目の経験が生かされるのか、自信を持って滑ることができているので」
その言葉どおり、北京五輪を戦った坂本は落ち着きを感じさせた。
まずは団体戦、女子のフリーで2位に入っている。フィギュア団体初のメダル獲得に貢献。1位のワリエワには大きな差をつけられたものの、積み上げてきたプログラムを実直に滑りきってポイントを稼いだ。
シングルでも、ショートプログラム(SP)では極度の緊張をどうにか制し、ノーミスで3位につけた。フリーでは、解き放たれたようなスケーティングで3位。トータルでも3位に入った。
SPで1位だったワリエワがフリーでことごとくジャンプを失敗し、坂本が滑り込んだようにも言われる。しかし、その解釈はまったくの的外れだろう。プログラムコンポーネンツはSP、フリー合計でシェルバコワに次ぐ2位。特にフリーのスケーティングスキルは9.46点でトップだった。ジャンプ時代への転換に反逆するかのごとき、雄大で疾走感のあるスケートで、堂々のメダルだ。
「(メダルは)ビックリでした」
坂本は言ったが、必然の勝利だったとも言えるかもしれない。高めてきたスケーティング技術は、五輪という「魔物がすむ」とも言われる舞台で、むしろ輝きを増していた。SPが79.84点、フリーが153.29点、どちらも自己ベストを記録しているのだ。
〈2度目は強くなる〉
五輪の女神を味方につけた面目躍如だった。
これ『坂本花織「2度目の大会は自信がある」。北京五輪前に語っていた勝算と下馬評を覆した』と題したSportivaでの小宮良之と言う方の記事である。
本当に彼女は凄いと思う。
だが私はどうしてもあの顔が好きになれない!
風貌を批判するのは決してやってはいけない事なのは重々承知はしてるのだが、やはりこれは理屈ではないのである。人間本来の本能と言うか、我儘なのである。
坂本さん申し訳ありません!