「アベノミクス」は崩壊した(その1)

 日本中、「アベノミクス」に沸いています。内閣支持率は上昇中、株価は上がり、円相場は下がり、まさに日本経済の復活のための条件が一つ一つ実現されつつあるようです。
  景況感は好転して今までの閉塞感から脱してついに日本は復活の狼煙(のろし)を上げるのでしょうか?
  「アベノミクス」とは何でしょうか? その効果や問題点を検証してみましょう。
アベノミクス」とは?
  「アベノミクス」は三本の矢でできています。金融政策、財政政策、成長戦略です。
  経済を良くするためには、この三つが揃わなければ健全な成長はなく、道理にあった政策のように思えます。
  「次元の違う政策」を行うわけですから、今までの政策とはどこがどのように違い、どんな劇的な効果が見込めるのでしょうか?
  第一の金融政策についてですが、大胆な金融緩和を日銀に強要するということで、ついには日銀も政治側の要請に折れ、インフレ目標2%ということを決めました。まず物価が上がるということはどういうことでしょうか? 1月25日に総務省が2012年度の消費者物価の上昇率を発表しましたが、前年比0.1%のマイナスで、4年連続下落という事でした。相変わらず物価下落が続いているということで、日本はデフレ状態です。
  物価を上げる目的は、インフレムードを作り出し、ひいては人々が消費するようになり、いろんな物が売れるようになり、企業の売上が上がり、その結果、人々の賃金も上がり、この好循環を引き起こすことによって経済を活性化させようということです。では具体的にどのような物が上がってくるのでしょうか?
  消費者物価指数の上昇率を品目別にみると、1年前と比べてテレビは4%の下落、電気冷蔵庫は29%の下落、ノート型パソコンは16%も下落しました。値段の推移という面で考えてみると、これら耐久消費財は日本国内の政策によって値段が決まるものではありません。世界的に激しい競争になっていますので、実はこれら耐久消費財は世界何処の国でも値段は下がっています。日米欧、また新興国でも一緒で値段が下がるデフレ状況です。
  品目別にみると、上がっているのは電気代とかガス代です。電気代は6%、ガス代は4%値上がりしています。これらエネルギー価格や公共料金の価格が上昇することで、消費者物価全体としてみると、若干のマイナスとなって、総合的には日本はデフレ状態というわけです。
インフレにするための具体的手段とは
  世界各国が日本と違ってインフレ状態になっているということは、よく分析してみるとこの公共料金とか食料品とかエネルギー価格など生活必需品が高くなっているわけです。
  例えば米国では、消費者物価は過去10年間、日本と違ってプラスですが、特に日本と違うのはガソリン価格とか医療費とか食料品の代金です。
  2002年1月を100として2012年10月の日米の消費者物価を品目別に比較しますと、テレビ、パソコンなどの耐久消費財は日米ともほとんど変わりません。
  一方で、食料品は日本の102に対して米国は133、公共料金は日本の100に対して米国は131、電気料金は日本の105に対して米国は146、医療サービスは日本の99に対して米国は149、更にガソリン代は日本の145に対して米国は332となっています。
  先に指摘したように、テレビやパソコンなどの耐久消費財は、日本独自の政策で引き上げることができないので、具体的には、これら食料品や公共料金、電気料金や医療サービス、ガソリン代などの生活必需品の値段を引き上げる政策を行うようにするわけです。でなければ消費者物価指数は上がりませんし、安倍政権の掲げるインフレ目標は達成できません。
  早晩、今回のインフレ政策によって円安に振れてきましたので、これらの値段が当然目に見えて上がってくることでしょう。すでに灯油は1ヵ月前に比べて7-12%上昇してきました。そして好循環が始まって給料が上がって来ればいいですが、残念ながらそれまでには時間がかかりますし、事によっては全く上がらないということもあります。
  というのも企業側は今までのデフレ状態と業績悪化に懲りていますから、例え1年か2年くらい業績が上がったからといっても、即座に賃金を上げるという決断はできないでしょう。
  現に、経団連は従業員に対しての今年の定期昇給を拒否し賃金上昇を否定しています。
  ということはまず、国民は諸物価の上昇を受け入れて、景気の本格的な回復を信じて物価上昇に耐えなくてはなりません。
財政政策のための公共投資の効果は……
  次の二本目の矢である財政政策を見てみましょう。財政政策といっても、過去と同じように公共投資をするわけです。これが日本に財政的な余裕があればいいですが、お金がないので借金して公共投資を行うことになります。補正予算を13兆円組みましたので7兆円近く借金して、今年度の国債発行額が当初の44兆円から52兆円に拡大しました。
  ちなみに、日本の今年度の税収は43兆円です。この借金しての公共投資なのですが、これは確実に経済成長を引き上げます。
  当たり前のことで、国のGDPの内訳は、個人消費、輸出、設備投資、公共投資となりますので、この公共投資を行えば確実に成長率が上がるのです。
  問題は費用対効果ということになります。かつては日本は高度経済成長の過程にあり、道路や鉄道を作る公共投資は経済成長を加速するための役に立ちました。東海道新幹線首都高速道路や各幹線道路など、日本の重要なインフラであって、これらの公共投資は日本経済を活性化させる大きな礎となりました。そしてこれらのインフラ投資は、経済成長していくことで、建設費用も返すことができました。
  ところがバブル崩壊後、全国規模で公共投資を山のように行ったのですが、結果として借金は膨大に膨らんだのですが、景気は良くなることはありませんでした。
  そして今、借金だらけになって公共投資も無駄を省かなければならないのですが、現実には、不必要な投資に再び資金が投入されようとしています。また、必要な投資であっても従来のように経済の活性化に爆発的に役立つものでもありません。
  例えば1昨年の東日本大震災の例をみればわかるように、日本にはもっと津波に耐えるような堤防なり防波堤なりが必要です。また先のトンネル事故にみるように、老朽化したインフラを整備し直す必要があります。しかしこれらの投資をしたとしても過去のような爆発的な需要を生み出す力になるわけではありません。
  堤防や防波堤ができれば理想ではありますが、それが東海道新幹線首都高速道路などのような大きな経済活性化をもたらすとは言えません。また老朽化したトンネルや橋を直すことは急務ですが、これをやっても、今の状態を維持するだけで、新しく経済的な需要は生み出せません。明らかに高度成長の時代と違って、公共投資の国民経済的な価値は落ちてきていると言えるでしょう。必要なことはわかりきっていますが、金がないという切実な問題があるのです。
 
 その2に続く