安倍政権の今後を見た佐々木毅元東大学長の記事をあるローカル紙で見たので紹介したい! 

コロナ禍の真っ最中にもかかわらず、政府、与党は会期を延長することなく通常国会を閉じた。確かに2次補正予算まで成立させ、この辺で一息つきたいという気持ちも分からないわけではない。実際、今度の国会では内閣のもくろみが修正を余儀なくされ、与党にとって楽な国会ではなかった。そして最後の最後になって、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画断念を河野太郎防衛相が自ら明らかにするに至った。何事につけ、計画を見直すことがいけないわけではない。しかし同時に、そこには政権の求心力の衰えとでも言うべき現象が見え隠れしたように思われる。
 安倍内閣の支持率は実際、コロナ禍を挟んで大きく下落した。共同通信の最近の世論調査によれば、支持が36・7%であるのに対して不支持は49・7%であった。これは加計学園問題が世間を騒がせた頃以来の支持率の低下である。安倍政権のコロナ対策については一般的に「遅かった」という批判が多く、PCR検査実施件数がなかなか増えない問題に対する有効な方策の欠如、給付金や助成金が届くまでに多くの時間かかかることへの不満などが影響したと考えられる。
 安倍晋三首相は先の記者会見で、自粛に軸足を置いた「日本モデル」の成果を強調した。これは裏を返せば、政府の施策の効果はつつましいものでしかなかったことを認めたに等しい。
 コロナ感染の本格的な第2波到来を前に政府、与党は大問題に直面している。周知のように、来年秋には安倍首相の自民党総裁任期が終わり、その後間もなく衆院議員の任期も満了となる。従って、新総裁の選出と総選挙の時期を巡って複雑な駆け引きが始まったのである。
 まず今年の秋には、安倍首相が内閣改造と党役員人事に着手するとみられており、それに引き続いて臨時国会を開いて衆院を解散するというスケジュールが考えられる。同じ秋には重要案件として来夏の東京五輪パラリンピックの開催可否問題と米大統領選も控えているため、それ以前に総選挙を済ませるという策である。もう一つの解散スケジュール案は来年の通常国会冒頭での解散である。さらに来年秋の衆院議員任期満了が迫っての解散総選挙、いわゆる「追い込まれ解散」も考えられる。
 問題は誰の手で解散総選挙を行うかである。それは一方では安倍政権の持続力、他方では後継者レースの動向によって左右される。前者はこれからの支持率の動きが鍵になるが、それもこれも、これからのコロナ禍の行方次第である。
 支持率の動向で注目すべきは内閣支持率が30%台を維持できるかどうか、内閣支持率自民党支持率のどちらが高いかである。内閣支持率自民党支持率を下回るようだと、自民党内から内閣交代への動きが出やすくなる。他方、後継者レースの方は全く混沌としており、決め手に欠ける。これでは安倍内閣の支持率が仮に相当に低下しても、「代わる人がいない」という状態が続きかねない。そうなれば危機的である。
 国際通貨基金IMF)は先日、世界経済の見通しの修正を発表した。今年の日本の成長率をマイナス5・8%と予測しており、リーマンショックの時よりも落ち込みが大きい。米国は74年ぶり、英国は311年ぶりの大きな落ち込みというように、どこも大きな下押し圧力にさらされている。
 第2次安倍政権はこれまで、思い切った金融緩和と機動的な財政出動によって経済的な満足感を作り出してきたが、このコロナショックによってその貯金を使い果たすことになろう。一言で言えば、これまでの政策の前提が崩壊したのであって、もし世界規模で感染の第2波が起こるならば、経済の停滞はさらに長引くことになる。従って次の総選挙は景気頼みの選挙とはならないであろうし、日本の財政のパンク状態を背景に地域間、世代間のせめぎ合いが一層厳しい選挙になるであろう。当面は、「安倍1強」のぬるま湯から飛び出して厳しい課題にゼロから挑戦する政治家が自民党内から出現するかどうかに着目したい。
  (元東大学長)


これ「安倍政権と総選挙」と題した佐々木毅元東大学長があるローカル紙に寄せた6月27日の朝刊記事である