先の新紙幣発行発表は政権延命のための新元号「令和」と合わせた今夏の参議院選対策のご祝儀相場の演出を考えた話題作りに他ならない!

新紙幣の発行を受け、一部のエコノミストから16千億円前後のGDP押し上げ効果があるとの試算が提示されました。これはまったくのナンセンスです。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
 
本来は「偽造対策」のはずの新紙幣発行、それがなぜ今なのか?
 
GDP押し上げの嘘
元号のご祝儀気分に便乗しようとの魂胆か、政府は2024年度から20年ぶりに新紙幣への切り替えを行う方針を示しました。
これを受けて、一部のエコノミストから16千億円前後のGDP国内総生産)押し上げ効果があるとの試算が提示されました。新紙幣の印刷に加えて、新紙幣用のATM(自動預け払い機)や自動販売機などの入れ替え需要が大きいようです。
しかし、これはまったくのナンセンスです。この紙幣切り替えは、金融機関や一部業者のコスト負担を余儀なくするだけで、日本経済には何ら付加価値をもたらしません。
 
1万円札が旧札より価値が大きくなるならともかく、図柄が変わるだけで、新旧入れ替わるだけで1万円は1万円です。ATM自動販売機も、新旧入れ替わるだけで、新たな付加価値が付くわけでもありません。
むしろ、機械の入れ替え時にサービスが停止でもすれば、マイナスの付加価値生産とさえなります。金融機関などにとっては、一部の機械メーカーと印刷関連業者に利益を奪われるだけで、「余計な事」でしかありません。これを大々的に取り上げるメディアの良識を疑います。
 
金融サービスの後退促進
おりしも、金融機関の収益は、日銀による異次元緩和の結果、利ザヤがとれず、運用が年々苦しくなり、大規模なリストラや経営統合なしでは生き残れないような危機に陥っています。
今後5年のうちに日銀が「出口」に向かい、また金利がプラスになって金融機関の収益環境が改善されれば良いですが、このままずるずると超低金利が続くと、金融機関は金融サービスの縮小を余儀なくされます。
すでにメガバンクでも有人店舗の削減を進め、預金者に不便をかけていますが、ATMの切り替えで何千億円もかけるなら、それを機にATMの削減を進める可能性があります。
つまり、新札への切り替えが金融機関の弱った収益力をさらに奪い、最後には預金者へのサービス縮小を余儀なくする面があり、国民生活の不便をもたらす施策となります
 
切り替えの必然性に疑問
その新札への切り替えも、本来的には偽札づくりのリスクが高まった時に、より偽造ができないようなハイテクを生かした紙幣に切り替えるのですが、今の紙幣には必ずしも偽札づくりのリスクが高まったわけではありません。
その点では今なぜ新札への切り替えが必要なのか、必然性はありません。
むしろ、新元号のお祝いムードに便乗した夏の選挙向けの花火打ち上げのようなもので、レガシーらしきものがない安倍政権が、躍起になって「実績作り」をしようとしているように見えます。
元号の発表でも、安倍総理が必要以上に前面に出て、メディアもこれをとりあげ、キャンペーンに協力していました。新札提案もその流れと見られます。
 
キャッシュレスとの矛盾
その政府は、一方でキャッシュレス化を進めようとしています。
いずれキャッシュレスになるなら、新札への切り替えの意味もなさそうなもので、矛盾を感じます。しかし、今の日本では、新札への抵抗よりも、キャッシュレス化への抵抗のほうが強そうで、この矛盾の向かう先は、信頼できるキャッシュをベースにした制度となりそうです。
新札への切り替えは、日本でのキャッシュレス化を考える良い機会となりました。
日本でのキャッシュレス化には、次の2点を考える必要があります。
1つは、なぜ中国や韓国に比べて、日本ではキャッシュレス化が進まないのか。第2に、それと関わりますが、現金決済とキャッシュレス化とではどちらのリスクが大きいか、という点です。
 
キャッシュレス化に無理がある
<なぜ中国や韓国に比べて、日本ではキャッシュレス化が進まないのか>
まず、中国や韓国でキャッシュレス化が急スピードで拡大したのは、その背景として、彼らは自国の紙幣に偽造・偽札リスクが大きく、信用が置けないため、これを保有せずに決済できるシステムに飛びつきました。おりしも、技術的にもスマホなどでの決済・金融サービスが可能となったために、一気にこれが加速しました。
これに対し、日本では千円や5千円はともかく、1万円札においても偽札づくりが難しくなり、他の国に比べると紙幣への信頼度が極めて高く、国民はこれを疑わず、紙幣の保持にまったく抵抗がありません。
それだけに現金決済に不自由はなく、キャッシャレス化へのインセンティブが乏しい社会と言えます。それだけ安全な国とも言え、キャッシュレス化が進まない大きな理由になっています。
<現金決済とキャッシュレス化とではどちらのリスクが大きいか>
そして第2に、信頼できる紙幣に比べ、キャッシュレス化により大きなリスク、不安を持つ人が多いことです。
確かにスマホ決済などの利便性は高まりましたが、それに応じたセキュリティの確保ができていません。先にビットコインに投資した人が、ごっそりと北朝鮮サイバー攻撃で資金を抜かれ、回収できずに大きな損失をこうむりました。ヒットコイン決済が便利でも、安全性が脅かされれば、これを使えません。
それだけでなく、個人情報、カード情報がビッグデータとして大きなビジネス・チャンスとなっていることもあり、ここへのサイバー攻撃が増えています。個人情報が抜かれることは日常茶飯事になりました。
レジットカードの番号、暗証番号が盗まれて知らぬ間に他人に使われている事件も頻発しています。
スマホも利便性を高めるほど、セキュリティが低下する面があります。カードやスマホを経由して預金が抜かれ、あるいは知らぬ間に使われているというリスクに対して、これを保証する制度も、これを防備するシステムも整備されていません。
この状態でキャッシュレス化を進めると、今までにないサイバー犯罪に巻き込まれ、財産を失うリスクが高まります。
 
現状はキャッシュレスの方がリスクが大きい
国がマイナンバーカードを普及させるために、このカードに保険証機能を付与したり、消費税引き上げ時にポイント付与したり、様々な誘いをかけていますが、その個人情報が守られる保証もありません。
これが悪用されて失うものと、マイナンバーカードの利便性とが秤にかけられますが、まだ安全性に疑問が多く、カード化は進んでいません。
キャッシュレス化を進めるなら、そのセキュリティ対策を進め、保証制度を整備するのが先です。
それが整って国民に不安がなくなるまでは、より安全な紙幣による決済、保蔵が主流とならざるを得ません。日本は危なっかしいキャッシュレス化に進まなくても済むほど紙幣の信頼度が高いことに、誇りと自信を持って良いと思います。
 
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト東海東京証券チーフエコノミストを経て20146月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
 
 
これ「新紙幣の経済効果1.6兆円は大嘘、なぜ安倍政権はキャッシュレス化に逆行する発表をした?=斎藤満 」と題したMONEY VOICE 2019414日の記事である。
 
 
新紙幣発行が何故今なのかの疑念が私にはとれない。
そもそも新紙幣の発行を決めたのは、現内閣の安倍晋三首相と麻生太郎財務相である。
先日天皇ご退位により新元号「令和」が発表されたばかりである。何か現政権、選挙対策のご祝儀相場を演出してるようにも感じられて、私には嫌悪感が先に立った。当局に言わせればこの新紙幣発行は経済効果が期待されるからだとの事だが、果たしてそうだろうか私には疑問である。この紙幣切り替えは、金融機関や一部業者のコスト負担を余儀なくするだけで、日本経済には何ら付加価値をもたらさないと思う。むしろ、機械の入れ替え時にサービスが停止でもすれば、マイナスの付加価値生産とさえなり、金融機関などにとっては、一部の機械メーカーと印刷関連業者に利益を奪われるだけで、「余計な事」でしかあり得ない筈である。またこれと同時進行で安倍政権は現金を使わないキャッシュレス化も狙っている。もし現金を使わないキャッシュレス化も狙っているんだったら、逆に何の新紙幣なのかという事になり、政策に矛盾が起こる。確かにわが日本は、後進の中国や韓国に比しキャッシュレス化が遅れているのは事実である。だがそれは治安の良さの表れと言って良く他国に誇れるものである。我日本以外の国々の場合は、紙幣が貧弱で偽造通貨がまかり通っている。そう言う現状であるのに何故今新紙幣発行なのかという事考えれば、安倍政権そのものが、国の経済事情や国民生活の事より、自らの延命のためのみに、新元号「令和」と新紙幣発行を考えての話題作りに他ならないと私には思えた。