先に障害者雇用の水増しが省庁で発覚した。これは元官僚の古賀茂明さんによれば安倍政権の官僚の忖度が絡んだ結果である事がハッキリした

 安倍晋三総理が自民党総裁選で3選を果たした。石破茂氏は前評判よりも善戦したが、大差での3選という結果には変わりがない。基本的には、安倍1強の構図が続く。その影響が霞が関にどう出るかと言えば、これから3年安倍政権が続くことを想定する官僚たちは、引き続き忖度とゴマすりの行政を続けるはずだ。そんな官僚たちを野放しにしておくと、また安倍忖度で無理矢理進められる行政課題がある一方で、大事な行政課題でも放置されてしまうものがたくさん出るということも起きるだろう。
今回は、その典型例として、障害者雇用の問題について解説してみたい。
障害者雇用の数について、役所が不正水増しを行っていたというニュースが大きく報道されたのは、8月中旬。とんでもない話だと多くの国民が憤りを感じた。
 障害者雇用促進法により、国、自治体などの公的な機関や企業には、雇用者の一定の比率で障害者を雇用することが義務付けられている。現在は、企業が2.2%、都道府県等の教育委員会2.4%、国・地方公共団体等が2.5%になっている。公的機関は先頭にたって障害者を雇う責任があるというごく当たり前の考え方に基づいて、目標が高めに設定されているのだ。
 ところが、国の33の行政機関のうち、27の行政機関で雇用数の不正水増しが行われていたことが発覚した。厚生労働省の発表(828日)によれば、省庁全体では6800人の障害者が雇用されていたはずだったが、実際に働いていたのは半数の3400人にすぎなかった。その後、自治体はもちろん、この法律を作った国会や、法律違反に目を光らせるはずの裁判所まで水増ししていたことも明らかになった。
 しかも、一般の企業は、法定数の障害者雇用ができなければ、1人について月に5万円ずつ厚労省所管の団体に「納付金」と呼ばれる一種の罰金を納めなければならないのに、国の機関などは、できなくてもお咎めがないという、あまり一般には知られていない事実が報道されると、障害者や障害者に働く場を提供していたまじめな企業から「あまりにもひどいのではないか!」という声が上がった。当然のことだろう。
■キャリア官僚の無責任さが主因
 なぜ、こんなことが起きたのだろうか?
 水増しの背景には、いくつかの要因があるが、一番大きいのは、障害者雇用を担当する「キャリア」官僚がこの問題に無関心だったということだ。障害者雇用を増やしても出世につながらないので、ある意味「雑務」扱いし、現場のノンキャリア官僚に採用を任せてしまっていたというのが実態なのだ。
 私の官僚時代の経験からは、各省庁などの現場ではこんなことが起きていたのではないかと推察される。
―― 担当のキャリア官僚は年に12回、現場のノンキャリ職員から上がってくる障害者雇用についての報告を受ける。そこでは、こんな会話が交わされる。
ノンキャリの担当者:実は、障害者の法定雇用の目標が達成されていません。
キャリア上司:こんな問題があるなんて、引き継ぎでは聞かなかったなあ。だけど、問題じゃないか。どうするんだ!?
担当者:去年も同じでしたが、前任の〇〇部長は、最後は仕方ないなということになりました。
上司:だけど、国の機関ができないとなったら大問題だぞ!
担当者:いえ、もうずっと前から同じ状態ですけど、大きな問題になることはありませんでした。
上司:でも、やる気になればなんとかなるんじゃないの?
担当者:いえ、これは大変なんです。そもそも、そんなに簡単に働ける障害者は見つからないんです。毎年いろいろ手を尽くしてますが、まず、無理なんです。
上司:そうなの? そうかあ。それで、絶対に問題にはならないんだよな?
担当者:絶対にということはないですけど。少なくとも今までは全く大丈夫でした。他の役所の担当者とも情報交換してますけど、みんな同じ状況です。
上司:みんなで渡れば怖くないということか。他の仕事も大変だしな。こればかりやってるわけにもいかんから、じゃあ、まあ、なるべく増やすようにして、目立つようなことにならないようにしてくださいよ。
担当者:わかりました。横並びも見ながら、おかしなことにはならないように気を付けます――
 というようなことが起きていたのだろう。
 違法な水増しが生じたのは、時々、厳しいキャリア上司が来て、何が何でも目標達成しろという命令だけ出して、あとは放置する。そうすると、現場では、障害者手帳は持ってないけど実質的には障害者だから、来年までには手帳をもらうということにしてカウントしてしまおうとか、退職した障害者の名前を借りようというような、より悪質な手口を次々と開発していくことになる。
■キャリア上司は1年か2年で異動
 こうした事態を助長する構造問題に、キャリア官僚は12年で異動になるということがある。1年か2年で人事異動するたびに「未達成」の報告が新任のキャリア官僚に行われるが、再び「来年こそは目標をクリアせよ」との形だけの指示が繰り返され、あとは放置される。そんなことが何度も続いて不正な水増しが常態化したのだ。
 私も実はある独立行政法人に出向し、企画・総務担当の理事として、障害者雇用の問題に直面したことがある。かなり時間が経ったので、記憶が定かではない部分も多いのだが、ある時、部下から「目標未達」の報告が上がってきたので、驚いて、すぐに達成しようと動いた。しかし、実際にやってみると、採用業務はかなり難しい。
 まず、私は、この分野の専門ではなかったので、ほとんど勝手がわからず、どうすればいいのか見当もつかない。地域の障害者施設のアドバイスを仰ぎ、就業希望者がこなせる仕事を準備した。例えば、近所の施設の知的障害者の中には、花の手入れに向いている人がいると聞けば、植栽を花壇にして花作りをしてもらうというような工夫をした記憶がある。その独法が運営する宿泊施設のシーツ交換の業務や、事業所内の郵便や資料の配達業務などに障害者を採用する、というようなこともやった。それでも、私が採用できた障害者は10人にも満たなかったのではないかと思う。
 そして、大きな成果を出す前に就任から1年で本省に異動してしまった。もちろん、その間、本省の幹部との間で、この問題について話をすることは一度もなかった。彼らは何の関心ももっていないのだ。それでも、障害者の方に元気な声でおはようございますと挨拶され、他の職員にも職場が明るくなりましたねと言われたり、一心不乱に仕事に集中している姿を見て感動しましたという声が聞けたときは、本当にうれしかった。
 その時の経験で言えば、障害者の採用業務は片手間でできるような仕事ではない。
 それだけに官邸が目標達成を指示しても、短時間で雇用目標が達成できると考えるべきではない。より本格的な対策が必要だ。
■安倍政権のパフォーマンスを官僚は見抜いて「逆忖度」
 不正水増しの責任が官僚にあるのは確かだ。しかし、官僚を使うのは政治家である。彼らもまた、同罪だと言わざるを得ない。ただし、安倍批判をしたい人たちが、この問題を安倍政権の問題だとする傾向があるが、これは、安倍政権だけの問題ではなく、歴代内閣、特に自民党内閣の責任だと考えるべきだろう。
 自民党の閣僚で、本気で障害者雇用に取り組んだ人がどれだけいたのかと言えば、そんな話は聞いたことがない。
 官僚の「忖度」が問題になっているが、逆に言えば、総理や大臣が、本気で障害者雇用の目標を達成したいと考えていると官僚たちが判断すれば、彼らは、細かい指示などしなくても「忖度」して相当無理してでも目標達成に邁進するということを意味する。それこそ、次官や官房長から省内に大号令がかかり、もちろん、世間に対しても堂々と言える話だから、必要があれば、予算要求なども出すはずだ。財務省も総理が喜ぶと思えば、他の予算を削ってでも予算を増やすだろう。
 しかし、実際には何が起こっていたのか。
 総理が「一億総活躍」の標語を掲げ、そのシンボルとして、障害者を支援するようなイメージを打ち出しても、官僚は動かなかった。なぜなら、「安倍総理の言葉は、いつもの通り大嘘だ」ということをほぼ全ての官僚が見抜いていたからに他ならない。官僚はそんなにバカではない。ただのパフォーマンスに踊らされて、いちいち付き合っているほど暇でもない。本当に安倍総理にとって、何が重要なのか。そこをちゃんと推し量って、取捨選択して動く。それが官僚の「忖度術」。だから、総理が本気でないと見抜けば、真面目にやらないという「逆忖度」が生じるのだ。
安倍総理が本気なら内閣人事局をフル稼働させるべき
 もし安倍総理が本気で目標達成のために動くなら、こうした官僚の忖度の習性をうまく利用すればよい。例えばこんなやり方も可能だ。
 まず、官邸が内閣人事局を通じて、「障害者雇用を喜びと感じる官僚を担当にせよ」と各省庁の次官・官房長に指示する。前に述べた通り、障害者雇用は簡単ではない。相当な熱意をもって取り組まなければうまくいかない仕事だ。また、障害者の数だけそろえればよいというようなやり方をすれば、必ずあちこちにひずみができて、長続きする仕組みにならないだろう。障害者の立場に立って、誠意をもって障害者雇用を進める官僚を担当にすることが何より大切だ。このような人材を登用するためには、省内で公募をするというのもあるだろう。
 次に、障害者雇用の目標を雇用者数だけでなく、その質、例えば、雇用の難易度などでも評価することが大事だ。障害の程度が重い人を雇えば、軽い人を雇うよりも高く評価するのだ。その他にも、被用者の満足度、一般職員の評価なども含めて総合的な評価を実施する必要がある。
 さらに、毎年、目標への進捗度を評価して、良い結果が出れば、担当者のボーナスや人事評価を上げる、悪い結果が出たら、担当者ではなく、次官や官房長の評価を下げると内閣人事局が宣言すれば、彼ら幹部官僚は、必死になって、担当者を支援するはずだ。
 こうした政治主導、つまり人事権を通じて官僚を「国民のため」「障害者のため」に動かすというやり方こそ、真の政治主導だ。「内閣人事局があるから、モリカケスキャンダルで首相を忖度するような官僚ばかりになった」との批判が強いのは事実だが、こうした使い方であれば、誰も「内閣人事局は悪だ」などとは言わないだろう。
 障害者の雇用水増しの責任は、確かに、各省庁にある。しかし、官僚を動かすのは政治家の役目だ。官邸は今こそ、各省庁が真の障害者雇用促進に向けて動き出す「よき動機付け」――すなわち、内閣人事局の活用を行うべきではないだろうか。
 
 
これ『古賀茂明障害者雇用不正は安倍政権のパフォーマンス見抜いた官僚の逆忖度」と題したAERAdot.9/24() 7:00の配信記事である。
 
 
正に古賀茂明さんのこの記事通りである。この通りに良く考えれば時の内閣総理大臣の本気度がどれほどかで決まる。正に仰る通りである。どちらかと言えばこのような雇用の問題は、経済の好不況で変化するものについては政策の比例度合いも関係するから、深く突っ込まずパフォーマンス的色合いが濃いと思われる。それに照らし合わせれば雇用問題は安倍政権の本心はそんなに重要度がなかったと言う事であり、だからこそ忖度が働き真剣に考えなかったと言う事にもなる。これが結論だろう。だがデータ上ではそれではまずいから割増したと言う事が事実だろう。