「真実ではないこと、偽りのこと。極論でいえば、嘘というものは、それを発言した人にとどまることなく、第三者、他人をまきこんでいく」。愛媛県の中村時広知事は5月11日の記者会見でそう話した。元「週刊現代」編集長の元木昌彦氏は「嘘をつき続ける安倍首相の言動は異常だ。また公私をわけられない昭恵夫人の行動も理解できない。2人とも人間として大事な何かが欠落している」という――。
■安倍晋三という政治家をひと言で表す漢字は「嘘」だ
それ以外にないと、私は思っている。これに似た漢字「偽」が選ばれたのが、年金偽装問題が起きた2007年であった。これは第一次安倍内閣の時だ。安倍晋三という政治家をひと言で表す漢字に「嘘」ほど適切な言葉はない。
歴代総理で嘘をついた人間は数多くいる。筆頭は佐藤栄作であろう。彼は沖縄返還を急ぐあまり、アメリカからは「核付き返還」といわれたにもかかわらず、「核抜き本土並み返還」だと国民を欺き、ノーベル平和賞まで授与されてしまうのである。
■「公約は嘘だった」といってのけた小泉元首相
私が小泉を許せないと思うのは、この発言である。
だが不思議なことにメディアの追及は甘く、小泉はそれからも放言を重ねた。当時のブッシュ大統領がイラク進攻の名分にした「大量破壊兵器」に、根拠もなくいち早く賛成した。後にアメリカが嘘だったと認めたのに、私が知る限り、小泉自らが誤りを認めて謝罪したという話は聞いていない。
この二人に比べると安倍の嘘はスケールが極めて小さい。だからといって罪が軽いというわけでは決してない。
■官房長官や大臣、秘書官、官僚までが嘘に嘘を重ねている
妻・昭恵が親しくしていた森友学園理事長の国有地購入に便宜を図ったこと。安倍の腹心の友である加計学園理事長の進めていた獣医学部新設に安倍自らが便宜を図ったことは、ほぼ間違いない事実なのに、安倍夫妻は嘘をつき続け、しらを切りとおしている。
集団思考の研究で有名なアーヴィング・ジャニスは、大統領とその側近がいかに優秀であっても、集団になるとばかげた意思決定をしてしまうことがあると、ベトナム戦争時のトンキン湾事件やウォーターゲート事件を例に出して分析している。
まして優秀ではない権力者が保身のために嘘をつけば、つじつまを合わせるために、官僚たちが文書改竄という犯罪的行為にまで手を染めてしまうのである。
「真実ではないこと、偽りのこと。極論でいえば、嘘というものは、それを発言した人にとどまることなく、第三者、他人をまきこんでいく」
困ったことに、嘘も百万遍いい続ければ嘘ではなくなるという空気、「安倍症候群」とでもいうべきものが日本中を覆い尽くしているのだ。
■茂木経済再生相、内田日大監督、小池都知事……
日大アメフト部の内田正人監督は、自軍の選手に、相手の選手にけがを負わせるよう指示したが、内田は記者会見で「指示はしていない」と否定し続けた。内田は日大の人間に「否定し続ければそのうち忘れる」と嘯いていたと報じられている。
小池百合子・東京都知事は、これまで経歴に「カイロ大学を"首席"で卒業」と書いてきたが、文藝春秋に「コネ卒業ではないか」と報じられた。会見で小池は、卒業したことは事実だとはいったが首席については黙して語らなかった。
■安倍首相にも「経歴詐称」の過去がある
実は安倍にも同じ経歴詐称の過去がある。彼は成蹊大学を卒業後、アメリカの南カリフォルニア大学政治学科に2年間留学していたと、当初の経歴には書いてあった。だが週刊ポスト(2004年2月13日号)が「経歴詐称」だと報じたのである。
南カ大学側は、安倍は1年間在籍してはいたが、それは「外国人のための英語」の授業だったことを認めた。その1年前は語学学校に通っていただけだったのだ。
以後、安倍は自分のプロフィールからこの部分を削除している。
■「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」
15年3月、愛媛県に学園側が説明する時、学園側の人間が2月25日に加計理事長が安倍首相と面会し、獣医学部新設について説明した際、安倍が「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」といっていたと説明していたのである。
首相の名前を使って相手に圧力をかけ、それがバレると嘘だったと臆面もなくいい出す輩が、教育者の仮面をかぶっているのだ。
■「2月25日の記録が残っていないというのは考えにくい」
しかし名前を騙られた安倍は怒りもしなかった。やはり加計との間であのようなやりとりが実際にあったのだろう。そう思うのは私だけではないはずだ。そうした空気が蔓延することを恐れた安倍が、加計に「あんたが出て釈明しろ」といったのではないのか。
そこで加計は、部下が嘘をついた、安倍とはその日面会していない、当日の記録はないと全否定したのだ。記者も核心を突く質問ができず、加計は間違いなく嘘をついているという印象が強く残っただけの会見だった。
ノンフィクション作家の森功は、昨年5月に文藝春秋で「安倍首相の腹心の友の商魂」を書いた際、加計側から猛烈な抗議を受けた。その際、加計側は理事長の詳細なスケジュールを出してきたと日刊ゲンダイで話している。それなのに「15年の2月25日の記録が残っていないというのは考えにくい」(森功)。
「私や妻が関係していたということになれば、私は間違いなく総理大臣も国会議員も辞める」
森友に続いて加計学園問題も追及され、いったんついた嘘に嘘を上塗りして、身動きが取れなくなってしまったというのが実態であろう。
■「昭恵さんを慰める会」に集まった保育業界の思惑
3月に開催された「ポピンズ」の30周年パーティで、昭恵は乾杯の音頭をとっていたそうだ。この日は中村が音頭をとり「昭恵さんを慰める会」を名目に、3万円コースのふぐを食らい、たらふく飲む会だったという。
文春によれば、第二次安倍内閣発足後に中村と昭恵は親しくなり、毎月のように飲んでいるそうだ。中村には当時、ぜひとも安倍首相に近づく必要があったというのである。中村はテレビ朝日にアナウンサーとして入社し、結婚、出産を経て退社した。
■目的は「官邸主導の国家戦略特区制度の活用」
一方安倍首相のほうは、アベノミクス新三本の矢として「待機児童解消加速化プラン」を打ち出す。そこで中村は安倍に近づき、岩盤規制を打ち破ろうと画策するのである。
中村のもくろみは、認可保育園の場合、職員は全員保育士資格を持っていなければならないのだが、この規制を緩和して、保育士不足で進まなかった保育施設の増設を進め、国や自治体から手厚い補助金給付を受けられないかというものだ。
要は、保育士の代わりに幼稚園教諭や小学校教諭の資格を持つ人間も認めてほしいというものである。だが厚労省関係者はこう疑問を呈している。
「中村さんの主張は、自分が運営する保育所増設のために、規制緩和して欲しいと主張しているようなもので、保育の質の確保は二の次に見えます。陳情にも来られましたが、厚労省相手では埒が明かないから、政治の力を頼りに内閣府で特区提案をしたのでしょう」
■人件費70%を想定していたのに、平均50%程度しかない
結果からいえば、中村の望み通りに16年から規制が緩和されたのである。そのおかげで「ポピンズ」は120施設を増設し、全国で220カ所の保育施設を運営し、約70億円だった売上を17年度には約140億円に増やしているという。
その収入の半分が国や自治体からの補助金によるものだが、文春の調べによれば、国は保育所の経営実態調査などから人件費を70%と想定して補助金を支給しているのだが、「ポピンズ」運営の認可保育所の保育士人件費率は平均50%程度(16年度)しかないそうである。
中村の経営の私物化についてはここで触れないが、文春がいう通り「国家戦略特区には莫大な公金が投入される。首相夫人が規制緩和のメリットを享受する利害関係者と"お友だち"付き合いをしていては、その選定過程に疑念が生じることは加計学園の例からも明らかだ」。昭恵には人間として大事な何かが欠落している、そう思わざるを得ない。もちろん夫の安倍も同じである。
■「50年後には再評価されるかもしれない」はあり得ない
安倍がごり押しして今年から小学校で始まった(中学校は来年度から)道徳の授業でも、嘘をつくことは古来日本人の"美徳"であったと教えるようになるに違いない。
安倍は死しても嘘つき宰相としての名は末代まで残るのである。
それでも安倍は「悪名は無名に勝る」というかもしれない。「祖父の岸信介は、日米安保条約は50年後に評価されるといっていた。オレも50年後には再評価されるかもしれない」。そう考えているとしたら、期待は無残に踏みにじられるだろう。
■とんでもないことをやった総理として歴史に名を残す
でなければ、(肯定的な意味で)歴史に名を残すのではなく、とんでもないことをやった総理として歴史にマイナスな名を残すことになる」
宇野がいうように、安倍が極端な保守主義に染まったのは、政治家になってからであろう。同級生たちの安倍評は異口同音に「可もなく不可もなく、どこまでも凡庸で何の変哲もないおぼっちゃま」(『安倍三代』より)である。
■日本人は善悪の判断ができなくなってしまったのか
さしたる勉強もせず確固たる信念も主義主張もない安倍は、政界に入り、岸の孫として受け入れてくれる人間たちの考えや思想を取り入れ、それを自分のものと勘違いして生きてきたに違いない。
だが困ったことに、気弱な人間にありがちな独裁への憧れが強く、民主主義を蔑ろにすることを何とも思わない一面もある。
これほど劣悪な安倍政権を国民の4割近くがまだ支持しているということが、私には信じられない。あまりの安倍の言動の異常さに慣らされ、日本人の何割かは善悪の判断ができなくなってしまった。そう思うしかない。(文中敬称略) ジャーナリスト元木 昌彦
これ「日本を私物化して開き直る安倍夫妻の異常」と題したPREGIDENT Online 7/2(月) 9:15の配信記事である。
私もここ半年ほど安倍政権の嘘つき内閣の批判記事を考えていたが、昨日この記事を見つけ、私がどうしても書けなかった記事が全て網羅してた。私にはここまで書けなかった。小躍りするくらいの記事に私には思えた。さすがジャーナリストと納得した。私にもここまで書ける文才があればと正直羨ましさだけが残った。