自民党総裁選を3カ月後に控え、「ポスト安倍」の一人と目される岸田文雄政調会長(60)が知名度の向上に苦戦している。党の注目政策を打ち出す会議では、小泉進次郎筆頭副幹事長(37)と並ぶ場面が少なくない。今回の総裁選の対応は未定とはいえ、将来的に首相を目指している岸田氏にとって、知名度の高い小泉氏との連携は存在感を高める絶好のチャンスだが、どうも2人のソリは合わないようだ。
岸田氏と小泉氏は5月31日、官邸に安倍晋三首相(63)を訪ね、65歳以上を高齢者とする定義の見直しを求める党の「人生100年時代戦略本部」の提言を手渡した。同本部は岸田氏が本部長、小泉氏が事務局長として実務を仕切った。
小泉氏は面会後、首相が提言内容に関して「あと2年で(自分も)65歳だ。高齢者と言われるのは嫌だな」と漏らしたことを記者団に明かした。その上で「首相の言葉を通じて国民的議論が巻き起こり、前に進むこともあるので期待する」と、提言のアピールにも余念がなかった。
父・純一郎元首相(76)譲りのポイントを抑えた語り口で記者の質問にも的確に答える進次郎氏。同席していた「上司」の岸田氏の存在はかすんでみえた。提言は安倍政権の看板政策「人づくり革命」に関する内容で、現在の社会保障の世代間格差是正を求める小泉氏の主張が色濃く反映されたものでもあった。
■政策でも頭角現す小泉氏
このところ、小泉氏の政策面での活動は活発化している。岸田氏が本部長の「政調会のあり方等改革実行本部」は、党内に乱立する組織の整理統合や政策立案能力の向上を狙い、岸田氏の諮問に、小泉らが出した提言を踏まえ6月13日に新設された。岸田氏が先導した形ではあるが、議論の対象となる政調会議へのタブレット端末導入によるペーパーレス化などは、かねて小泉氏が訴えてきた。
小泉氏と岸田氏が党の会議のひな壇に並ぶ姿を目にする機会は増えているが、岸田氏周辺は「必ずしも岸田会長と小泉氏のソリが合うとは言えない。ケミストリーが合わないのでは…」と語る。相性が合わないということだ。
昨年末、そんな2人の関係性を象徴する出来事があった。小泉氏の提案で人生100年時代戦略本部のメンバーで夜間、都内にある24時間保育の保育園を視察した。関係者によると、小泉氏は当初、岸田氏らごく少人数に声をかけたが、岸田氏はベテラン議員にも声をかけ、結果的に6人で行くことになった。
関係者は「小泉氏が岸田氏に配慮して少人数にしようとしたのに、岸田氏には分かってもらえなかった…」と振り返る。周囲に配慮し、バランスを重視する岸田氏は関係者を分け隔てなく呼んだ方がいいと判断したとみられる。岸田氏との距離を縮めようとした小泉氏が物足りなさを感じた側面もぬぐえない。
■「バランス」重視で独自色打ち出せず
岸田氏にはバランスを重視するあまり、独自色を打ち出しきれない面がある。委員長を務める党の財政再建に関する特命委員会は5月23日、政府の経済財政運営の指針「骨太方針」に向けた提言をまとめた。総裁選をにらみアベノミクスに続く経済政策として財政再建を訴え、存在感を示そうと議論をスタートさせた。
若い世代の意見も反映させようと小委員会の委員長には竹下派(平成研究会、55人)のエース、小渕優子元経済産業相(44)を据えた。しかし、財政再建のポイントとなる社会保障費抑制の数値目標の明記は見送られた。政府方針とバランスをとった結果で、竹下亘総務会長(71)からは「もっときつくてもよかったなという思いだ」と、踏み込み不足に苦言を呈された。
総裁選の対応でも岸田派(宏池会、48人)の内部で意見が分かれ、苦しい選択を迫られている。次々回の総裁選で首相からの「禅譲」を狙うべきとする勢力と今回の総裁選出馬を求める主戦論を訴える勢力とのはざまで揺れているのだ。
首相の出身派閥の細田派(清和政策研究会、94人)をはじめ、第2派閥の麻生派(志公会、59人)や二階派(志帥会、44人)は早々と首相支持を打ち出している。岸田氏は7月22日の国会閉会後に意思を表明する方針だが、表明が遅れれば遅れるほど首相の信頼を失い、禅譲の可能性も低くなる。派内には「出ても出なくても総裁選後の人事で岸田派が冷遇される可能性がある」と心配する声も出ている。
産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が6月16、17両日に行った世論調査で次期総裁にふさわしい人物を聞いたところ、小泉氏が26・9%でトップだった。2位は首相で25・2%、3位は24・1%の石破茂元幹事長(61)で、岸田氏は5・1%と大きく水をあけられている。自民党支持層に限ってみても5・3%にとどまり、知名度不足は否めない。
岸田氏よりも2回りほど若い小泉氏が率いる2020年以降の政治や経済、社会を構想する若手有志の勉強会は、岸田派の若手2人が中心的な役割を果たしている。トップダウン型の「安倍1強」体制に苦言を呈する場面が目立つ小泉氏と「ボトムアップの政治」を訴える岸田氏が連携すれば、「安倍1強」とは異なる新たな風景が見えてきそうだが、ソリが合わないのではそれも難しそうだ。(政治部編集委員 長嶋雅子)
拙ブログで私は何度もこの名門宏池会会長の岸田さんは安倍さんの禅譲ではなく、政治権力は戦って奪い取るもんだと言ってきた。このままでは第二の前尾繁三郎さんになってしまうと言っても過言ではない。前の自民党総裁で前自民党幹事長の谷垣禎一さんもそうだったが、どうしてこうも宏池会の人間と言うのは人が良いのか詰めが甘いと言うのか、昔からの「公家集団」と揶揄された意味が良く解る。昔の一定期間に禅譲された総裁での選出は三木武夫・福田赳夫・鈴木善幸・竹下登・宇野宗佑・海部俊樹とそれぞれいるが実力者でそれなりだったのは竹下登くらいなもんで、後の、戦いで奪い取った田中角栄・大平正芳・中曽根康弘・宮沢喜一・橋本龍太郎等は宰相まで登り功成りの人間として評価されるだろう。解らなかったのが大平正芳さんである。「公家集団」宏池会にありながら何を考えているのか悟らせない、内に秘めた「闘牛」の如くの闘志、とてもあの宏池会に似つかわしくない人間として特筆されるだろう。運悪く歴任中に倒れて亡くなってしまったが、後世に語り継がれる宰相と言え、果たして岸田さん宏池会の大先輩にどれだけ迫れるか見ものである。