森友学園事件財務省自殺職員遺書全文公開の報道までには権力の力が働くと言う事に驚愕したと同時に、真実を報道する記者を応援したい気持ちになる

週刊文春」3月26日号 に掲載された「森友自殺〈財務省〉職員遺書全文公開 『すべて佐川局長の指示です』」が大きな反響を呼んでいる。このスクープ、すべての始まりは取材・執筆した大阪日日新聞記者・相澤冬樹氏がNHKを辞め、自殺した財務省職員の妻と面会したことだった。相澤氏がNHKを辞めるきっかけを明かした「週刊文春」2018年12月20日号掲載の「独占手記」を全文公開する。(相澤氏は「 安倍官邸 vs. NHK   森友事件をスクープした私が辞めた理由 」(文藝春秋)の著者。記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のもの)

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「私は聞いてない。なぜ出したんだ」

 電話の向こうで激怒する声が響く。声の主は、全国のNHKの報道部門を束ねる小池英夫報道局長。電話を受けているのはNHK大阪放送局のA報道部長だ。
 私はたまたまA部長のそばにいたため、電話の内容を知ることになった。「なぜ出したのか」と問われているのは、私が報じた森友事件の特ダネ。近畿財務局が森友学園に国有地を売却する前に、学園が支払える上限額を事前に聞き出していたというニュースだ。
 ところが、その特ダネに報道局長が激怒しているという。なぜか。
 NHK報道局で広く知られた言葉がある。「Kアラート」だ。Kは小池局長の頭文字。小池局長がニュースの内容に細かく指示を出してくることを指す。
「また官邸から何か言われたに違いない」
 Kアラートが出るたびに、報道局内ではそう囁かれている。政治部畑を歩み、政治部長も経験した小池局長。安倍官邸中枢に太いパイプがあるのは知られたところだ。Kアラートが出たということは、この特ダネは官邸が嫌がるニュースだったのだろうか。
 小池局長との電話が終わった後、A部長は苦笑しながら私に言った。
「あなたの将来はないと思えと言われちゃいました」
 その瞬間、それは私のことだ、と悟った。翌年6月の人事で私は記者を外され、考査部へ異動する。そして今年8月末、NHKを辞めることにした――。

原稿から削られた昭恵夫人の部分
 NHK大阪報道部の司法担当記者だった私は、発覚時から森友事件を追い続けてきた。その間、感じてきたのは、事実をあるがままに報じようとしないNHKの姿勢だ。
 森友事件が公になったのは、昨年2月8日、木村真豊中市議による記者会見だった。学園の小学校用地として売却された国有地の金額について情報公開請求をしたのに、開示されないのは不当だと訴えたのだ。
 だが、私が最も驚いたのは、小学校の名誉校長に安倍昭恵首相夫人が就任していたこと。それがこのニュースの最大のポイントだろう。だから私は原稿に昭恵氏のことを書き、本文でも事実として明記した。ところが、デスクの判断でこの部分が削られてしまう。
 それでも関西では、当日夕方の報道番組でこのニュースが報じられたからまだよかった。私はこの原稿を「全中(全国ニュース)に送るべき」と進言したが、東京には送られなかった。昭恵氏の名誉校長就任が核心なのに、それゆえに放送を躊躇(ためら)ったとしか思えない。
 その2日後のことだ。鑑定価格9億5600万円だった国有地が、約8億2000万円も値引きされ、1億3400万円で売却されていたという驚きの事実が判明する。だが、この「8億円値引き」も放送は関西のみ。全国放送は報じない。
 NHKの森友報道は忖度で始まったのだった。

特ダネも書き換えられていく
 それから1カ月余りが経った頃、取材を進める私は耳を疑う情報に接した。

「国有地の売却前に、近畿財務局は学園側との売却交渉の過程で、学園が幾らまでなら出せるのか聞き出している。そして実際にその金額以下で売っている」
 事実なら背任の可能性を強く窺わせる話だ。一本筋の情報では書けない。2カ月以上取材を重ね、ようやく事実の確認ができた。
 ところが、報道には大きな壁があった。4月に就任したばかりの小池報道局長。6月中は「国会中は局長のOKが出ない」、7月に入っても「局長を説得するのが難しい」。そんな状況がしばらく続いた。
 最後は「大阪地検特捜部もこの情報を把握して捜査している」という要素を付け足すことにした。小池氏を説得するには、検察当局も把握している事実だということに触れる必要があると聞いたからだ。
 そして昨年7月26日夜の「ニュース7」で、背任の実態に迫る特ダネを報じた。要約すると、以下のような内容だった。
「財務局の担当者が購入できる金額の上限を尋ねたところ、学園側は約1億6000万円と答えた。一方、財務局側は、土地の土壌改良工事で国が約1億3200万円を負担予定で、これを上回る価格でなければ売れないと事情を説明した。
 その後、財務局はゴミの撤去費の見積もりを、大阪航空局に依頼するという異例の対応を取り、値引き額を約8億2000万円と決めた。結果、売却額は1億3400万円となり、財務局と学園が示した金額の範囲内に収まる形となった」
 異変が起きたのはその夜のことだ。冒頭で記したように、小池氏が激怒したのだ。実はこのネタは大阪報道部を通さず、東京社会部から出したもの。A部長は直接関知していない。だが、A氏も政治部出身で、初任地は同じ鳥取。昔からの後輩で文句を言いやすいのだろう。最後に電話を切ったA氏が言った一言が、「あなたの将来はないと思えと言われちゃいました」というものだった。
 このネタは翌朝用に続報が準備されていた。だが小池氏の怒りを受け、何度も書き直され、意味合いを弱められてしまう。翌朝の「おはよう日本」のオーダー(放送順)も、後ろの方へ下げられた。こうして忖度報道は本格化していったのだ。

“口裏合わせ”のスクープが……
 しばらく世間の注目から逸れていた森友事件だったが、今年3月2日、朝日新聞が朝刊で「財務省が公文書書き換え」という特ダネを報じたのを機に、再び大きくクローズアップされる。
 NHKも動く。パラリンピックで休止中だった「クローズアップ現代+」(夜10時~)が4月2日に再開されるのを受け、4日のクロ現で森友事件を取り上げることが決まったのだ。
 何か新ネタが欲しい。そこで私が掴んだのが、昨年2月、事件発覚直後に財務省が直接、学園側に「トラック何千台もゴミを搬出したことにして欲しい」と電話をかけていたという事実である。つまり、財務省の方が口裏合わせを学園側に求めていたという話だ。改ざん同様、行政のルールを歪めた行為と言っていい。
 私は東京の社会部デスクの助言に従い、このネタを大阪のデスク、そして報道部ナンバー2のS統括に伝えずに進めることにした。S氏からA部長、そして小池局長へと伝わり、介入される心配があるからだ。
 口裏合わせの電話をかけていたのは、財務省理財局のZ課長補佐(当時)。私はある日の朝、自宅近くで彼に接触を図った。
「記者さんですか。何も言えませんよ」
 そう答えるのは無理もない。そこで「私が喋りますから」と一方的に話を続けた。Z氏の人となり、仕事ぶり……。会話の感触が良くなってきたところで、用意した質問を繰り出した。

記者の問いかけにやっと頷いたZ氏
――Zさんは昨年2月20日籠池泰典理事長に雲隠れを指示する電話をかけたと言われていますが、そういう電話はしてませんよね。
 籠池氏はこの頃、自宅を離れ、京都のホテルに滞在している。本人は「Z氏に雲隠れを指示された」と話すが、実際は違う。「雲隠れ」に近い発言を探せば、その3日前、2月17日に遡る。安倍晋三首相が国会で「私や妻が(売却に)関係していたということになれば、総理も国会議員も辞める」と答弁した日だ。
 これを受け、近畿財務局のI氏が「マスコミが押しかけてきて大変なことになります。ホテルにでも避難した方がいいんじゃないですか」という旨の話を学園側にしている。一方、Z氏も「対応は顧問弁護士に一本化し、籠池氏は対外的に発言しないでほしい」旨の電話をしている。弁護士から籠池氏にこの話が伝わる過程で「雲隠れ指示」と受け止めた可能性がある。そのことはおそらく記者では、私だけが気付いていた。
 私の問いかけに、Z氏はやっと頷いた。
――でも、別の電話をしていますよね。同じ日に。「トラック何千台でゴミを搬出したと言ってほしい」という電話。
「知ってるんだ……」
――Zさんはあの日、そのことをメールで省内の複数の人に報告したでしょう。電話をしたけどダメだったということを報告している。
「なるほどね」
――でも、私はZさんが自分からこういうことをしたとは思えない。上司の指示があったわけでしょう。中村稔総務課長(当時)ですね。
「自分の判断でやりました……課長補佐だからね」
――学園側に電話をしたのが2月20日、月曜日ですよね。それは当然、その前があるわけですよね。
「(苦笑して答えず)」
――土日を挟んで、金曜日。2月17日に安倍首相が「関係していたら総理も議員も辞めます」と言ってますよね。あれが大きかったんじゃないんですか?
「(地下通路の途中で立ち止まって笑顔で)そう思われるよね。……そこは捜査を受ける身なので、答えを控える、ということに」
 確認としてはもう充分だろう。私たちは和やかに別れたのだった。
 取材結果を報告したところ、翌4月4日のクロ現の放送に先立ち、ニュース7でも取り上げることが決まる。私は3日夜、Z氏に翌日のニュースで報じることを伝えたが、動揺した様子もなく、何も言うことはなかった。上司はZ氏に明確に指示はしなかったかもしれない。だが、彼が忖度してやらざるを得ない状況にあったのではないだろうか。

「なぜこのネタを出さないんですか!」
 こうして「口裏合わせ」のネタは日の目を見ることになったはずだった。ところが4日夕方になって、社会部デスクから電話が入る。
「放送できないかもしれません。民進党のO氏が『今日NHKが森友の特ダネを出すから見ろ』と言い回ってるらしいんです。そのことが政治部を通して報道局長に伝わって、局長が『野党に情報が漏れている』と激怒しているんですよ」
 また小池氏か。私がO氏に漏らしたとでも思っているのだろうか。だがニュース7の放送まで残り10分という時間になって、再びデスクから電話があった。
ニュース7には出ます」
 私は心底ほっとした。だが、その後に続くデスクの言葉に衝撃を受けた。
「クロ現にこのネタは入りません。O氏が『ニュース7にもクロ現にも出る』と言っていたので、報道局長が『野党議員の言うままに放送できるか!』と」
 私は、クロ現に新ネタを出したいという一心でここまで取材してきた。なのに、クロ現に出ない? 担当記者・ディレクターが集まる編集室で私は荒れた。
「なぜこのネタを出さないんですか!」
 誰も反論できない、と思いきや、大阪のS統括が反論してきた。
「私たちはそんなこと聞いていませんよ。出さないというのは決定事項です」
 ……あなたが信用できないから、言わなかったのだ。
 結局、「口裏合わせ」のネタは出た。だが、ニュース7の最後の項目。特ダネにもかかわらず、その日の暑さのニュースよりさりげなく目立たない形で。私は憤懣やる方なかったが、ウオッチ9では分厚く取り上げてくれた。それで満足するしかない。そして、ある予感がしたのだった。
「いよいよ、次の人事では何かあるな」
 4月に入り、焦点は特捜部の捜査の行方に移っていく。検察幹部にも最後まで立件の道を探る気概を見せる人がいた。起訴か不起訴かまだ分からない、というのが、4月半ば時点の私の判断だった。だが5月半ばには、起訴が厳しいという雰囲気に変わってくる。
 私が「記者を外す」という内々示を受けたのは捜査を巡る取材合戦の最中、5月14日のことだった。大阪放送局最上階にある局長応接室。私はA報道部長からこう告げられた。
「次の異動で考査部へ行って頂きます」
 記者を外される――。私の心は決まった。5月31日、〈森友事件で財務省関係者全員を不起訴 大阪地検特捜部〉という短い一報原稿を出し、その日の関西向けニュースでスタジオ解説を行ってNHK記者としての仕事を終えた。
 8月29日、私はNHK放送センターの報道局長室を退職の挨拶に訪ねた。
「記念写真を撮影してもよろしいでしょうか」
 そう声をかけると、小池氏は快く応じてくれた。悪意のある人ではないと思う。ただ、細かすぎる。現場にあまりに細かく口出しするから、Kアラートと揶揄される。それは揶揄にとどまらず、NHKの報道を蝕んでいるのではないか。
 週刊文春編集部がNHKに取材を申し込んだところ、「報道局長の意向で報道内容を恣意的に歪めた事実はありません」という回答だった。文書改ざんは日曜日に始まった
 NHKを辞めた私は大阪日日新聞記者として、再び森友事件の取材を始めた。
 ずっと頭に残っていたのが、今年3月7日に自ら命を絶った近畿財務局の上席国有財産管理官・Bさんの存在だ。彼はなぜ、どのように改ざんに関わったのか。財務省の調査報告書や関係者への取材を通じて、見えてきた新事実がある。
 前述したように、安倍首相が「私や妻が関係していれば、総理を辞める」と答弁したのは、昨年2月17日。その3日後の20日に行われたのが、財務省による「口裏合わせ」だ。
 そして24日、佐川宣寿理財局長(当時)が「保管期間が一年未満なので面会記録は廃棄した」と答弁。一方で、理財局の中村総務課長に対し、残っている記録があったら廃棄するよう指示している。この中村氏が実際に改ざんの陣頭指揮を執った人物だ。夏の人事で大臣官房の筆頭参事官に就任している。
 近畿財務局による文書改ざんが始まるのは2日後の26日。日曜日にもかかわらず、本省理財局が近畿財務局の担当者に出勤を求めている。首相答弁や局長答弁によほど慌てたのだろう。どの公文書のどこをどう書き換えるのか、事細かく指示が出された。実は今まで報じられていないが、この日の夕方に呼び出された一人がBさんだった。
 近畿財務局には、3月7日にも「書き換え案」という形で改ざんの指示が届く。本省の中村課長らから指示を受けた財務局の管財部長が、Bさんに伝えたという流れだ。最初は小幅な書き換えだったが、翌8日にかけ、さらに追加の書き換え指示が来る。
 上席というポジションは本省からの指示と現場の摺り合わせが求められる役職だ。だが、Bさんは「これはおかしい」と意見するタイプだった。一方で経験豊富で仕事ぶりには上司からも一目置かれていた。そんなBさんゆえに、改ざんという不正に手を染めることが許せなかったのだろう。
 財務省の調査報告書には「配下職員」という表現でBさんたちが改ざんに抵抗した姿が記載されていた。
〈近畿財務局の統括国有財産管理官の配下職員は、そもそも改ざんを行うことへの強い抵抗感があったこともあり、本省理財局からのこの度重なる指示に強く反発し、平成29年3月8日までに管財部長に相談した〉
 だが、結果は「書き換えは必要」と変わらなかった。Bさんはこれ以降、次第に体調を崩し、夏の人事での担当替えを強く希望していたがかなわず、休職に追い込まれてしまう。
 そして今年3月7日、朝日新聞が改ざん疑惑を報じてから5日後、苦悩の末に自ら命を絶つことになる。
 なぜ国有地は格安で売却されたのか。その謎は解明されていないし、誰も責任を取っていない。小学校を無理に認可しようとしたのは大阪府だ。国と大阪府はなぜそこまでしてこの小学校を設立させたかったのか。
 森友事件は森友学園の事件ではない。国と大阪府の事件だ。国の最高責任者は安倍首相、大阪府の最高責任者は松井一郎府知事。2人は説明責任を果たしたと言えるだろうか。2人が説明しないなら、記者が真相を取材するしかない。
 私がNHKを辞めた最大の目的は、この残された謎を全て解明することだ。
相澤 冬樹/週刊文春 2018年12月20日

※相澤冬樹(元NHK記者)
宮崎県生まれ。ラ・サール高等学校を経て、東京大学法学部卒業。1987年、日本放送協会NHK)に記者職で入局。NHK山口放送局NHK神戸放送局、東京報道局社会部記者、NHK徳島放送局ニュースデスク、NHK大阪放送局大阪府警察キャップ、NHK BSニュース制作担当、2012年大阪放送局、2016年大阪放送局司法キャップを歴任。森友学園問題を取材する中、2018年5月、記者職を解かれ考査部に異動。同年8月NHKを退職、翌9月新日本海新聞社に入社。現在大阪日日新聞論説委員・記者。


これ『「なぜこのネタを出さないんですか!」森友問題“遺書”スクープ記者がNHKを見限った瞬間』と題した文春オンライン3/22(日) 8:00の配信記事である。


スクープと言う記事が出回るまでの詳細が手に取るように解る記事である。
私は好んでNHKのニュースは見てる方である。と言うより民放のテレビはスポーツの実況か中継放送以外ほとんど見なく、NHK一辺倒と言っても良い。大体私の一番嫌いなのがお笑い芸人と言う芸能人であり、彼らがゲームをしたりクイズ番組で答えたり、コメンテーターとして画面いっぱいに並んでコメントしてる様を放送している民放の番組を見て喜んでいる視聴者の気持ちが殆ど理解出来ないからであり、暇つぶしにさえも感じられないからだ。こんな事してるのは我日本は平和であり、昔みたいに食べて行けない人たちが居なくなり国民皆中産階級人間になったんだろうなと感じているこの頃である。テレビ番組でも私はNHKのクロ現(クローズアップ現代)とBS171(テレ東)の日経プラス10は好きで録画してまでも見てる。そのクロ現でも色々あった事が驚きである。
話を元に戻せば、毎日見てる新聞記事が全て真実ではない、いや真実と言うより嘘ではない情報だという事が、この相澤記者によって教えられたと言っても良い。事この「森友学園国有地格安払下げ」事件は余りにも謎が多くて、今後もっと解明される事を祈って止まない。
 私は建設と不動産の会社を経営してるから、この種のダーティな部分は良く解るつもりであり、もっと別の汚い事も予想されるが、ここからは憶測になってしまうから止めるが、正義感の強い人間には多分耐えられないと思うし、自殺した近畿財務局職員の赤木さんにはとても耐えられなかっただろうとは思うが、それが日常茶飯事に行われている事は確かである。だが政治経済行政の現状を伝える記者さんたちは、真実を曲げずそのまま伝える事が使命であり、憶測と恣意は許されない筈である。
私はこの「森友学園国有地格安払下げ」事件によって自殺者が出た事件によって、NHKじゃないが、事件には涙がつきものであり、そこには必ず人間が居る事を教えられたのである。