小沢の選挙手法=田中角栄譲りのドブ板選挙(その2)

 選挙の小沢イズムは「カラスが鳴かない日はあっても、街頭演説をしない日はない」ともいわれる厳しい掟(おきて)を守る候補者たちを生み出してきた。  もちろん、実際の選挙戦術は選挙区事情で微妙に違う。青森1区(青森市)の場合には、小沢イズムがさらに変化していた。

 民主党現職の横山北斗(比例東北)は、身内からも選挙運動が見えないといわれる一人だ。
 「金曜日夜から月曜日までは青森にいるようだが、街頭演説をしているのを見たことがない…」
 これは民主党関係者が不思議がる横山の動きだ。
 当然、相手陣営も奇妙に感じている。自民党の現職、津島雄二陣営の関係者が言う。
 「横山は、週刊誌の選挙予想で『優勢』と報じられて、もう安心したんじゃないの」
 だが、横山は違っていた。学者出身だが、小沢の秘書経験がある。小沢イズムはたたき込まれている。
 「出かけて、握手して、話してこそ1票。青森は党ではなく、人で投票する」
 横山の動きが見えないのには理由があった。 ポスターを張っても、相手陣営にすぐはがされるほど「どちらの陣営か」の選別が厳しい土地柄。ミニ集会を呼びかけると、相手陣営の人が必ず交ざっていて、動向を通報されてしまうほど濃密な人間関係。そのすき間を縫って、地元出身ではない横山は隠密で支持拡大を狙う。地元で研究者として有権者の投票動向を探っていたころの成果が小沢イズムと合体して進化していた。たどり着いた横山の作戦は「飛び込みで、相手と一対一のあいさつ回り」だ。もちろん、横山もかつては苦悩していた。「渡しても、渡しても、渡した直後に自分の名刺を捨てられる時間を過ごしてきました」だが、一対一のあいさつ回りで、自民党支持者から「今の自民党はダメだ」という言葉を引き出し始めた。「歩いてこそ、空気の変わり目が分かるんです」。横山は言う。